森元斎『アナキズム入門』“検閲”読書会(2017.3.19)その1

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 すでに公開した栗原康『現代暴力論』(角川新書・2015年8月)読書会より実は前に、今回公開する森元斎『アナキズム入門』(ちくま新書・2017年3月)の読書会をおこなっていた。刊行されてすぐ、2017年3月19日のことである。紙版『人民の敵』第29号に掲載された。
 本文の最初のほうで述べているとおり、私は森氏と薄くつながりがあり、しかも森氏はこの時期、福岡に住んでいたので時々会うこともあった(現在は長崎大の准教授になっており、たしか長崎に移住)。最初から批判するつもりで読書会のテキストに選んだわけではないのだが、何度か話してみたところ、森氏の掲げる「アナキズム」など、アナキスト=ファシストである私から見れば論外で、読めば批判せざるを得なくなるだろうと予想はしていた。まあそこらへんは本文を読めば分かる。
 紙版『人民の敵』に掲載するためにテープ起こしをしている段階で「“検閲”読書会」というフレーズを思いつき、以後、現在まで栗原康東浩紀北田暁大らの著作を“検閲”してきたことは、知ってる人は知ってるとおりである。
 『現代暴力論』読書会を公開した時にも書いたように、この“読書会シリーズ”の最も正しい読み方は、まずテキストを、つまり今回であれば森氏の『アナキズム入門』を買うなり図書館で借りるなりして入手し、本文中に「『第1章』黙読タイム」などとあれば、(この読書会の記録の)先を読むのは後回しにして、自身も律儀に「第1章」を黙読し、その上で読書会の続きを読む、というものである。まあ、常にエンタテンメントを心がけちゃあいるので、この読書会だけ読んでも充分に面白いことは保証するが、自身もテキストを用意して、読書会の進行どおりに読み進めていけば、まるで自分も読書会に参加しているような臨場感が味わえて、なお楽しいはずである。
 とくにクロポトキンを扱っている第3章から、参加者たちが内容以前に文体に苛立ち始めるのだが、それも現物を一緒に読み進めて“参加”することで、より共感は深まるだろう。
 なお、この読書会には後日談があり、それについては同時公開の山本桜子・東野大地との座談会で読める。

 第1部は原稿用紙16枚分、うち冒頭6枚分は無料でも読める。ただし料金設定(原稿用紙1枚分10円)にはその6枚分も含む。
 なお、全体の構成は「もくじ」参照。

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 キビしくチェックしていきましょう

外山 じゃあまあとりあえず、「はじめに」を一気に読んじゃいますか。今日は全員、テキスト持参ですね。……では各自、黙読してください。

 (「はじめに」黙読タイム)

外山 全員、読み終わりましたか? はい、では何かありますか? 読んでみたところ、まあ単なる“まえがき”のようなんで、とくに何もないかもしれませんけど、分かんない単語とか“読めない漢字”とかのレベルでもいいんで、何かあれば云ってください。もっとも、出てくる人名とかはこの後、各章で説明されるんだとは思いますけど……。第4章の「ルクリュ」って人は知ってる? ぼくも実はよく知らないんだけどさ。

東野 バクーニンの仲間の1人だったと思います。

外山 そうなんだ。こんなふうに1章を立ててあるのは初めて見た。……そもそも森君ってどこの人なんだっけ? 高校生の時に「帰りの京王線で云々」とあるからまあ、東京の人なんだろうけど。

東野 プロフィール欄に書いてありますよ、「1983年東京生まれ。中央大学文学部卒業」って。

外山 ちなみにぼくら九州ファシスト党の3人(後註.外山、山本桜子、東野大地)は著者の森元斎君とは面識があります。奥さんが福岡の人で、今は森君は福岡に住んでるんです(後註.現在は長崎大の准教授となり、おそらく長崎在住)。5、6年前に元「フリーターユニオン福岡」の小野俊彦君を通して知り合って、松本哉関係のイベントとかで年に1、2回の頻度でぼくは会ってるかな。ぼくの元同志で宿敵の矢部史郎一派の一員でもあって、だから、そんなにディープに話し込んだことはないけど思想的にはたぶん相容れない部分も多いんだろうなとは思ってます。
 しかし同じ福岡で活動してる人間が『アナキズム入門』なんて本を書くというのは、ファシストであると同時にアナキストでもある我々としては、内容によってはキビしく対応せざるをえないわけで、これから初めて読むわけですけど、もしダメな内容なら歯に衣着せずに“徹底批判”することになるでしょう。ちなみにぼくは森君に紙版『人民の敵』第4号、つまり千坂恭二の“アナキズム史講義”を掲載した号は進呈してますからね(笑)。もし従来のそれと何ら代わり映えのしない“通史”を書いていれば、森君はせっかく進呈した超一級重要資料にも目を通してない、そして何より我々を“ナメている”ことになるんで、舌鋒はますます鋭くならざるをえません。
 ……ま、「はじめに」の時点では内容的には他にとくに云うこともないよね。本文に進んじゃいましょう。50ページ分ぐらいあるけど、第1章を丸ごと一気に行く? 行っちゃいましょう。


 ヒップホップ用語が……

 (「第一章 革命──プルードンの知恵」黙読タイム)

外山 よろしいでしょうか? では何か分からない言葉とか、理解できない文脈などあれば……。

山本 63ページの最後のほうに出てくる「マグナム・オパス」(「経済学のマグナム・オパスである『資本論』」とある)ってのはプロレスラーか何かですか?

外山 ぼくもその言葉が分からなかった。プロレスラーじゃないと思うけど(笑)、誰か分かる人いる?

山本 “オパス”で検索しても何もそれらしいのは出てこなかった。

外山 こっちのパソコンで検索してみようか……(パソコン起動)。ほんとにプロレスラーだったりして(笑)。起動するのを待ってる間にもう1つ、41ページに出てくる「レペゼン」って何? 「レペゼン貧乏人」とあるけど……。

東野 「リプレゼント」ですよ。ヒップホップ用語。

参加者A(男性) うん、ヒップホップでよく聞きますね(笑)。

東野 “代表”ってことです。

山本 (外山を指さし)レペゼン鹿児島?

外山 それは長渕(剛)先生以外にあり得ないでしょう(笑)。

東野 (山本を指さし)レペゼン埼玉?

山本 そうですよ、悪かったですね。

外山 東野君はレペゼン滋賀なの? ともかく「レペゼン」ってのは、「リプレゼント」の単なる……ヒップホップ方言?(笑)

東野 たぶん。

外山 あ、出てきましたね、「マグナム・オーパス」。「(文学・芸術の)最高傑作、(芸術家の)代表作、大事業」だそうです。英和辞典の項目として出てきました。

山本 そういう真面目な言葉なんですね。森さんの好きなプロレスラーとかじゃないのか(笑)。

参加者B(女性) 普通の英語なんですか、人名とかではなく……?

外山 そのようですな。元々は何語なのか分かんないけど(ラテン語らしい。Magnum opus。英語に直訳するとThe Great Workとのこと)。イングウェイ・マルムスティーン(“速弾き”ギタリスト)のアルバム・タイトルでもあるらしいですよ(笑)。
 ……他に何かありますか? あとたぶん55ページの最後の行の(プルードンの主著の1つである『貧困の哲学』の刊行が)「一八四八年」というのは「一八四六年」の誤記ですね。「二月革命の二年前」とあるけど、2月革命が1848年なんだからさ。……しかしまあ、この第1章はプルードンについての単なる伝記的紹介にすぎないようだし、とくにどうこう云うこともないよね?

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