外山恒一&藤村修の時事放談2016.06.02「“しばき隊リンチ事件”を語る」(その4)

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 「その3」から続く〉
 〈全体の構成は「もくじ」参照〉

 2016年6月2日におこなわれ、紙版『人民の敵』第21号に掲載された対談である。

 対談時点ですでに「しばき隊」は「クラック」と改称しており、対談中では正確に「クラック」の語が主に用いられているが、一般には「しばき隊」の名称のほうが浸透しているから、まず「もくじ」などでおおよその内容を把握したい人の存在を念頭に、小見出しなど本文以外の部分には「しばき隊」の語を用いた。

 第4部は原稿用紙換算21枚分、うち冒頭6枚分は無料でも読めます。ただし料金設定(原稿用紙1枚分10円)はその6枚分も含みます。

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 しばき隊を頑張って擁護してみる!?

藤村 ……オレも結構いろいろ考えたんだ。例えばもし今回の件でクラックを擁護するなら、どういうふうに云えるだろうか、とか。

外山 偉いねえ、なんて野間さん想いなんだ(笑)。

藤村 でもそれは1つしかないよね。

外山 まさしく“大衆”を組織した運動体だからだ、と。

藤村 うん。さっきも云ったように、野間さんの功績というのは、本来は政治的な運動になんか関心も縁もないようなバカを、“サブカル”を原基あるいは統合原理として左傾させ、運動に動員したところにある。もともとバカを集めてるんだから……いや、バカというのは違うな。“ドキュン”だね。

外山 ちょっとした感情のスレ違いですぐ殴り合ったりとか……(笑)。

藤村 そうだよ、当たり前じゃん。

外山 下層の人民ってのはそういうもんだ、と。

藤村 主水さんは大学院生らしいし、それなりのインテリなんだろうけど、つまりドキュンの集まりに迷い込んでしまったインテリが……。

外山 流儀の違いがよく分からずに、言葉を間違って、感情を逆なでして殴られた、って話だよね(笑)。

藤村 まさに。そもそもバカの、いや、正確にドキュンと云うべきなんだが……。

外山 下層の人たちね。経済的な下層ではなくて、知的下層。あるいは学歴的な下層というか、ヤンキー的な人たち(「ドキュン」という、ネット上でかなり日常的に使われているスラングについて、知らない人のために一応、ウィキペディアの説明をそのまま引用しておくと、「ヤンキー(不良)もしくは、軽率そうな者や実際にそうである者や粗暴そうな風貌をしている者や実際に粗暴な者、また、非常識で知識や知能が乏しい者」を意味し、由来はテレビのバラエティ番組『目撃!ドキュン』で、「目撃ドキュンの内容は、離婚などで生き別れの親子が対面などというものであった。そのため、ヤンキーのことを、「15歳で結婚して子供が生まれて、20歳になったら離婚して、40歳になったら目撃ドキュンにでている人たち」という意味でDQNと2ちゃんねるを中心に呼ぶようになった」とのこと。紙版『人民の敵』第7号の「ヒット曲研究会」で、湘南乃風の「純恋歌」に共感してそうな層を想像していろいろ語り合われてるイメージとほぼ重なると考えてよかろう)。

藤村 単に“バカ”なだけではなくて、ある種の“強さ”を持ってるような階層。

外山 生命力のある人たち(笑)。

藤村 そうそう(笑)。だからこれしきの“暴力事件”なんて起きても何の不思議もないよ。

外山 “青白いインテリ”がやってる運動じゃねえんだ、ってことだよね。

藤村 外山君があれほど野間さんに批判されながらも、今でも野間さんに完全に敵対しようとはしないのも、実はそこらへんを評価してるからじゃないの? 違う?

外山 どうだろう……それもあるのかもしれない。

藤村 だからヨニウムさんのような丸山真男主義者がしばき隊を嫌悪し、恐れるのは……。

外山 なるほど。徴兵にとられて、周りはみんな、アカデミズムの世界では決して出会うこともないような知的下層階級の乱暴者ばっかりで、しょっちゅうビンタされてた忌まわしい体験がマザマザと甦るんだ(笑)。

藤村 そんな感じだよね(笑)。

外山 人民ってのは恐ろしいんですよ。インテリが期待するような人民の“逞しさ”と、モノホンの人民のそれとは違うんです(笑)。インテリの諸君はもうちょっと人民ってものを、あまりお近づきにならずに遠くから観察するだけでいいから、理解した方がいい。

藤村 だから野間さんのやってることの意義を見極めるのは難しい。野間さんがある種のオルガナイザーとしての役割を果たしているのは間違いないけど……オレの仮説では、野間さんはやっぱり“サブカル原理主義者”であって、80年代の“ロック・スピリット”みたいなものを原基として人々を吸収、糾合して、運動を形成している。ヨニウムさんの見立てとは違って、野間さんが“野間一派”の運動を完全にコントロールできているということもない。野間さん自身もそういうことをたびたび云ってるけれども、それは責任逃れとかではなくて、実際にそうなんだと思う。

外山 しかし野間さんも決して充分に知的な人ではないことは一連の“論争”でだいぶ分かってきたし、そういうメカニズムをそれほど自覚しているとも思えないんだ。半ば自覚的ではあるんだろうけど……“半ば”でしかないからこそ、今回みたいなことに上手く対応できないんだろうな。


 野間易通は典型的なロキノン系サブカルである

藤村 ……せっかくだからここで改めて、“私のしばき隊論”を語ってもいいですか?

外山 どうぞどうぞ。

藤村 昨年のクリスマスに、聖飢魔Ⅱの結成30周年ということで、再結集の“ミサ”(一定の世代以上あるいは以下の読者には改めて説明するまでもなかろうが、「聖飢魔Ⅱ」は80年代に一世を風靡した、自分たちは“悪魔”であるという設定のコミカルなヘヴィメタル・バンドで、ライブのことを“ミサ”と云うなど、独特の用語がたくさんある)があって、オレも行ったんです。その時にふと気づいた。野間さんというのは、80年代に、聖飢魔Ⅱとかを「イロモノだ」「邪道だ」と云って見下してたような……。

外山 ロキノン系(老舗のロック雑誌『ロッキン・オン』の熱心な読者層、あるいは同誌で扱われる範囲のロックを愛聴しているような人たちの意)、と。

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