90年代後半の東北大ノンセクト?自治寮委員長に徹底インタビュー(その1)

 【外山恒一の「note」コンテンツ一覧】

 〈全体の構成は「もくじ」参照〉

 松本勝巳氏は74年生まれで、長崎県佐世保市の高校を卒業後、1浪を経て94年に東北大に入学し、まもなく、いわゆる“自治寮”である「日就寮」を拠点とする熱心な学生運動家の1人となる。95年には寮委員長も務めている。99年に卒業し、就職で福岡市に移住した。

 インタビューは2017年1月20日におこなわれ、紙版『人民の敵』第28号に掲載された。
 第1部は原稿用紙換算18枚分、うち冒頭5枚分は無料でも読める。ただし料金設定(原稿用紙1枚分10円)はその5枚分も含む。

     ※     ※     ※


 94年の入学以前の東北大生の闘争

外山 『デルクイ』の第2号“80〜90年代の学生運動”を特集した時に、松本君のことも思い出せばよかったんだけど、すっかり忘れてた。最近になって急に思い出したんで(笑)、今回改めてインタビューを……。

松本 そう云われても、どこから話せばいいのか。

外山 そもそも松本君が東北大にいたのは何年から何年までだっけ?

松本 94年に日就寮に入寮して……。

外山 それは入学自体が94年ってこと?

松本 うん。で、卒業が99年の3月かな。だから5年間いたことになる。ぼくらは94年入学だから“94(きゅうよん)”って呼ばれてるんだけど、“89(はちきゅう)”の人たちが、90年に“核燃料輸送阻止闘争”というのをやってて……。

外山 それはやっぱり女川原発がらみ?

松本 いや、何だったか、とにかく高レベル放射性廃棄物を積んだトラックが10台ぐらいで移動するのを、インターの入口に座り込んで阻止するって闘争で、それで4人だかパクられてる。

外山 へー、そんなことが90年に……どこのインターで?

松本 それが分からないんだよね。当時、新聞記事は出てたはずだけど、その頃のニュースなんか検索しても出てこないし。

外山 仙台市内のインターってことかな?

松本 たぶん仙台か、少なくとも近郊だとは思うけど。

外山 ノンセクトの闘争?

松本 うん。中核派はむしろ「そんな無意味な闘争はやめろ」って止めたらしい。それを押し切って敢行した闘争だったと聞いてる。障害者も1人参加してて、その介助者として付き添ってた解放派の人も逮捕されたんだけど、その2人はその日に釈放されて、他は何日か捕まってたはず。

外山 その障害者も東北大生だったの?

松本 いや、介助の解放派の人のほうが東北大生。地区介助者会議というのがあって、無償で介助を引き受けてる50人ぐらいのメンバーで、毎日フォーメーションを決めて介助に入ってた。東北大だけじゃなく、宮城教育大とか、他の大学の人たちもいて……。


 冷戦崩壊後の高校時代に左傾

外山 えーと……まあ時系列で聞いていくか。そもそも何年生まれだっけ?

松本 74年生まれ。

外山 高校まではずっと佐世保(長崎県)だよね?

松本 うん。

外山 高校時代にはとくに左傾してたわけではないの?

松本 そうだなあ、しいて云えば高校3年の時に小論文のテストで……。

外山 あっ、例の話か(笑)。えっとあの……ウォーラーステイン!

松本 そうそう(笑)。ウォーラーステイン(30年生まれ。“世界システム論”を提起した高名な社会学者/後註.2019年8月死去)を読んでしまって……。そもそも中学生の時にソ連が崩壊して、“ゴルバチョフ失脚”という新聞の見出し(91年末のソ連崩壊の直接の発端となった、同年8月の保守派によるクーデタ未遂事件の報道と思われる)を見て「いったい何が起きてるんだ!?」と頭が混乱した記憶があるんだけど、ウォーラーステインを読むと、共産主義が行き詰まろうが第三世界では引き続き闘争が必要なんだ、ということが書かれていて、「そうだよなあ」と思った。

外山 それはソ連崩壊後に書かれた文章なの?

松本 どうだったのかなあ。アフリカの状況について書かれた文章だったと思うけど……。

外山 それは当然、小論文のテストに使われるぐらいだから、短い文章なんでしょ?

松本 うん。

外山 それがきっかけで、ウォーラーステインの本を丸々1冊読んだりもするの?

松本 いや、それは大学に入ってからだけど、とにかくマルクス主義を勉強したいと思い始めて……。

外山 ウォーラーステインがマルクス主義者であることは、どうして知ったの?

松本 そこまではもちろんすぐ分かったわけではなく、でも“ソ連が崩壊して資本主義が勝利した”みたいな話にはそれ以前からどうも納得いかなくて、共産主義がダメだというなら、どこがどうダメなのか詳しく教えてほしいとずっと思ってた。ちゃんと勉強した上でないと、「共産主義はもうダメだ」とか云えないはずだろう、って。

外山 で、“マルクス主義を勉強するために”東北大に行くの?

松本 そうそう。

外山 マル経(マルクス経済学)がまだ盛んなところを探したってこと?

松本 いろいろ聞いてみたら、やっぱり東北大が盛んらしいってことで……。

外山 “学生運動が”って意味じゃないよね(笑)。

松本 うん、“マル経が”(笑)。


 村上龍『69』は近隣の高校の実話

外山 ん? そもそも佐世保北高だったっけ?

松本 いや、佐世保西高校。

外山 じゃあ村上龍に影響されるわけでもないんだ?

松本 『69』(村上龍が“佐世保北高校全共闘”の体験を書いた自伝的小説)は一応、中3の時に読んだけどね。教師がボロクソに云ってて……。

外山 そりゃあ佐世保で教師をやってる立場からすれば、あんな小説を書かれちゃマズいよな(笑)。

松本 そしたら友達が、「あの先生が云ってたのは、この本のことだぜ」って教えてくれた。

ここから先は

5,284字

¥ 180

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?