メルマガ『東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─』第378号「単方」(内景篇・精)12

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 ◇ 東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─ ◆


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  第378号

    ○ 「単方」(内景篇・精)

        ◆ 原文
      ◆ 断句
      ◆ 読み下し
      ◆ 現代語訳
      ◆ 解説

      ◆ 編集後記

     
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 こんにちは。「単方」の「桑〓(虫票)蛸」です。
 
 ◆原文◆(原本の文字組みのままを再現・ただし原本は縦組み
      ・ページ数は底本の影印本のページ数)


 (「桑〓(虫票)蛸」「原蠶蛾」」p86 上段・内景篇・精)


  桑〓(虫票)蛸
 
     益精氣又主漏精蒸過搗
     末和米飮服或作丸服本草


  原蠶蛾

     益精氣止泄精灸爲末
     或散或丸服皆佳本草


 ▼断句▼(原文に句読点を挿入、改行は任意)


桑〓(虫票)蛸

  益精氣、又主漏精。蒸過搗末、

  和米飮服。或作丸服。本草。

 
 原蠶蛾

  益精氣、止泄精。灸爲末、或散、

  或丸服、皆佳。本草。


 ●語法・語釈●(主要な、または難解な語句の用法・意味)


 ▲訓読▲(読み下し)

桑〓(虫票)蛸(そうひょうしょう)

  精氣(せいき)を益(ま)し、また漏精(ろうせい)を

  主(つかさど)る。蒸(む)し過(すご)し搗(つ)き

  末(まつ)し、米飮(べいいん)に和(わ)して服(ふく)す。

  或(あるひ)は丸(がん)と作(な)して服(ふく)す。

  本草(ほんぞう)。

 
 原蠶蛾(げんさんが)

  精氣(せいき)を益(ま)し、泄精(せつせい)を止(とど)む。

  炙(あぶ)りて末(まつ)と爲(な)し、或(あるひ)は散(さん)、

  或(あるひ)は丸(まる)めて服(ふく)すも、皆(み)な

  佳(よ)し。本草(ほんぞう)。

 ■現代語訳■
  
桑〓(虫票)蛸

  精気を益し、また漏精に主として用いる。

  蒸してから搗き、粉末にして重湯に溶かし服用する。

  あるいは丸薬として服用する。『本草』
 
 原蠶蛾

  精気を益し、泄精を止める。

  炙って粉末にし、または散薬、また丸薬として

  服用しても、全て良い。『本草』

 ★ 解説 ★

 精の単方のうち、桑〓(虫票)蛸と原蠶蛾です。どちらも虫由来の生薬で、虫がお好きでない方は原料を知ったら飲めないものでしょう(笑)。

 実は笑い事ではなくこれはなかなか重要なことで、服用している原料を知らせた方が良いのか、そうでないのかは効果にも関わる点ではないかと思います。

 この生薬のように、もし虫が嫌いな方に、原料が虫であることを知らせた場合、心理的、生理的に拒否反応が出るかもしれません。

 また反対に、ある場合には、これは非常に高価で貴重な薬だと言い含めれば、プラシーボも加味されてより効果が高くならないとも限りません。
 プラシーボで効くことが良いのか良くないのかはひとまず別問題として、心理的・生理的な影響は否めないのではと思います。
 
 実はこのテーマ、東医宝鑑にも出ていて、例えば後の「胞」の章の単方に牡鼠屎、つまりオスのネズミの糞ですが、これが独身女性で月経が来ない者を治し、しかも「神效」があるとその効用を絶賛しているのですが、但し書きに、「勿令知(知らしむことなかれ)」つまり、何を飲ませるかを知らせてはならない、と言っています。

 その理由は書いてありませんが、おそらく女性にネズミの糞を飲ませることにより、嫌悪感を生じることを避けるためではないかと考えられます。
 先人はそのような点にまで配慮したことを示す部分と思います。

 余談ですが、この東医宝鑑には、患者に治療することを知らせてはいけないとする治療法が他にもあるのですが、それはここでの話題とは少し趣旨が違うのでここでは触れず、またいつかコラムなどで取り上げることとしたいと思います。

 先行訳はどちらも効用の「益精気」を「精気を補強し」としています。訳者さんはこの「補強」がお好きだったようで、この単方に入ってからここまでで6回、補強という言葉を用いています。

 詳細を見ると今回のように「益」を「補強」としているようですが、「益」を「補強」としていないところもあり、不統一になっています。

 「益」を「補強」とする訳の良否はご検討いただけたらと思います。

 それより今回問題なのは、桑〓(虫票)蛸の「米飮服」を「米飯とまぜて食べ」としている点で、「飮」つまり「飲」ですが、これを「飯」と読んでしまったことによる誤読、誤訳ですね。

 漢字の表面上ではわずかな違いですが、それぞれの漢字と意味の違いは大きく、解釈の結果もこのように全く違ったものとなってしまうので、漢字の読みには注意が必要という例と言えます。

 ひとつ間違うと、その先のずれがどんどん大きくなるのですね。
 この場合は「飲」を「飯」と読んでしまったために、次の「服」は通常「服用」の「服」であるはずですが、この場合「飯」と解釈してしまったので、それに引きずられて「服」までが「食べる」となってしまったというわけです。

 普通は他の部分にずれや齟齬を感じた段階で、どこかに解釈や読みの誤りがあると気づけるのですが、この場合は「服」が「食べる」でもさほど違和感がないために、そのまま「飯」の誤りに気づけず、「服」まで誤って読んだままになってしまったということになります。

 先行訳をお持ちの方は補足してくださればと思います。

 ◆ 編集後記

 単方の桑〓(虫票)蛸と原蠶蛾です。今号は二つでお届けすることができました。次号も複数取りあげてお届けできたらと思います。

                      (2020.08.16.第378号)
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