北田暁大・白井聡・五野井郁夫『リベラル再起動のために』“検閲”読書会(2018.10.14)その6

 【外山恒一の「note」コンテンツ一覧】

 「その5」から続いて、これで完結〉
 〈全体の構成は「もくじ」参照〉

 2018年10月14日におこなわれた、北田暁大・白井聡・五野井郁夫の鼎談本『リベラル再起動のために』(毎日新聞出版・2016年)を熟読する読書会のテープ起こしである。
 テキストの現物を入手して、途中ことわり書きが挟まるように、例えば「第一章・黙読タイム」などのところでまず当該の章を自分でも黙読してから読み進む、というのが一番タメになる読み方である。

 読書会参加者というか“検閲官”は外山の他、外山と同世代でほぼレギュラー的な福岡在住の天皇主義右翼・藤村修氏、ほとんど喋らないが九州ファシスト党〈我々団〉の東野大地、「その3」から参加する福岡在住の劇評家・薙野信喜氏(御年72歳!)である。

 第6部は原稿用紙20枚分、うち冒頭6枚分は無料でも読める。ただし料金設定(原稿用紙1枚分10円)にはその6枚分も含む。

     ※     ※     ※

 (引き続き「第三章」をめぐっての議論)

 例の、“リベラル派は実は勝っている”論

藤村 要するに“デモで社会は変えられるのか?”という話です。少なくともデモ単体では社会は変えられない、という話はずっと前から東浩紀がやってた。そもそも権力者をビビらせるようなデモが組織できないんであれば、デモそれ自体では社会は変えられないんだ、って。それ自体で権力者をビビらせるほどのデモがやれないなら、デモ以外のものとの協力関係を構築した上でのデモでないと意味がない。そんなことを云ってたらパヨク連中が……。

外山 東浩紀がデモを否定しやがった、と(笑)。

藤村 そうそう。東浩紀の側にしてみれば、そんなことも理解できないような連中がやってるデモなんだったら、ますます意味がないって話にしかならない。ここで五野井が云ってることは、東浩紀がもともと云ってたことに近いわけです。でも一瞬いいことを云って、その後またすぐ五野井はバカなことを云ってるけどね。安倍ちゃんより我々3人のほうがずっと若いんだ、「当然のことながら、彼のほうが先に亡くなるでしょう。この一点から見ても、勝ちは明らかです」って(笑)。

薙野 そこはたしかに、何を云ってんだと思いました。

藤村 で、そこからだんだん、パヨク以外の部分には非常に評判の悪い、例の、“リベラルは本当は勝っている”論になっていくわけです。五野井も最初は控えめに、正論っぽくその話を始めて、でも結局は「今、文化的ヘゲモニーという点ではリベラルの側は完全に勝っているのであって、別に負けているわけではない」(150ページ)なんて話になる。

外山 北田が内心だんだんウンザリしてきて、“ところでドブ板選挙というのは……”と水を差す、と(笑)。……その“リベラル派は実は勝っている”論の過程で、149ページに、また“68年論”を勝手に都合よく横領するような発言がありますよね。「フランスの5月革命だって勝てなかったけれど、『68年』から13年後に社共連合のミッテラン政権ができた」とか、五野井は云う。絓さんの“全共闘は実は勝ってる”論とは似て非なる話で、全共闘は負けたけど、その数年後には全国各地に革新知事が生まれた、みたいなことを云う奴はたまにいますよ。

藤村 それは小熊(英二)史観?

外山 さあ、どうだろう。たしかに小熊もそういうこと云ってそうな気もするけど……要は新左翼と旧左翼の区別もついてないような連中が云いがちなことなんだけどさ。絓さんなんか端的に、70年代に入ってたしかに革新知事が次々と誕生したけど、それが一体どうした、何の意味があったというのか、みたいに書いてましたけどね。


 反ヘイト法とホームレス排除を支える同一のメカニズム

藤村 この本が出た頃すでにそうだったけど、オレは最近ますます、“リベラル派は実は勝ってる”論が許せなくなってきてるんです。だって安倍ちゃんはどんどん横暴になってきてるじゃん(笑)。麻生もますます態度が悪くなってきてる。つまりそれは、リベラル派なんか何も怖くないって彼らが思っているからでしょう。ナメられてるんですよ、リベラル派は。
 オリンピックに関しては“無償ボランティア”とか大々的に集め始めるまでになってます。“リベラル派は実は勝ってる”論の流れで白井が、150ページで「東京オリンピックの開催が危ぶまれてきましたが、これははっきり言って、めでたい」と云ってますけど、本当に「危ぶまれてき」てたんなら、たしかに「めでたい」でしょう。実際はちっとも「危ぶまれて」なんかいない。“無償ボランティア”とか、あんなナメたことを平気でやってるんだもん。

外山 16年6月の本だけど、その時点ではオリンピック開催は「危ぶまれて」た?

藤村 いやあ、いろいろ問題は起きてたにしても、「危ぶまれて」まではいなかったですよ。

外山 “リベラル派は実は勝ってる”論と“オリンピック”の話に絡めて云えば、反ヘイト法の制定について、もちろんそれが反ヘイトスピーチのリベラル派の運動の成果であると云いたくなる彼らの気持ちは分からんでもないけど、実際にはオリンピックの“おかげ”でしょ。

藤村 うん、そうです。

外山 オリンピックで来日外国人が増えるし、オリンピックが近づくにつれて日本社会の現状について、路上の治安なんかも含めて外国からの関心も高まるから、ヘイト・デモなんか大々的にやられていては政府も面目が立たん、と。つつがなくオリンピックをやるために、政府としても早いとこヘイト勢力は路上から一掃しなきゃいけないわけですよ。

薙野 たしかにそうですねえ。

藤村 そういう危惧は、だいぶ前から反ヘイト側の一部からも出てた。だけどそんな危惧を表明する奴は“ヘサヨ”認定されて……。

外山 自民党政府が反ヘイト法を作ったのは、オリンピックに向けてあちこちの公園からホームレスを追い出すのと同じメカニズムが働いたということでしかない。もちろん反ヘイトの運動がそれなりに拡大して、自民党はそれを上手く立法化の口実の1つとして利用するわけだけどさ。


 ったくこれだから東京モンは!

藤村 150ページで五野井が、「与党側もあわてて急ごしらえでSEALDsに似た雰囲気の学生や若者たちを登場させたりした」と云ってるけど、それはまあ、そのとおりです。しかしそのことを「典型例」として、「今、文化的ヘゲモニーという点ではリベラルの側は完全に勝っているのであって、別に負けているわけではない」って、本気で云ってるのか……ナンセンスきわまりない。じゃあネトウヨはどう説明するんだ。

外山 国会前に集まるようなのは、かなり特殊な部分の若者であって、それ以外のもっとフツーの若者たちとちゃんと交流してんのか、という話だよね。

藤村 まったくそのとおり。

外山 フツーの若者たちはますますネトウヨ化が著しいよ。つまり「文化的ヘゲモニー」の点で、現実にはリベラル派は引き続き負けまくってるんです。

ここから先は

5,674字

¥ 200

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?