外山恒一&藤村修の時事放談2016.12.03「“総しばき隊化”するリベラル派」(その2)

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 「その1」から続く〉
 〈全体の構成は「もくじ」参照〉

 2016年12月3日におこなわれ、紙版『人民の敵』第27号に掲載された対談である。
 第2部は原稿用紙換算26枚分、うち冒頭7枚分は無料でも読めます。ただし料金設定(原稿用紙1枚分10円)はその7枚分も含みます。

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 カストロ先輩の名言「もし私が死んだら……」

外山 ……今日は藤村君が来る前に、せっかくだから前回の対談以降の半年間に世の中で起きたことをざっと整理してアタマに入れておこうと思ってたんだけど、ついダラダラして忘れてた。おかげでトランプぐらいしか話題を思いつかない(笑)。

藤村 ドゥテルテにはあんまり関心ないの?

外山 なくはないけど……。

藤村 ドゥテルテも“社会主義者”だよ。なんとヨニウムさんもドゥテルテをかなり評価してる。

外山 へー。

藤村 本人が本当に“社会主義者”であるのかどうか知らないけど(学生時代の恩師がフィリピン共産党の創設者であるらしい。同党は68年に非合法の地下組織として結成)、今日ちょっと調べてみたら、新人民軍(フィリピン共産党の軍事組織)とも和解したみたいだし、さらには共産党からドゥテルテ内閣に何人か入閣させてるんだ。

外山 中国を訪問した時の、「アメリカとはもう別れました」って発言には爆笑したけどね。

藤村 ドゥテルテさんは結構面白い。むしろトランプより信頼できるんじゃないかという気がする。

外山 ……そういえばカストロ先輩も死んじゃったよ。

藤村 キューバは社会主義諸国の中でも唯一、暗いイメージのない国だね。

外山 うん。

藤村 だからキューバの人たちがカストロの死を悼む声というのは、北朝鮮とかと違って、きっと本心からのものなんだろうと思える。

外山 反共派をそこまで苛烈に弾圧せずに、「イヤならとっととアメリカにでも出て行け!」って事実上“追放”(地理的に近いため船で簡単に可能な亡命の黙認)してた程度だもん(笑)。

藤村 国自体は貧しいけど、医療も教育も無償化して、一応は“社会主義”の理想に忠実な政策を採ってるしさ。まあマジメに社会主義をやってるからこそ経済的には沈滞したんだろうけどね。だけどファシストもキューバの社会主義は肯定的に評価できるんじゃないの?

外山 そもそもカストロは本来、共産主義者でも何でもないからね。アメリカの傀儡の独裁政権を倒しただけで、それでアメリカに冷たくされたもんだから、仕方なくソ連に助けを求めたにすぎない。ぼくも気に入って時々引用してるカストロの“名言”があるんだ。「私は死んだら地獄に行くだろう。そしてそこでマルクスやレーニンに会うだろう」っていう(笑)。

藤村 じゃあ今頃は会ってるところかな?(笑)

外山 やりたくて社会主義をやったわけではない、ってことだろうね。

藤村 しかしせっかく独裁者的なポピュリストが世界じゅうに生まれていて、あと何年か長生きすれば先駆者として称えられたかもしれない。トランプは一応やっぱり「独裁者が死んだ」とかってコメントを出してるみたいだけど、それはまだ大統領に就任してないからで、就任すると「カストロ先輩」とか云い出したりして(笑)。


 日本以外は激動している

藤村 ……ドゥテルテの話に戻すけど、アメリカに対して罵詈雑言を吐いたりしてるのも、普通に考えれば、東南アジアのそれほど強大でもない国の指導者として、ごくオーソドックスな戦略にすぎないよね。中国とアメリカを天秤にかけて、揺さぶってるだけでしょ。日本も本来はそうすべきであるぐらいのことだ。

外山 ドゥテルテを見てると、あれだけアメリカに非礼の限りをつくしても、アメリカって意外とそう簡単にマジギレしたりしないんだなと感心するよ。

藤村 そりゃあアメリカとしても、下手に制裁とかしてフィリピンを本当に中国側に追いやってしまうのは避けたいからだよね。そこらへんを分かってるからこそドゥテルテもあんなふうに振る舞ってるんであって、少しも奇異なところはない。だから「ドゥテルテさん、やってますなあ」としか思わないんだけど、マスコミには「ドゥテルテは何を考えてるのかさっぱり分からない」的な“識者の声”もよく出ていて、日本の知識人どもの対米追従はそこまで体質化しちゃってるのかと逆に驚く。

外山 日本なんか、やろうという気さえあればもっとやれるよね(笑)。

藤村 フィリピンですらあそこまでやれるんだもん。最低でもこれぐらいはできるってことをドゥテルテが示してくれてる。オバマとの会談をキャンセルされちゃったけど、ドゥテルテからすればそんなもん痛くも痒くもない。ますます「中国についちゃうぞ」ってアメリカを揺さぶってやればいい(笑)。もちろん中国との間にはフィリピンも領土問題を抱えてるけど、常設仲裁裁判所でフィリピン側が勝訴してて、つまり中国に対してフィリピンの側がカードを持ってる状況なわけだ。その上で中国にあれだけ譲ってるんだから、そりゃあ中国側はフィリピンに恩義を感じざるをえない。当然、ドゥテルテは判決を否定するようなことは一言も云ってなくて……。

外山 単に「今は言及しないでおく」ってだけ。

藤村 ドゥテルテがまさに“巧みな外交”の見本を示してるようにしか見えない。強権政治家のイメージが強い人だけど、中国に対しては“北風と太陽”で云うところの太陽政策をやってる。金大中政権の時の韓国と同じで……あ、最近のニュースといえば韓国も大騒ぎになってるじゃん。

外山 やっぱり日本以外は激動してる(笑)。韓国の状況はあんまりちゃんと理解してる自信はないんだが、朴槿恵のスキャンダル問題とは別に、金友(隆幸)君が『人民の敵』(紙版『人民の敵』第11号)で話してた例の日韓協定(軍事上の機密情報を提供しあう「日韓秘密軍事情報保護協定」、通称「ジーソミア」)は、ついに調印されましたな。

藤村 その話はしちゃっていいの? 『人民の敵』では伏せ字だらけで、何を話してるのか分からないようになってたじゃん(笑)。

外山 まあ詳細は引き続き伏せて、金友君がどう関与してたのかは云わずにおくとしても、「維新政党・新風」の鈴木(信行)代表も、「せっかくオレたちが4年前の調印をギリギリで阻止したのに」ってツイッターで書いてたから、そこまで“極秘”事項というわけでもないんだな、と思って。

藤村 それでも4年も延期させることができたのはそれなりの成果じゃない? アメリカが望んでることでもあるんだろうし、最終的にはいつか調印にこぎつけるには違いなかったんだもん。

外山 やった内容が良いか悪いかは別として、“具体的な成果を上げた運動”としては特筆すべき事例だよね。特筆しないけど(笑)。

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