北田暁大・白井聡・五野井郁夫『リベラル再起動のために』“検閲”読書会(2018.10.14)その4

 【外山恒一の「note」コンテンツ一覧】

 「その3」から続く〉
 〈全体の構成は「もくじ」参照〉

 2018年10月14日におこなわれた、北田暁大・白井聡・五野井郁夫の鼎談本『リベラル再起動のために』(毎日新聞出版・2016年)を熟読する読書会のテープ起こしである。
 テキストの現物を入手して、途中ことわり書きが挟まるように、例えば「第一章・黙読タイム」などのところでまず当該の章を自分でも黙読してから読み進む、というのが一番タメになる読み方である。

 読書会参加者というか“検閲官”は外山の他、外山と同世代でほぼレギュラー的な福岡在住の天皇主義右翼・藤村修氏、ほとんど喋らないが九州ファシスト党〈我々団〉の東野大地、「その3」から参加する福岡在住の劇評家・薙野信喜氏(御年72歳!)である。

 第4部は原稿用紙20枚分、うち冒頭6枚分は無料でも読める。ただし料金設定にはその6枚分も含む。

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 (引き続き「第二章」をめぐっての議論)

 軟弱ヘナチョコなりにマジメに悩んでる北田暁大

薙野 北田は90ページで、「夫婦別姓問題で『名字が一緒にならないと結婚した気がしない』なんて言うヤツと自分が同じ1票かと思うと悲しくな」るとか云ってますが……。

外山 うん、やっぱり北田が一番、マジメに悩んでるわけですよ。もちろん北田もしょせんは民主主義を否定しきれない軟弱ヘナチョコ知識人なので、「でも、普通選挙とはそういうものです」と引き下がっちゃうんですけど、ぼくなんかもよく云ってるような、“選挙権を制限しろ”という方向がチラチラ頭に浮かんでしまう程度のマジメさはある。
 92ページでも北田は、かつては納税額によって選挙権を制限してたじゃないか、という話をしてます。「納税額で区切ったら、それなりに学歴があって比較的教養のある人の割合が高くなりますよね。それはオッケー?」と白井に問いつめたりしてる。もちろん“納税額”ではなく、ちゃんと“投票免許”の試験を実施して区切ればいいだけの話なんですが、ともかく北田は、選挙権を制限するという可能性についても、一応は視野には入れてるわけだ。白井は「全然オッケーとは思わないですね」と応じてるけど、北田はさらに、「でも、そうしないと愚民は愚かな者を」、安倍ちゃんとかトランプとかを「選んでしまう」ことにもなりますよ、と突っ込んでる。せっかく北田がまっとうな問題提起をしてるのに、白井はテキトーなことを云ってごまかすんだ。「愚民と収入に相関関係はありますが、しかしながら一致はしない」とか云ってて、それはそのとおりだけど、一致させればいいだけじゃん。つまり“納税額”じゃなくて試験で制限すればいいって話になってもよさそうなものを、ただ頭から否定して終わらせてしまう。

藤村 でも白井は最近では“制限選挙”を主張するようになったでしょ?

外山 あ、そうなの? じゃあこの鼎談の時とはまた立場が変わったってこと?

藤村 何かの選挙でまた自民党が大勝して、“絶望した!”みたいなことを云って……(笑)。

外山 じゃあ次第に我がファシズム陣営に近づいてきてくれてるのかな?(笑) ……89ページで北田が、「昔のアメリカでは、連邦政府が黒人の有権者としての権利を認めても、州レベルでバックラッシュが起きて、書き取りテストや暗記テストとかで、字が書けない人を有権者として認めないといった抜け道を作った」という話を、もちろん批判的に、「『そういうことは止めましょう』が私たちの社会の決まりですよね」って留保しながら紹介してるけど、そんなもん、字も書けないような人に選挙権なんか認めるほうが間違ってますよ(笑)。たぶん黒人に対してだけ試験をやったからイカンのであって、白人にも同じ試験を受けさせろ、と。
 まあいずれにせよ北田暁大は、“自民党に投票するような連中に選挙権を与えてはいけないのではないか”っていう(笑)、一方で“いやいや、やっぱりそういうことを考えてはいけない”と思い直したりして反省しつつ、そういう方向性も視界にチラつかせていて、この3人の中では一番マジメに悩んでいるのが分かって好感が持てます。


 「政治に参加することはかっこいい」というカルチャー!?

藤村 104ページで北田が、「デフレに満足しつつ夢を持って生きていく知恵が、僕には思い浮かばないです。『貧すれば鈍する』というか」って、まあ北田の“リフレ派支持”っていうスタンスでの問題提起でしょうけど、これに対して白井は、リフレ派とは一線を画したいからなのか、それは「文化資本的な問題」で、要は“金なんかなくても楽しめるだろう”というようなことを云う。本を買う金がないなら図書館に行け、英語の塾に通う金がないならNHKの「基礎英語」を聴け、って(笑)。

薙野 そういう発想になるかどうかということ自体が、親の学歴とか教養の度合いで決まったりするから、そう上手くはいきませんよね。

外山 それも最後のほう、118ページで白井が自分で、「結局、インフラはあるんですよ。でも、そもそも親や本人がそれにアクセスすることを思いつけるのかというところに肝心の点がある」と云ってて、北田が「本屋に連れて行くという話も含めて文化資本ですからね」と、そういうのも結局は階層格差の問題だと指摘してはいる。

藤村 やっぱり圧倒的に北田のほうに説得力を感じますね。

外山 しかしそういう議論に対して五野井が、「『本を読むことはかっこいい』とか『政治に参加することはかっこいい』というカルチャー」を作ればいい、みたいなことを無邪気に云ってて……。

藤村 ダメだこりゃ(笑)。

外山 お気楽な人はいいですね。

藤村 しかしぼくも30代の頃は本当に極貧で、本なんか読まなかったもんなあ。

薙野 私も仕事に追われてる時期は、本は読めなかった。

外山 忙しくて本を読めない人は、そもそも図書館なんかに行く時間もないだろうしね。

藤村 今やそういう時代なんだからさ。本を読んでるといっても、“知的生きかた文庫”とか……。

外山 “本”のうちに入らんようなやつ。

藤村 実はオレも昨日読んだけど(笑)、少ない時間でせっかく本を読むんなら、そういう“仕事の役に立つ”本を読もうって発想になってしまいがち。

外山 仕事の役には立たないようなことが“教養”なのに(笑)。

藤村 やっぱりさっきの“キャバクラ”の人の話が示唆的で、人間の“幸福”というのは、結局は“人間関係”とかで決まる部分が大きいわけですよ。白井聡の云うように、たしかに“お金”のあるなしで決まるわけではない。つまり白井聡は、そういう線で一貫したければ、右翼に転向しなさい(笑)。


 外山恒一と白井聡の鏡写し的な思想遍歴

藤村 ……白井聡って、絓さんの教え子なのかな?

外山 そう聞いてます。

藤村 その絓さんにも、すっかり嫌われてしまってるようだし、ここはいっそ右に……。

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