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〈音楽ガチ分析〉フランツ・リスト「マゼッパ(『超絶技巧練習曲』第4番)

※ 記事を購入すると、midiデータ&分析のフル版をDLできます。(ついでに著者が喜びます)

今回は、ピアニストの憧れであるフランツ・リスト(Franz Liszt)を分析します。
ピアノの代表的ヴィルトゥオーゾであり、交響詩の始祖とも知られる彼は、ドイツロマン派に位置づけられる音楽家です。
「マゼッパ(mazeppa)」は、「超絶技巧練習曲(Transcendental Études)」の第4曲で、ヴィクトール・ユゴーの詩に影響を受けて作曲された作品です。

さて、リストはひとたびピアノを弾くと、あまりに情熱的な超絶技巧で多くの女性客を失神させたといいます。
一方、音楽性はあまりに技術を衒ったもので大味だと批判もされます。
実際分析してみると、特にヴォイシングの響きの悪さが気になり、やはり聴取よりも演奏に重点が置かれた音楽性だといえるでしょう。
一方、古典音楽に対する明確な反抗心も見て取れ、かなり挑戦的な工夫も(響きは悪いが)あることがわかります。

※ 今回は普段と違うソフトを使って分析したので、いつもと形式が違います。

【総評】
同音を4オクターヴ重ねて弾くのを多用し、両手が常にオクターヴを弾いている状態。とにかく細かい音符をオクターブ重ねたり跳躍させたりと、激しい跳躍を絡めた激しい動きが多い。
曲全体に、半音倚音を伴う分散和音が3度平行で奏され、これが主題となっている。それ以外にも非和声音は前の時代のクラシックに比べて多くなっており、旋律の自由度が高い。半音音階の使用がかなり多く、半音で上がったり下がったりする大胆な経過音が頻出する。ただし、旋律の絡み合いはほぼなく、曲中に対位法的なうまみが少ない。
dim和音を偏愛し、属9根省や主和音の偶成といった通常の用法で用いられるばかりでなく、打楽器的な用法や理論に沿わない用法のdim7和音が頻出する(※「D進行するdim7」)。クラシックの規則はかなり破られ、声部の平行や連続8度、限定進行無視などは普通に見られる。純然たる偶成和音や3度進行、3度転調も導入され始めて、演奏効果の向上に一役買っている。ただし、強烈な演奏効果を優先してヴォイシングは全く犠牲にされており、音の響きは大変汚い。音数が多すぎるのに音の配置に音響的工夫がなく、常に響きが飽和している。もっとも、演奏可能にするためには音響を犠牲にするしかなかったのだと思われ、この曲は聞くための曲というより弾くための曲だと分かる。曲全体としては単純な和声で転調も少ないが、無秩序な遠隔調への転調がところどころに見られる。
また、打楽器的に用いられるdim7や耳慣れない偶成和音による和声進行、理論無視が多いことから、リストの耳はいささか現代音楽指向であったと指摘できる。事実、晩年には無調音楽に踏み切っている。ヴォイシングが汚いのも、単なる調和的な音響を指向しなかったからなのかもしれない。

※ IIdim7/VIb - V ・・・dim7を裏コードのようにD2和音として用いる。フリギア旋法的。ハンガリー音楽の影響か?

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