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親知らず、四本抜歯

あなたがフランスに来た時にはもういました。
あなたが初めてキスをした時も、いました。
演奏家としてサクソフォンを吹いているときも、いました。
妊娠して、出産したときも、いました。
美味しい料理やワインを嗜んでいる時も、いました。
「いないな?」と思った時も、いました。
楽しい時も辛い時も私は側にいました。

かれこれ10年は知らんふりし続けた親知らずを抜いた。
多分20歳くらいにはもうあったはずだ。おそらく14年一緒にいる親知らず。おまえらほんまにおったんやな。レントゲン写真を撮ったら綺麗に横になって生えているわたしの親知らず。さようならをいう時がきた。これで顔をあわせることもなかろう。顔みたことないけど。横に生えてるからおまえら。

冬になり寒さも本格的になってきたパリの一月。歯を食いしばる癖が出来てしまった。しかし親知らずが痛いのか、寒さなのかわからない。年齢的にも食生活的にも、ケアとかが気になる年頃でもある。そうだ。歯医者さん予約しよう。と、ドクトリブ(アプリ)でタイミングよく午後に空きがあり、コンビニ行ってくるわ〜的な感じで予約が取れてしまった。(一年ぶり)

歯医者さんは若い男性の方だった。雰囲気イメケン。「あー、もう抜かないと。これはね。」って前回撮ったレントゲン写真をみて即答する。前の先生は、痛くないんだったら知らんふりできるよ〜(♡)って言ってたのになぁ。日帰りで四本抜こうと言われて、オペの日まで待つ一週間くらいはちょっとストレス()で過食した。

前日に酒も肉もたらふくいただいたパンパンの顔で9時クリニック到着。少し待たされるが、なんやかんやと10時半には終わってた。抜歯オペ自体は一時間ちょいで終わってる。とても優秀。

麻酔は全身麻酔ではなく、歯茎に打つタイプの部分麻酔だった。チクッスーーーツーーーーンっと冷たい感じで痛いときもあったけれども我慢できるほどだ。それより、顎が外れそうで断然そっちのほうが辛かった。むしろ外して出来ませんか?あとで戻して下さいね?とさえ思った。

口の中でギュィィーンガンガンガンガンと工事始まり、それが耳に響き渡る。え?顎とか他の骨まで持っていってない?大丈夫?ってなるくらい引っ張ったり砕いた音とかが耳に鳴り響いて「これまだ一本目やぞ….」とビビる。
麻酔を打ってすぐ抜き始めるので、え?効いてる?まだやろ?と思ってたら案の定まだ全然効いてなくて死ぬかと思いながら、細〜く目をあけて涙のフィルターかましながら今何してんねやろと歯医者さんの手の動きをみてみるけど間違いなくわたしの歯を抜いていたし唾液をアシスタントが吸ってた。

歯医者さんの「elle est la elle est presque la 」(もう出てる、もう出てきてるよ〜)ってやつ、ちょっと助産師さんみたいで感傷的になった。走馬灯というと大げさだがそんなかんじで、いつのまにか抜けてるのも息子産んだ時と同じ「こんなもんか」と思ったことを思い出した。しかし、まだあと三本も残ってる。あと三本も産むのか…..と、何も考えないようにしてたらいつのまにか四本目になって、「vous avez été top ! bravo 」素晴らしかったよ!と言われる。これもデジャヴ。助産師さんも歯医者さんも医者ってすげえ、医療ってすげえ、すげえ医療って、テクノロジー?、医療の進化、時代の変化と発展、すげえすげえ。とありとあらゆることに感謝と感心を抱き、この時代に生まれて良かった……と思った。

帰ってからも麻酔はなかなか切れなかった。全く話せない状態だったが、お腹も空かず疲れで午後は寝てしまった。

麻酔が切れたら地獄が待っていた。
ハンマーで頭殴られてる?ってくらいの頭痛の顎周りの痛み。歯が痛いというか顔のTゾーンではなく、Uの部分がとにかく全部痛い。ちっさいuじゃなくてもうでっかいほう。U。逆にそこしか痛くないのに普通に歩けるのおもろい。なんか身体まで痛くなった気がしてヨロヨロしてみる。全然歩ける。

とにかく二日間、流動食とフライングで痛み止めを飲んで寝る。とにかく寝る。豆腐、アボカド 、じゃがいもピューレ、うどん。人生最後のダイエットと思っていたが、こりゃ全然食べられる。わたしが流動食レシピなんて検索するとは思わなかった。抜歯パイオニアの経験談や漫画、流動食レシピをみて過ごす一日なんて想像していなかった。とにかくヨーグルトはばくばく食える。カルシウム取れるし。って…. いや骨。

翌朝、夫が「この部屋うんこの匂いする」と言って部屋で立ちすくんでいた。
- いや、絶対わたしの口の中から出てるやん。だって血の匂いだけじゃなくて、肉とかのいろんな腐った匂いとあと便秘になったからその胃からの匂い上がってきてるとか、そういえば便秘イコール痔やん。うわぁぁああああああ…. 人生終了。友達よりなにより、夫ってなんか嫌やわ。 腫れがなかなか引かんけど、鏡みたらやっぱり顔スクエアやん、まじで、ちょっと、っていうかだいぶ泣いた。誰とも会われへん….人生終わった。一生口臭いキャラでいかなあかんのか…わたし痔主やし、なんの取り柄もない、いいとこない、こんなわたしのっことっっっ好きでいてくれます…か….(好き前提おこがまし…)

週末はちょっと外に出てみる。少し歩いただけなのに膝が痛い。体力がちょっと落ちた気がする。こんな日々でも少し嬉しいことがあった。食事制限(流動食)しているからか、目の周りの浮腫(浮腫んでるっていうやつそれ脂肪)が取れて、朝起きたらぱっちり二重になってた。でも顔半分下はスクエアやねん。なんやねんこの顔。

月曜日。まだ違和感はあるけどやっとしっかりめに歯磨きできるようになった。Post opératoire という術後用歯ブラシは赤ちゃんの髪の毛のように柔らかい。お口クチュクチュするやつも出来てめちゃくちゃ快適。口の中スッキリってこんなに気持ちええのねぇ。。。パスタくらいなら食べられるようになってきてうまいうまいうんまい。食べ物がめちゃくちゃうまい。食べたらお口クチュクチュしてる。お口クチュクチュめっちゃ好き。お口クチュクチュはめっちゃおすすめ。

火曜日。味覚を失う。

続くのか?

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