絓秀実氏との対談(2014年9月12日)・その2

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 「その1」から続く〉
 〈全体の構成は「もくじ」参照〉

 2014年9月12日に東京でおこなわれた対談である。2014年10月に刊行した紙版『人民の敵』創刊号に掲載した。
 文中、単に「註」とあるのは紙版『人民の敵』掲載時にすでにあった註、「後註」は今回追記した註である。

 第2部は原稿用紙23枚分、うち冒頭7枚分は無料でも読める。ただし料金設定(原稿用紙1枚分10円)にはその7枚分も含む。

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 安倍政権は長期政権化しそうである

 ところで最近はおれも反原発運動にはほとんど足を運んでないんだけど、多少リサーチしてみるに、東京なんかでもほぼ代々木(共産党)に支えられてる状況でしょう。選挙でも議員を多少増やしたんで、代々木はとにかく「勝利、勝利」と総括してるんだよね、本気なのかどうか知らないけど。

外山 党勢は拡大してるんでしょうからね。

 それも大したもんじゃないと思うんだけどなあ。ビラにティッシュ付けて配っているくらいのポピュリズムだからなあ。九州ではどうなんですか?

外山 ぼくと同世代かちょっと若い世代で、共産党に期待して入党しちゃった人を時々見かけますよ。もちろん古くからの党員たちとはノリが合わないだろうから、グチグチ云いながらって印象を受けるけど。宮崎でぼくの二つ上ぐらいの、元々はヒッピーで大麻解放運動とかやってるような人で、最近共産党に入ったって人と知り合いましたけど、そんな人まで入っちゃうという(笑)。何年か前に“蟹工船ブーム”とかで共産党に入る若者が増えたという話があったでしょ。その頃に直接聞いた話で、共産党だか民青だかの内部の会議の様子をその場からツイッターで実況中継して怒られたと云ってる人がいました。何が問題なんだと逆ギレしてましたけど(笑)。

 緑の党ももう分裂の危機みたいだね。長谷川羽衣子が……。

外山 ハセガワウイコ?(政治的無関心なのでよく知らない)

 長谷川羽衣子っているんだよ、関西の、緑の党の共同代表を務めてる“綺麗な”お姉さん。お姉さんとオバサンの間ぐらいかな。で、緑の党で選挙の総括をめぐって……。

外山 いつの選挙の話ですか?

 この間の国政選。

外山 昨年の参院選ですか?

 そうそれ。緑の党も比例区で出たけど、もちろん全然ダメだったわけよ。それでその敗北の責任問題みたいなことと関連して、サポーターを除名しちゃったらしいんだよね。「サポーターを除名」って、意味分かんないけどさ(笑)。とにかくガタガタしてるみたい。もちろん最初からただの寄り合いみたいな団体だからなあ。

外山 反原発運動も完全に失速しましたね。

 株価が下がるか、株価は上がったけど所得格差は拡大してるというデータが出てくるとか、アベノミクスが失敗したと公然と認知されるようにならない限りは、安倍政権はこのまま保ちますよ。

外山 長期政権になりそうですよね。笠井(潔)さんも云ってたけど、それは実は逆に“いいこと”でもあって、要するに議会外で暴れることにしか突破口が見いだせなくなってくるわけですから。

 笠井は大衆反乱主義だからそう云うだろうけど、その大衆反乱が起きないから問題なんじゃないか。

外山 いや、きっと長渕ファンが起ち上がってくれますよ。首相官邸前に“市民”が何万人集まっても原発は止まらないけど、川内原発前に長渕ファンが何千人か集まれば止まります(笑)。

 うん。つまりヨーロッパやアメリカでは反乱の場所が動くんだよ。ニューヨークの反乱がシアトルに飛び火したり。それが日本では起きない。

外山 そうですね。反原発もやっぱり東京での盛り上がりにすぎなかった。絓さんもよく知ってるとおり、88年の“反原発ニューウェーブ”では動いたのに。大分のオバチャンが呼びかけて、四国で火がつき、それが首都圏にも飛び火し、最終的には札幌にまで至った(後註.『全共闘以後』第3章参照)。それが今回は、大飯原発が動く時にちょっと現地に集まったけど、あれじゃまだ小さいですよね。


 欧米の大知識人は日本には単に観光で来てる

 こないだネグリが来たし、来年にはバディウも来るらしいけど、あいつらは決して“運動”として来てるわけじゃないんだよ。単に観光で来てる。日本に“運動”なんかないと思われてるし、実際ないんだし。ヨーロッパ各地を訪ねる時には、行った先々でワーワーやるのに。

外山 例えば韓国でバディウが人気があるかどうか知らないけど……。

 ジジェクは人気あるんですよ。

外山 じゃあもしジジェクが韓国に行ったとしたら……。

 いや、実際1年間行ってた。

外山 日本と違って韓国にはいろいろ運動があるから、引き起こす反応もだいぶ違うんじゃないですか。

 ところが韓国は韓国で、そもそもポスコロ・カルスタ(ポスト・コロニアリズム、カルチュラル・スタディーズ)が強いみたいで、植民地経験もあるわけだから。で、韓国で作られた薄い本(『ジジェク革命を語る』)が出てるんだけど、これがジジェクの本の中で一番つまらないんだ。韓国に媚びちゃってるの。そりゃまあ柄谷(行人)さんが中国に行って接近するのと似たようなもなんだろうけど(笑)。

外山 そういう人たちを日本に呼ぶ側の人たちは、もちろん日本の運動との接続を意図して……。

 そういう意図があったとしても、実際問題としてそうならないもん。最初にネグリが来日するって話の時には、受け入れ側にもそういう意識はあって、お祭りをやろうとか云って学生を組織したりしてたけど、肩すかしを食ったでしょ。

外山 その時は結局ネグリは来られなかったんですよね。

 来られなかった。

外山 たしか洞爺湖サミットの期間中か何かで、ネグリは政治犯だっていうんでビザが下りなくて。その後また来たんですか。

 昨年来たんだけど、全然盛り上がらなかったね。

外山 来たんだ。知らなかった(笑)。

 NHKが呼んで、ビザが下りた。東京でおとなしい講演会をやったけど、ネグリの目的は京都だからさ、京都観光(笑)。市田良彦と王寺贒太が同伴して観光案内して、和食を食って、それでおしまいという(笑)。

外山 80年代にガタリか誰かが来たことがあったでしょう。その時はもう少し違ったんでしょうね。

 暗黒舞踏の田中泯と何かやったり、平井玄が山谷に連れて行ったりしてた(後註.『東京劇場 ガタリ、東京を行く』UPU・86年として書籍化されている)。それぐらいのことすら今はもう……まあネグリも80いくつですから。

外山 あ、そんな年なんですか。それはもう京都観光でもしてもらうしかないですね(笑)。
 

 松平耕平君のこと

 日本では活動家と、理論家というか学者というかの、境界線が引かれすぎちゃってる。両方にまたがってるのが五野井郁夫とか小熊英二とか、そういう奴らで……。

外山 五野井って人はどういう人なんですか。

 おれもちゃんと読んでないけど、反原発デモとかを云々しているよね。

外山 世代的には小熊英二と同じぐらいですか。

 もうちょっと若いんじゃないかな(註.小熊は62年生まれ。五野井は79年生まれ)。ともかく、あの手の人たちは、日本がようやくデモのできる社会になったってはしゃいでいるけど、デモとだけ云うなら、イラク反戦だってあったでしょう。そんなことさえ忘れている。

外山 ランシエールって人もよく名前が出ますけど、あれはどういう人なんですか(笑)。

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