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放送作家に聞いた、「ウケる文章」を書くコツ4つ


皆さん、こんにちは。作家のエージェントとしてプロデュースしている、放送作家の渡辺龍太さんが1月24日に新刊『ウケる人、スベる人の話し方』(PHP研究所)を発売します。今回は新刊の発売に際して、特別インタビューをお届けします。

数多くのお笑い芸人を研究し、ご自身もブログや書籍で執筆されている、渡辺さんが考える「ウケる文章術」とは?面白いエピソードを書きたいと思っている方、必見です。インタビュアーは、本コラムを書いている遠山が務めます。

ー渡辺さんは現在放送作家として活躍されています。また、ご自身はアメリカでインプロという即興術を使ったコミニケーション術を体得。過去にはキャイーンの天野ひろゆきさんのメルマガや、関暁夫さんの都市伝説シリーズなども手掛けていました。そんな渡辺さんが考える、ウケる文章を書くテクニックとは何でしょうか。

(渡辺さん)ウケる文章術についてお話する前に、まず視点の重要性を皆さんにお伝えしたいです。文章を書く前に、皆さんも書く話題を探しますよね。そもそも、面白いネタをどうやって探していますか?僕は2種類の方法があると思っています。一つ目には体の行動量を増やすこと、二つ目には頭の行動量を増やすことです

例えばヨッピーさんみたいにネットで活躍している面白系ライターの方は、行動量が多いタイプでしょう。人がやらないようなことにチャレンジして、それをネタにして面白く見せている。珍しいことに取り組むのは、それだけで一つのネタになりますよね。

でも、いつも変わったことをし続けるのは、なかなか大変です。体を使って行動するには、お金も時間も労力もかかります。ではどうするかというと、頭の行動量を増やして物事を俯瞰的に見てみるんです。

ー俯瞰的に見る?

(渡辺さん)一見、おもしろくないようなことも俯瞰的に見ることで、おもしろく見えることがあります。僕の本業は放送作家なので、お笑い芸人のはだか芸の稽古に付き合ったことがあります。はだか芸というのは、芸人がはだかになって体を張った芸や掛け合いを見せるもの。年末とかによくそういった番組がありますね。通常の番組と同様、はだか芸にもリハーサルがあります。普通、練習風景なんて面白くないものです。みんな真剣だし、何度も何度も同じ練習をしているし、時には怒号も飛びます。

でも、僕はそれが面白いと思ったんですよ。いい大人が一生懸命になって、笑いを取るためにはだか芸に取り組んでいる。失礼かもしれませんが、その一生懸命さが逆に笑える光景だなと思って。笑わせようとしているネタそのものよりも、その取り組む姿が面白いと感じました。

はだか芸の稽古は特殊な経験かもしれませんが、他の経験でもこういう風にとらえ方を変えることはできます。誰かが真剣に怒ったり泣いたり、悲しんだりしていることだって、見方を変えれば面白くもなる。

自分の残念なエピソードだって、自虐にしてしまえば笑いになります。フラれてしまって悲しい。その痛みを引き受けて、話題のネタとして昇華してしまえば、自分の笑えるエピソードの一つになります。自分や周辺に起こっている出来事を、一度客観的に見ることをお勧めします。そうすれば、何か新しい面白さに気付けるかもしれません。

ーなるほど。ではそのとらえ方をして見つけた面白さを、どうやって文章にするのでしょうか?

(渡辺さん)それには2つのテクニックが要ります。一つ目には、読者と前提条件を共有すること。二つ目にはギャップを生み出すこと

まず、一つ目の読者と前提条件を共有する重要性について。この視点が抜け落ちている方はとても多いと思います。皆さんはこういった経験がありませんか?「すごく面白い人がいるんだよ」と言ってエピソードを言われたけど、あんまりおもしろくない。話し手は楽しそうなのに、おもしろさがこちらに伝わってこない。

ーありますね。

それって、話し手が前提条件を説明していないからなんです。まず、どういう状況の話なのか?話し手とその面白い人の関係は?その面白い人はどういうキャラクターなのか?

話し手は、これらの情報をすでに知っています。でも、聞き手(読者)はそれを知りません。情景が思い浮かばないものに対して、面白さを感じることは困難です。聞き手がシーンを頭の中で再現できるように、ちゃんと説明してあげる必要があります。つい、自分の面白いという感情に引きづられがちですが、客観的に情報を振り返って、再構成する必要があります。

もっとも、情景を思い浮かべるためには情報が必要ですが、取捨選択は必要です。「読者の理解を深めるために、何の情報が必要なのか?」という視点に立って、必要な情報だけ伝えましょう。その話を始めて聞いた人にも分かりやすくすること、を意識して書いてください。

ー確かに、必要な情報の取捨選択のできている文章は、少ないと感じています。では、二つ目に挙げているギャップを生み出す、とはなんでしょうか?

(渡辺さん)実は、笑いとは意外性のあることに対して発生しています。僕は以前、ブログで「ドナルド・トランプはビートたけしと理解せよ」というタイトルでブログ記事を書いたことがあります。この記事が評判を取って、数万アクセスがありました。記事では、なぜトランプ氏がアメリカの田舎に住む人に支持されているのかを、トランプ氏をビートたけし氏に例えて説明したものです。この記事もギャップを意識して作られています。

もしこの記事のテーマが「ドナルド・トランプは橋下徹と理解せよ」だとしたら、違和感は持ちづらいのではないでしょうか。二人とも同じ政治家というジャンルに属しているので、例えとしてそこまでギャップがありません。でもドナルド・トランプ=ビートたけしは意外性があって、どこか面白みを感じさせます。


例えとして適切ではない、と思う人もいるかもしれません。ですが、一歩踏み出して予想もつかないギャップをタイトルや構成、テーマでつくり出すことによって、思いもよらない面白さは生まれるものです。


さらに、テーマだけではなく話のオチについても、ギャップを作って強調することを意識すると、面白く読ませることができます。新刊にも書いたエピソードを例にして解説します。

複数の後輩と旅行する計画を立てていたのですが、ある1人から出発直前にドタキャンにあったんです。その理由が、あまりにも馬鹿馬鹿しすぎてびっくりしました(笑)。後輩にドタキャンの理由を聞くと、「自主映画の制作のため」だって言うんです。「何で急に映画を撮ることにしたの?」って聞いたら、「金欠だったから」という返事が。訳が分からなくなって、さらに「どういうこと?」って聞いたら、自分なら映画祭で賞金が取れると思って、自腹で生まれて初めて映画撮影をしたらしいんです。当然ながら、撮影はあまりに大変で旅行に行けなくなってしまったって。ちなみに最終的に入賞すらできずに、制作費だけがかかったみたいです(笑)

最初、「旅行のドタキャンが起きた」と言った瞬間に、読者はその理由を想像しはじめます。重要なのは、その次の発言で「その理由が、あまりにも馬鹿馬鹿しすぎてびっくりしました」としているところです。なぜなら、この部分で、読者に「一般的な理由ではない、馬鹿馬鹿しいドタキャン理由って何だろう?」と、想像を促しているからです。

その後、ドタキャンの理由が「自主映画の制作」であると明かされます。おそらく、理由を聞く前に「自主映画の制作」が理由だと想像できる人は、1人もいないのではないでしょうか。このギャップを生み出すような仕掛けがあるからこそ、その結末に読者は意外性を突かれて笑いが生まれるのです。

このように、読者にこの先の展開を考えさせる箇所を設けたうえで、裏切るようなオチを用意しておくと、読み手に驚きと笑いを生じさせることができます。もちろん、意外性のあるオチを用意しようとして、嘘を付くことはおススメしませんが、話の結末から逆算してうまくギャップを生み出せるような話の組み立てかたにすることは、とても有用だと思います。


面白くて笑いの取れる文書というものは、多少の批判がくることも当然ながらあります。なぜなら人目を引くようなものには、その逸脱や意外性ゆえに受け入れられないこともあるからです。でも、そういった反応が返ってくることを怖がらずに、チャレンジしてほしいと思います。

ーありがとうございます。今回の新刊は、ウケる人とスベる人の話し方の特徴について、様々なお笑い芸人の話術から解説した本になっています。あらためて、この本はどういった経緯で書かれたのでしょうか。


(渡辺さん)「素人お笑い評論家」のような人が、巷にあふれていると感じています。つまり、お笑いが分かった気になって他人に対して、「そこはもっとこうしろよ」とか「そんなのは面白くない」とかツッコむような人です。

背景としては、テレビのバラエティ番組で芸人のフリートークを見聞きする機会が増えたからでしょう。また、松本人志さんに代表されるような「ツッコミ芸」や「穿ったお笑い」というものが一世を風靡したことも関係しています。

しかし、こうした世間によくいる「素人お笑い評論家」は、実社会では煙たがられてスベっていることが多い。なぜなら、一般社会で普通の人が笑いを取る方法と、テレビでお笑い芸人が笑いを取る方法は、異なるからです。


僕は、ウケるということはそんな尖った感性からではなく、もっと普通で単純なことから生まれていると思っています。日本の多くの人に、肩ひじ張らずに面白く話すことはできる、ということを伝えたくてこの本を書きました。


話し方というところに焦点をあてていますが、ウケるとはどういうことかを分析して書いているので、面白い文章を書きたいと思っている方にも参考になると思います。

ーありがとうございました!


※書籍内容を一部cakesにて無料公開しています。


著者プロフィール
放送作家、即興力養成講師(ハリウッド流インプロ協会会長)
高校生の頃にお笑い芸人を志すも、日本ではスベり続けた末に、一念発起してアメリカへ留学。その際、現地で「インプロ(即興力)」と呼ばれる科学的に研究されたアドリブトーク術と出会い、コミュニケーション能力が劇的に改善。以降、本格的にインプロや心理学を学び、体系的にまとめられた「人間が笑う話のロジックのパターン」の研究に没頭する。帰国後は、インプロで身につけたコミュニケーション能力を活かして、実績ゼロからNHKの番組ディレクターに就任し、放送作家となる。現在は、放送作家として活躍するかたわら、浅井企画メディアスクールでインプロワークショップなどの講師を経験したことをきっかけに、ビジネスマンや学生を対象に、様々な自治体や企業で精力的に講演やワークショップなどを行っている。2018年には、さらにインプロを広めるために、ハリウッド流インプロ協会を設立し、インプロ講師の養成にも注力している。著書に、『1秒で気のきいた一言が出るハリウッド流すごい会話術』(ダイヤモンド社)がある。

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