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MSXはもう死ねない


MSXが死んでしまうことよりも、MSXが死ねなくなることの方が悲しい。
  中学の時に「MSX・FAN」という雑誌で読んだ編集後記のこの一文を、30年近く経った今でも覚えている。

  かつて、MSXというパソコンがあった。1980年代に生まれたパソコンで、ファミコンと同じようにゲームソフトのカートリッジを差してゲームができるだけでなく、BASICやマシン語でプログラムを組むことで自分でゲームを作ることもできるし、ツールを使えばワープロにもなるしCGも描けるという、当時小学生で字が汚いと怒られていたり、絵が下手くそだと馬鹿にされていた僕にとっては未来と夢を詰め込んだ魔法箱のようなアイテムだった。
  MSXはMSX(以降、規格を表すときはMSX1と書く)、MSX2、MSX2+、MSX Turbo Rと規格が進むに従ってスペックが高くなりできることが増えていった。それに伴ってサードパーティが作るソフトもMSX2やMSX2+準拠が事実上の標準になっていき、MSX1で動くゲームは、雑誌の一部に掲載されている1ページ程度で動く読者投稿プログラムぐらいになっていった。
 

  残念なことにMSXは、X68000K、FM-TOWNS、PC-98といった他のパソコンにハードスペック的に劣ること、ゲームという面でもファミコンという超強力なライバルには勝てず、次第に参加するサードパーティも次第に少なくなり、市場は縮小していった。そんなMSX市場が縮小していく中でも、中学生になった僕はゲームで遊び、プログラムをウンウンうなりながら一人で解読していた。ゲームプログラムの一部を少し変えて、キャラクターの動くスピードやグラフィックが変わった時は、僕はプログラムを理解できたという満足感をを味わっていた。そんな僕にとって、MSX・FANという雑誌はMSXという世界を見るための1本の命綱だった。
  そのMSX・FANの編集後記に書かれていたのが、冒頭の文章である。 MSXは2、2+と規格が進むに従って、MSX1が日の目を見ることが少なくなっていった。MSXはMSX1を殺して今に至る。MSXが進化したからこそ、昔のMSXを殺す、あるいは死なす必要があったのだ、と。

  この編集後記が書かれた時には、もうturbo R以降の規格の話は出てこなくなった。
  MSXはもう死ねなくなったのである。

  MSX1が死んだことは暗い話ではなかった。もっと良いMSX2という規格が生まれ、それに準拠したパソコンがあり、そこで動くプログラムがあったからだ。MSXは進化したからこそ、MSX1を殺す必要があった。MSX1が死ぬからこそ、MSX2以降がより活きる。そしたらもっと良いスペックのマシンができて、できることが増えて、もっと楽しいゲームやあっと驚くCGが描けたりするんだ。
  その未来は、もうMSXにはない。次世代の規格も生産してくれるメーカーもない。MSXは死ねなくなったということは、MSXに未来はないのだ、と言われているのと同じだった。
  結局MSXは、1995年に最後のMSX生産が終了して、歴史の幕を下ろした。

  僕が持っているiPhoneはiPhone X。今、iPhoneのOSアップデートが終わった。iOS13だ。もうAppleはiPhone3GSやiPhone5のサポートを終了していて、ソフトもほどんど動かない。
  iPhoneは3GSや4・5と、昔のバージョンを殺し続けている。iPhoneは死ねる。未来があるからだ。でも今の僕には、これからどんな未来が見えるのか、あまり想像できていないし、ワクワクするような感情も持てていない。できることが増えるかもしれないけど、それは自分の中にあった概念が全く変わってしまうような驚きは無いのだろうな、という諦めにも似た気持ちを持っている。

  最近になって、「ファミコンミニ」「スーファミミニ」に加え、さらには「PCエンジンミニ」「メガドラミニ」と、昔のゲームハードにたくさんの名作ゲームを収録したミニシリーズが発売されて人気を博している。

  我々30代・40代を狙い撃ちにしてるなと思いつつ、ネットでは収録ソフトで大盛りあがりをみせている。僕も懐かしさを覚えて話題にするのだけど、もうファミコン・スーファミ用のタイトルがリリースされることはないし、実際に本体を購入するユーザーも、もう多くはないだろう。ファミコンミニやスーファミミニが出ることで昔のゲームができることを嬉しく思う一方で、ミニシリーズは魔法箱というよりは、時間の止まった標本としか見えないでいる。そういうわけで、ミニシリーズを見ると、もう死ねなくなったゲームハードの姿をそこに見てしまい、なんだか悲しくなるのである。

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