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酒と女

  酒と恋愛は似ている。
  感情が剥き出しになりやすいこと。無くても人生は成り立つけど、あったほうがより豊かな人生になる(と主張する人々が少なくない)こと、好みは人それぞれであること、人によって適切な分量は違っていて、摂り過ぎは身の破滅を招きかねないこと。

  酒との付き合い方がわかったのは結構最近だ。現在40歳であることを考えると、だいぶ遅いと言わざるを得ない。僕は酒に強くない。そのため、飲むことを強要する奴らには辟易していたし、飲み放題コースでは少し無理やり烏龍茶を飲んで抵抗していた。そんな体験から、 酒はとことん飲める人と全然飲めない人がいて、飲める人は文字通り強く、弱い人を圧倒できるのだと知った。酒をガバガバ飲めて楽しんでいる奴らがうらやましかった。「酒を飲んで昨日の記憶が無いんだよ」と驚きつつもどこか嬉しそうに話す奴らは、なんだか別世界を体験してきた人々のように見えて、楽しそうだった(もっとも、僕自身が本当に記憶をなくしたら恐怖で青ざめるとも思うけど)。
飲める奴らに圧倒された経験から、僕は酒は嫌いだと思っていたのだけど、そうではなかった。実際は酒にまつわる人間関係や強要などの文化が嫌いなだけであって、酒自体を嫌う理由は無かった。素晴らしいコンサートを見た後やバックギャモンで勝った時の一人祝勝会にビールは欠かせなくなってるし、自宅で呑みたくなったときは自分で酒のツマミを作ることもある。料理として、酒のツマミが好きだということがわかってからは、この傾向がさらに強くなっている。

  一方で、恋愛との付き合い方・適切な距離は未だにわからない。10代20代の頃は、全く彼女ができなかった。そもそも友達もいなかったので、彼女を作る前にそっちを解決すべきだったのだけど、当時は対人関係全般に関する問題が大き過ぎて、対処の仕方が全然わからなかった。
恋愛関係に関する強迫観念とレッテル貼りは酒以上に悲惨だった。「彼女がいないと言う事は人格的に問題がある」というレッテルは、若さに由来する性欲への振り回されっぷりも含め、精神を病むレベルでつらかった。このレッテルは自分を苦しめるだけで何かを改善することができない類のものなので有害極まりないが、当時はこのレッテル・強迫観念から全く逃れることができなかった。
  酒の場合は「職場やサークルで大勢で飲む」以外の選択肢「一人で飲む」が酒嫌いの理由を明確にしてくれたおかげで、強迫観念から逃れられた。しかし恋愛の場合は、必ず相手が必要になる。相手がいなくて始めようが無く、正体がわからないモノの分析はしようがなく、ましてや強迫観念から逃れられることはとてもできなかった。
  (少し脱線するけど、「不特定多数からモテなくても、自分を好きでいてくれる人がいればそれでいいじゃないか」という言説が、モテたいと願う男性に対して投げかけられることがある。冗談じゃない。(僕も含めた)モテない男性が苦しんでいるのは、そもそも彼女ができないことであり、「自分を好きでいてくれる人」が一人もいないという事実に苦しんでいるのだ。モテることに憧れを持つのは「彼女ができる、 自分を好きでいてくれる人ができるチャンスが増える」からであって、言い寄られる数の多寡は本質ではない)。

  強迫観念から逃れることができて、レッテルを貼りに来る人物が居たとして「うるせえバカ」と返すことができるのは、「かつて彼女ができたことがあるから」としか考えられない。もし自分が今でも彼女ができず、年齢=彼女いない歴を更新し続けていたとしたら、このレッテルに未だに苦しんでいたと思う。
  初デートを経験したのは30歳になってからだった。結婚まで考えていた彼氏と別れて落ち込んでいる女友達とたまたま勢いで初めてデートして、彼女ができてそのまま結婚した。そして3年弱で離婚して今に至る。結果、付き合った女性は今のところ彼女だけである。
  初デートでレッドクリフを見た帰り道、ここで彼女が作れなかったらもう一生彼女を作ることも結婚することも無理と思いながら酒を飲んだのを覚えている。その様子は、後日彼女に「『なんかがんばってるなー』と思った」と評されていたが、それはそうだろう。勢いで無理をして酒を飲み、勢いでテンションを上げ、どうやって盛り上げようか全身全霊で考えていたのだから。その時の光景は鮮明に思い出せるけど、何を喋ったかは一切覚えていないから、やはり無理をしていた(無理をして不都合なことがあったとしても目をそらして回避するような生活が長続きするはずもないな、と書いてて思う)。

  恋愛に対する適切な分量はと付き合い方は未だにわからない。恋愛についてあーだこーだとウダウダ言っているのをフィクションで読んでて「しゃらくせえなあ」と思うことがあるので、あまり恋愛には向いていないのかもしれない。それでも、人恋しさや女性への憧憬が沸き起こって苦しいことがあるので、じっと枯れるまで待つ必要があるのだろう。

  余談だが、本記事のタイトルを「酒と女」と名付けた。僕は異性愛者なので恋愛の対象は女性なので、テーマをそのまま名付けたけど、タイトルから、人は昭和の無頼漢のような人物を連想したりするのだろうか。僕は無頼漢とはだいぶ遠い位置に居る小人物で、こういった記事を書くのはおそらくこれが最初で最後という気がしているので、記念に名付けた。いつかは僕も酒と女をしたり顔で語る日が来るのだろうか。

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