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群論入門part8 準同型

part9を投稿するかどうかは筆者にもわかりません
※part7はこちら
※誤植、間違いがあれば教えてください
※大幅な追記、改訂をするかもしれません

8.1.準同型

※part8まできて群の定義を忘れかけてきている方はpart1の記事を参照

定義1
2つの群A,Bに対し、それぞれの群上の演算を・,×とする。写像F:A→Bと任意の元a,b∈Aに対し、
F(a・b)=F(a)×F(b)が成り立つとき、FをAからBへの準同型写像、または単に準同型という。

※以降、特別な事情がない限り・や×といった演算記号は省略する。

以下ではまず、準同型の基本的な性質を命題として紹介し、次の7.2節で準同型の例を紹介する。筆者としては、読者に次節の各々の準同型が以下の命題を満たすかどうか確かめながら読んでもらいたいと考えている。

また、準同型の性質なんか興味ないわ!という方は次節までスキップしても構わない(泣)

命題1
群A,Bと準同型F:A→Bに対し、A,Bの単位元をそれぞれe,e'とすれば
F(e)=e'が成り立つ。

証明
F(e)=F(ee)=F(e)F(e)が成り立つので、両辺にF(e)∈Bの逆元をかければ
e'=F(e)を得る。


命題2
群A,Bと準同型F:A→Bに対し、元a∈Aの逆元をa⁻¹、F(a)∈Bの逆元をF(a)⁻¹とすれば、F(a⁻¹)=F(a)⁻¹が成り立つ。

証明
F(a)F(a⁻¹)=F(aa⁻¹)=F(e)=e'、F(a⁻¹)F(a)=F(a⁻¹a)=F(e)=e' ▢


命題3
群A,Bと準同型F:A→Bに対し、KerFはAの正規部分群となる。ただし、KerFは{a∈A|F(a)=e'}で定義される集合である。

※正規部分群の定義はpart7の定義1を参照
※以降のほぼすべての命題の証明では次の事実を用いている

証明
a,b∈KerFに対し、F(ab⁻¹)=F(a)F(b)⁻¹=e'e'⁻¹=e'となるので
ab⁻¹∈KerF。これよりKerFはAの部分群となる。
また、任意の元c∈Aとd∈KerFに対し、
F(cdc⁻¹)=F(c)F(d)F(c)⁻¹=F(c)F(c)⁻¹=e'となるからcdc⁻¹∈KerF。
以上からKerF◃A。▢

Rem
KerFをFのという。また、以降に登場するImFをFのという。


命題4
群A,Bと準同型F:A→Bに対し、KerF={e}⇔Fは単射が成り立つ。

※単射の定義は「群論入門part2.2」の定義2およびその2つ下のRemを参照

証明
まず⇒を示す。
a,b∈Aに対し、F(a)F(b)⁻¹=F(ab⁻¹)=e'ならばab⁻¹∈KerF={e}より
ab⁻¹=eとなる。以上からF(a)=F(b)⇒a=bが成り立つのでFは単射。
次に⇐を示す。
まず命題1からe∈KerFである。またFは単射であるから、
元a∈Aに対しa≠e⇒F(a)≠F(e)=e'が成り立つ。
以上からKerF={e}を得る。▢


命題5
群A,Bと準同型F:A→Bに対し、CがAの部分群であるとき、F(C)はBの部分群となる。

※F(C)は{b∈B|F(a)=bとなる元a∈Aが存在}で定義される集合である

証明
a',b'∈F(C)に対し、F(a)=a', F(b)=b'を満たすa,b∈Cが存在する。
ここでab⁻¹∈Cであるから、a'b'⁻¹=F(a)F(b)⁻¹=F(ab⁻¹)∈Cを得る。
これより、CがAの部分群ならF(C)はBの部分群。▢


命題5の系
群A,Bと準同型F:A→Bに対し、ImFはBの部分群となる。

※ImFの定義は「群論入門part0」の定義1の下の補足を参照

証明
ImF=F(A)であり、AはAの部分群であるため。▢


命題6
群A,Bと準同型F:A→Bに対し、C◃A⇒F(C)◃F(A)が成り立つ。

※C◃Aとは「CはAの正規部分群」という意味だった(part7の定義1)

証明
A,CはいずれもAの部分群であるからF(A),F(C)はいずれもBの部分群であり、かつC⊂AなのでF(C)⊂F(A)。これよりF(C)=F(A)∩F(C)はF(A)の部分群であることがわかる。
また、任意の元a'∈F(A)とb'∈F(C)に対し、F(a)=a',F(b)=b'となるa∈Aとb∈Bが存在し、aba⁻¹∈Cとなるので、
a'b'a'⁻¹=F(a)F(b)F(a)⁻¹=F(aba⁻¹)∈F(C)を得る。▢


命題7
群A,Bと準同型F:A→Bに対し、DがBの部分群ならばF⁻¹(D)はAの部分群となる。

※F⁻¹(D)は{a∈A|F(a)∈D}と定義される集合である。

証明
a,b∈F⁻¹(D)に対し、F(a),F(b)∈DでありDはBの部分群なのでF(ab⁻¹)=F(a)F(b)⁻¹∈Dが成り立つ。よってab⁻¹∈F(D) ▢


命題8
群A,Bと準同型F:A→Bに対し、D◃B⇒F⁻¹(D)◃A。

証明
命題8よりF⁻¹(D)はAの部分群である。
また任意の元a∈Aとb∈F⁻¹(D)に対し、F(a)∈B, F(b)∈DとなりD◃Bなので
F(aba⁻¹)=F(a)F(b)F(a)⁻¹∈Dが成り立つ。よって、aba⁻¹∈F⁻¹(D)。▢


命題9
群A,B,Cに対し、写像F:A→BとG:B→Cがどちらも準同型ならば、
合成写像G◦F:A→Cも準同型である。

証明
任意の元a,b∈Aに対し、
(G◦F)(ab)=G(F(ab))=G(F(a)F(b))=G(F(a))G(F(b))=(G◦F)(a)(G◦F)(b)を満たすため、G◦Fは準同型。▢


8.2.準同型の例

例1
Hが群Gの部分群ならば、包含写像H→G:h↦hはHからGへの準同型である。

※包含写像H→GをしばしばH↪Gで表すことがある

例2
Nが群Gの正規部分群ならば、自然な写像G→G/N:g↦gNはGからG/Nへの準同型写像となる。(自然な写像の定義はpart5の定義3を参照)

例3
xを群Gのある元として、写像FₓをFₓ:ℤ→G:n↦xⁿと定義するとこれは準同型写像である。実際、m,n∈ℤに対し、Fₓ(m+n)=xᵐ⁺ⁿ=xᵐxⁿ=Fₓ(m)Fₓ(n)が成り立つ。(xⁿの定義はpart3の定義4を参照)


※例4では置換の符号sgnが登場する。sgnの定義を忘れた方は群論入門part2.1の定義3を参照。それ以前に置換、対称群を忘れたかたはこちら

例4
n次対称群Sₙに対し、置換の符号sgn:Sₙ→{±1}は準同型である。(ただし、{±1}は掛け算×によって定義された単位元1の群とみなす)
実際、n次の置換σ,δがそれぞれm個,n個の互換の積(ただしm,nは非負整数)で表されるとき、m,nはそれぞれ奇数か偶数かが定まっており
・m,nの偶奇が一致するならsgn(σ)sgn(δ)=1であり、
一方σδは偶数個の互換の積で表されるためsgn(σδ)=1を満たす
・m,nの偶奇が一致しないならsgn(σ)sgn(δ)=-1であり、
一方σδは奇数個の互換の積で表されるためsgn(σδ)=-1を満たす
以上からsgn(σδ)=sgn(σ)sgn(δ)を満たす。

以上

追記
part9を投稿しました。同型と二面体群についてです。


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