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ウポポイ・国立アイヌ民族博物館 視察研修レポート(2022.11.20)

■研修の目的・スケジュール

2022年11月20日、ウポポイ・国立民族博物館にて研修視察を行った。
今回の視察では以下の4つのポイントを確認すべく、各施設を見学した。

1.ウポポイを訪問希望するお客様への観光案内を充実させる為の情報収集
2.ターゲット年齢層の確認
3.訪問する際に必要な時間、施設までのアクセスの確認
4.観光施設としてのアピールポイントを探る

研修へ向かう数日前にも、窓口にてウポポイへのアクセスや滞在時間はどの位必要かなど聞かれる事があった。今後もシーズンを問わずウポポイを訪れたいと思う観光客は一定数いると思われ、窓口対応に活かせる様な体験をしようと研修へ向かった。

当日は、全ての施設の見学・プログラムへの参加を目標に以下のスケジュールで行動した。

10:00 ウポポイに到着、博物館へ移動
10:15 博物館シアタープログラム「世界が注目したアイヌの技」
10:30 博物館を見学
11:15 博物館シアタープログラム「アイヌの歴史と文化」
11:40 体験交流ホールプログラムの整理券をもらう
11:50 ランチ
12:30 体験映像上映「カムイユカㇻ」
13:00 体験学習館見学、園内を周る
13:30 体験交流ホール「シノッ アイヌの歌・踊り・語り」
13:50 木彫り体験の予約
14:00 伝統的コタンの見学
14:45 工房の見学
15:00 木彫体験
16:00 JR白老駅へ出発

■研修報告

1.   ウポポイを訪問希望するお客様への観光案内を充実させる為の情報収集
・博物館は解放感があり明るく、従来の博物館にある堅苦しさを感じない。 
 館内にベンチもあるので、途中休憩することも可能である。
・アイヌ文化について学んだ経験が無ければ、伝統文化上演や体験プログラ 
 ムに参加することで資料を見るだけとは違う形で文化を経験する事ができ
 る。
・伝統的コタンや工房では、実際にスタッフがアイヌ刺しゅうや織物などを
 作成している。自由に質問する事もでき、作りながら詳しく説明もしてく
 れる。
・併設するカフェで、アイヌ料理を食べる事ができる。その他にもザンギや
 フライドポテトなどの軽食もある。フードコートやレストランも併設され
 ているが座席数が多くない為、お昼時には利用が集中する。

2.ターゲット年齢層の確認
・40代以上の観光客が多かった。
・週末の為小学生位の子供を連れた家族連れも多い。博物館内には子供向け
 の設備やアニメーション上映もある為、子供も十分に楽しめる。
・20代から40代は歴史や博物館鑑賞に興味のある層は行く価値を感じるであ
 ろうが、積極的に旅行プランに組み込むほどにはならないと感じる。

3.訪問する際に必要な時間、施設までのアクセスの確認
・博物館の見学のみであれば映像プログラムも含め、3時間あれば十分に堪
 能する事ができる。
・伝統的コタンの見学やその他のプログラムに参加したりする際は、スケジ
 ュールの組み合わせが必要な為、プラス3時間ほどの時間を要する。
・白老駅からウポポイまでのアクセスは徒歩10分程である。歩くのに支障が
 ない限り通常は問題ないが冬場は強風や大雪などの際は周りに遮る物がな
 い為、歩きにくくなるであろうと考えられる。
・駅からは市内をめぐるコミュニティバスがウポポイを経由している。時間
 が合えばバスを利用する事も可能である。

4.観光施設としてのアピールポイントを探る
開園から数年なので、全ての施設が新しく利用しやすい。博物館の設備や
 近代的なデザインなどは一度見てみてもよい。
・ポロト湖の周りに各施設があり、途中芝生のエリアやベンチに座って湖を
 眺める事ができる。ただし冬場はかなり冷え込む為、外で長居は出来な
 い。
・体験プログラムが充実しているので、博物館見学にあまり興味のない方で
 も楽しめる要素がある。

■JR白老駅からエントランスまでのアクセス

JR白老駅からウポポイまでは徒歩7分から10分ほどである。
道なりに歩くだけなので、迷うこともない。駅にはコミュニティバスのバス停があり、時間が合えばバスに乗車してウポポイまで行くこともできる。

バス停

実際に行くまで知らなかったが、ホームについてからは階段を上り連絡通路を通って線路の反対側に出なくてはいけない。降りてすぐ改札と駅舎があるのだが、ウポポイとは反対側にある為ここは利用しない。
(遠回りとなるが駅前を歩いて線路を渡りウポポイに行く事も可能)

ホーム

一応表示があるが、少々わかりにくい。連絡通路の真ん中に係員がおり、そこで切符を回収される。帰りもここで切符にスタンプを押してもらい、ホームに降りるという形になる。

ウポポイの入り口についてからは長い通路があり壁にはイラストが描かれていて、ちょっとしたテーマパークの入り口の様な雰囲気である。

エントランス
エントランス
エントランス

■カフェ・レストラン・ギフトショップ

入口の手前にカフェやレストラン、ギフトショップがある。
入場しない人も利用出来る様にゲートの外にある為、お昼を食べる際に一度園内から出なくてはいけないのが不便であった。
アイヌ料理のオハウセットはボリュームが充分あり、あっさりとした味のスープが美味しかった。

ショップ
ショップ
ショップ
オハウセット

■国立アイヌ民族博物館

入場してすぐ正面にあるシックな色合いの建物で、1階はシアターとショップ、休憩スペース、図書ルームがある。図書ルームにはアイヌ民族に関する書籍の他子供向けの絵本もたくさんあった。

2階は展示スペースとなっておりドームの様な作りが解放感を出している。アイヌ民族の歴史や文化、現代におけるアイヌ民族のルーツを持つ人々の活躍などについての展示が並んでいる。ここにも子供が遊べるスペースがあり、絵本や動物の人形などがたくさん置いてあった。
(開業当初から、コロナ禍の為使用禁止となっているのが残念である)。

中央のベンチにはタッチスクリーンが備え付けられており、展示されている内容のサマリーを画面上で見ることが出来る。スペース内を巡回するのが大変な人達でも十分内容を把握できるため、とても良い設備である。

展示物に関しては、道民にとってはどことなく既視感を抱く物が多いように感じた。歴史や文化を一通り展示する為それぞれの内容を掘り下げるのは容易ではないのかもしれないが、国立の博物館としてはもう少し内容に工夫が欲しかった所である。

道外や国外の観光客がアイヌ民族についての歴史を知るには、十分な展示内容である。

国立アイヌ民族博物館
国立アイヌ民族博物館
国立アイヌ民族博物館

シアタープログラム

この日は2つのシアタープログラムを鑑賞した。

「世界が注目したアイヌの技」

入場してすぐの時間帯だった為、シアター内には10人ほどしか座っていなかった。
世界各地の博物館にてアイヌ民族に関する展示が常設されているという内容だった。ロシアの博物館は主に衣服、アメリカの博物館は楽器など、イギリスの博物館では現代アートの展示がされているなど、新しく知る情報が多かった。

「アイヌの歴史と文化」

やはり歴史を知りたい人が多いのか、このプログラムでは8割程の席が埋まった。動物がナビゲーターとなり歴史と文化を紹介していくEテレの教育番組の様な作りで、子供はもちろんの事大人でも飽きずに見ることができた。

アイヌ民族の始まり・社会の生成から松前藩に支配されていく過程、そして明治時代における政府の抑圧までを説明される。
途中年代が前後して追加の話が出てきたりする為繋がりが分からなくなる部分もあるが、博物館の展示を見る前に鑑賞すると展示の内容もより理解できると感じた。

■伝統的コタン

施設内の一番奥に、伝統的コタンのエリアがある。
全部で4つのコタンが設置されており、それぞれ中に入って見学する事が出来る。コタンの中では、スタッフが木の皮から繊維を作って実際に織物をしている様子を見ることが出来た。

チセ
チセ
チセ

その他にも色々なプログラムが実施されており、この日はスケジュールが合った口承文芸実演とアイヌ語学習プログラムに参加した。

アイヌ語学習プログラムではアイヌ語のアクセントのルールや発音の仕方を教わり、普段はただカタカナを読んでいただけだったがアイヌ語のアクセントのつけかたが実は全然違ったことに驚いた。

小学生の子供も、その他の大人も楽しんで参加しているようであった。
コタンの中は床暖になっているので、冬場はプログラムに参加しながら暖を取るのも良い。

■工房

伝統的コタンの手前にある工房では、スタッフが実際にアイヌ刺繍を制作している様子を見学でき、自由に質問する事もできる。刺繍の作業はとても細かく、大きな作品を作るのには相当の時間を要するのだと感じさせられた。

工房内にはアイヌ民族に関わる様々な作品が展示されている。実際に手を触れる事が出来る作品も多いので、こんな感触なのかと驚く物もあった。伝統的な作品以外にも、現代アートの作品も多数展示してある。

工房
工房
工房

木彫り体験

工房で行われている木彫り体験に参加した。
木には予めアイヌ模様が鉛筆で書かれており、その上を彫刻刀で彫っていくというものだった。彫刻刀を使うのが意外と難しく、線を外れてしまったり斜めになったりと思っていた以上に苦戦した。60分の予定時間ギリギリまでかかったが、なんとか完成する事が出来た。

木彫り体験

この時間帯は私しか参加者がいなかったが午前中は8人ほど参加していた様で、小学生でも保護者と協力しながら作品を完成させられるそうだ。

■体験交流ホール

博物館から数分歩くと体験交流ホールがあり、映像上映や伝統芸能上演のプログラムが行われている。
併設するチケットブースにて事前に座席番号の書かれた整理券をもらう必要がある

体験交流ホール
体験交流ホール
チケット

上映・上演プログラム

短編映像上映「カムイユカㇻ」
アイヌ民族に伝わる2つの昔話が上映された。周りに座っていた子供たちも見入っていた様子だった。映像はスクリーンだけでなく床面まで映し出される作りで、映画館とはまた違う立体感があった。

アニメーションが少し渋めだったので、日本昔話の様なポップな作りのアニメーションであったらもう少し気楽に楽しめそうである。

伝統芸能上演「シノッ アイヌの歌・踊り・語り」
このプログラムは園内でも一番人気という事もあり、1日を通して何公演も行われているがこの回もほぼ満席であった。

上演する時間帯によって内容が変わるらしく、この回ではイヨマンテの踊り、ムックリの演奏、座り歌などを鑑賞した。初めて体験する人には新鮮であると思われる。

ステージとの距離が近いため、表情や音などをリアルに感じる事が出来る。全部合わせて20分程のプログラムの為あっという間に終わってしまった。
それぞれの演奏や踊りを長く鑑賞する事が出来たらと感じた。

■研修を終えて

実際に施設を見学し体験に参加した事で、パンフレットには載っていないリアルな情報を提供できるだろうと感じている。

これから冬場に観光する場合は寒さ対策が必要な事や、帰りの時間に合わせてどの順番でどこをメインに周ったら良いかなどアドバイスしていきたい。

札幌や新千歳空港からも簡単に行くことが出来るので、日帰り観光又は飛行機までの時間がある方にお勧め出来そうである。

今回はオフシーズンで施設内の見学以外のイベントなどが行われていなかった為、春や夏にはまた別の楽しみ方が出来るのか気になる所である。

今後はいかにリピーターを増やすかという事が課題になると思われるが、前に訪れた時にはなかった展示やイベントが頻繁に行われる様になれば、案内所でもオススメしやすくなると感じている。

(reported by MH)

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