絓秀実氏との対談(2016年6月17日)・その1

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 標題にもあるとおり、2016年6月の対話である。場所は絓氏の地元に近い埼玉県の居酒屋。
 時期的には、本文中でも話題になっているとおり、舛添要一の都知事辞任が決まった直後(2日後)だが、外山がこの時期に上京していたのは、もちろんそんなサブカル的なゴシップとは何の関係もなく、革命結社「劇団どくんご」の首都圏数ヶ所公演に随行するためである(ただしこの東京滞在中に、これも本文中で話題に出るとおり、日本を代表するサブカル活動家の1人である野間易通氏と、初対面かつ現時点ではその1度きりのトーク・イベントもおこなっている)。
 イギリスの国民投票でEU離脱が決まる約1週間前、アメリカの大統領はまだオバマ(この約20日前に広島を訪問)で、トランプ当選はこの年の11月のこと。また約2ヶ月前に公開された“パナマ文書”の問題で世界じゅうが大騒ぎになっていた。イスラム国はまだ暴れ回っており、中国はすでに前々年に“一帯一路”路線をブチ上げてブイブイ云わせていた。金正男はまだ元気に暮らしており(翌年2月暗殺)、フィリピンではこの約2週間後にドゥテルテ大統領が誕生、韓国で朴槿恵の失脚に帰結する騒動が始まる約4ヶ月前。
 それら世界の重大ニュースと並べるのもどうかとは思うが、国際的にどーでもいい極東のFラン国家の酋長はこの3、4年前から安倍ちゃんである。さらにどーでもいい話としては、参院選がおこなわれる約1ヶ月前でもあった。天皇制問題では外山と絓氏はスタンスが異なるのでニュートラルに記すと、例の“生前退位”の一件が最初に報じられるのも、この約1ヶ月後のこと。
 対話に同席している東野大地は外山の主宰する「九州ファシスト党〈我々団〉」の党員で、“反芸術”(党内での位置づけとしては「“前衛芸術を徹底的に弾圧する”という最もラジカルな前衛芸術運動」)の活動家でもある。東野は東野で、“反芸術”がらみの何か別の用事でたまたま上京していたのだったと記憶する。
 外山は文筆活動的には不遇の絶頂期(?)で、『全共闘以後』はもちろん『良いテロリストのための教科書』もまだ刊行されていないというか、刊行の話も出ていない。

 以下本文。
 第1部は原稿用紙換算20枚分、うち冒頭5枚分は無料でも読める。ただし料金設定(原稿用紙1枚分10円)はその5枚分も含む。

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 外山恒一、“朝日文化人”への道!

 (テーブルにつくなり外山がICレコーダーのスイッチを入れるのを見て)まだ回さなくていいでしょう(笑)。
外山 いや、いつ“内容のある話”が始まってもいいように、と。

 東野君はどこに泊まってるの?

東野 美學校に。

 美學校は今は現代思潮社とは切れてるの?

東野 たぶん切れてます。

外山 あ、美學校はもともと現代思潮社(新左翼系の老舗出版社)と関係があったのか。

 現代思潮社の“分室”みたいなもんですよ(現代思潮社の石井恭二、川仁宏らによって69年に創設された)。今泉さんという人が担当しててね(今泉省彦。1931〜2010)。

東野 かなり早い段階で切れたんじゃないかなあ(形式的には75年に有限会社として現代思潮社から独立しているが、00年に代表が今泉省彦から藤川公三に変わり、03年に体制が一新されたようだ。ちなみに00年は90年代後半に革マル派に買収された現代思潮社が「現代思潮新社」に社名変更した年)。

 (店員が来て)生ビールを1つ。

外山 ぼくも。

 じゃあ2つ。

東野 ぼくも生ビール。

 2人とも飲んで大丈夫なの?

外山 ぼくは車中泊です。明日起きたらまた都内に戻らなきゃいけないんですけど、なんか今回も朝日新聞がインタビューしたいとかで、写真も撮るって云ってたからそれなりの大きさの記事にするつもりなんじゃないかな(結局、朝日系のニュース・サイト「ウィズ・ニュース」に7月9日掲載)。着々と“朝日文化人”の道を……(笑)。

 やっぱり都知事選がらみ?

外山 いや、舛添辞任が決まる以前に、参院選がらみで取材したいって連絡がきた。


 高円寺界隈の“元・若手活動家”たちの近況

 ……高円寺界隈の様子はどうですか? 外山君のツイッターによると、上京して以降すでに、“中年活動家”の面々と交流があったようですけど。

外山 松本(哉)君は相変わらず元気ですよ。東アジア各地のヘンテコ活動家たちと交流してて……。

 そのようですね。

外山 9月中旬にそういう連中をアジアじゅうから東京に呼んで、何か騒ぎを起こそうとしてる。3・11直後に「素人の乱」は反原発運動の中心に祭り上げられちゃったわけだけど、翌年夏に首相官邸前の金曜集会で反原連(首都圏反原発連合)に主導権が移るだいぶ以前の時点で、松本君だけではなく「素人の乱」の主だった面々は全員、反原発運動から撤退したくてウンザリしてたそうです。

 それはどういう理由で?

外山 とにかくメンドくさいということでしょう。

 調整が?

外山 うん。松本君たちはそもそもあまり理屈がなくて、単に“騒ぎを起こす”って路線だから、左派系のあらゆる連中が「素人の乱」の周りに集まって、お互いに“あいつらは参加させるな”とか勝手な要求を出してきたり、そういうのを調整するのにホトホト疲れ果てた、と。「左翼が嫌いになった」とまで云ってますもん(笑)。
 あと、松本君もやっぱり徹底的に“反選挙”派なんで、反原発運動が結局「選挙に行こう!」って方向に回収されていったことにもすごく反発を覚えてるみたいです。ちょうど今、何人か台湾から松本君の周辺を訪ねてきてる若者たちがいて、松本君たちとも近しい、もともとロフトプラスワン系列のトークライブハウスの店長の1人だった人が独立して高円寺でやっぱりイベントスペース的な飲み屋をやってるんですけど、台湾青年たちがそこでシールズ系の“選挙に行こう!”ビラを目にするなり、漢字は読めるから内容はおおよそ理解したみたいで、「なんで政府のビラが置いてあるんだ?」って訝しがってましたよ(笑)。松本君は中国語ができるんで、シールズっていう、これこれこういう連中がいて云々と説明したんです。そしたら、「あ、分かる!」って。どうやら台湾の、昨年だか一昨年だかの国会占拠が収束した後に……。

 いろいろ割れてるらしいね。

外山 ええ、やっぱり“次は選挙だ!”みたいな勢力が台頭して、しかしそういう路線に反発するアナキズム的な連中も一定いて、当然その台湾青年たちは、松本君のとこに来てるぐらいだから“反選挙”派の系統なんです。で、「あいつらが出すビラと、デザインのセンスから何からまったく一緒だ!」ってプンプン怒ってた(笑)。

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