日本企業は、また同じ過ちを繰り返すのか。

今年の夏のインターンシップには、いくつもの新たな試みが生まれています。以下の日経電子版の記事の記事を抜粋してみましょう。

●参加した学生は「活動支援金」として10万円がもらえるのだ。学生の人気を集めているが、お金だけが魅力なのではない。売り物は企業側の本気度の高さだ。インターンでは学生らがグループワークなどを通じて新規事業の立案を体験。その際、学生を指導する講師役は各事業部の責任者である「エース級社員」が務める。社員らはインターン中は業務に就かず、学生の対応に専念するという。また学生には会場近くのホテルを用意し、昼と夜には軽食も出す。そんな至れり尽くせりの内容が学生を魅了している。(DeNA)

●例えば金融を学ぶプログラムでは、マレーシアで現地のクレジットカード事業について約1週間かけて学ぶ。フィリピンでゲーム施設運営子会社の管理職の仕事に同行するプログラムも用意した。「国内店舗でも外国籍の社員が働いているし、インバウンド対応もある。これからは国内勤務でもグローバルで働く感性が必要」(安井氏)とみて、グローバル志向の学生に訴求していく。(イオン)

●「25年に売上高5000億円。この目標達成のためにM&A(合併・買収)をしたい。買収対象と提案価格は?」――。学生らはこんな課題を与えられ、3チームに分かれてビジネスプランを競い合った。インターンを開いたのは、うどんチェーン「丸亀製麺」などを展開するトリドールホールディングス。講師役を務める社員は、マッキンゼー・アンド・カンパニーやボストン・コンサルティング・グループなどのコンサル大手に在籍していた経営戦略の専門家だ。同社のインターンはこれまで「街中の飲食店を食べ歩く」といった現場に直結した課題が多かった。外食志望の学生が集まっていたが、あえて「外食を志望していないような」学生を対象とするインターンを考案した。「次世代の経営を担う優秀な人材を獲得したい」(経営企画室の原田悠氏)との思いがあった。

記事では、高額の報酬、海外でのインターンといった側面が強調されています。バブルのころの新卒採用を知る人であれば、「ああ、またか」と思われたのではないかと思います。

売り手市場の度合いが高まると、まず起きるのは「抜け駆け」です。どの会社よりも先に、学生と接触し、抱え込もうという発想です。OBリクルーターを活用して、主要大学の学生と接書するというのが、古典的な手段。今ももちろん使われています。しかし、現代においては、その主たる手段は、何と言ってもインターンシップ。各社ともに、就業体験の機会という本来の意味のインターンシップではないのに、インターンシップと称して、学生を集め、早期から学生と接触する行為を正当化しています。

このこと自体を、私はとやかく言うつもりはありません。企業の将来を嘱望する有能な人材を獲得したいという企業の意志に、各社ともに忠実に動いているだけです。そのような、ほんらいであれば自由市場であるべきものが、解禁日を設定していらぬ規制をするから、各社は「抜け駆け」に走るのです。解禁日を撤廃し、企業の新卒採用活動を自由化すれば、今実施されている「インターンシップと称されているもの」の大半は、インターンシップという看板を下ろすでしょう。会社説明会と銘打てばいいのですから。そして、数か月にわたって就業してもらう本物のインターンシップを行い、学生にとって有用な社会的な機会を提供する企業の価値も高まるでしょうし、そうした取り組みもまた増えるだろうと思います。

ですが、この記事を読んで、私が「ああ、またか」と思ったのは、そこではありません。

売り手市場の度合いが高まると、企業は、もうひとつの行動にではじめます。それは、「社員の大半が担当することのないような花形仕事をことさらに前面に出す」ことです。当該業界の持っているイメージを払拭し、他業界を志望する学生にアプローチしよう、というようなストーリーが、そこには往々にしてあります。

マーケティング的な発想から言えば、正解です。自社のポジショニングを実態把握し、顧客の志向を分析し、新たな顧客を呼び込むために、新たな商品を投入するのと、同じような行為です。

しかし、大きく違うのは、新卒採用活動における学生は、顧客ではないということです。のちには、同じ会社の一員となることを期待している従業員予備軍を集めているわけです。そして、従業員となった暁には、入社までに見せていた「新商品」ではなく、その会社の「普通の商品」である、多くの従業員が担当している仕事を担当してもらうことになます。すると、何が起きるか。早期離職? 可能性、リスクは高まりますね。しかし、辞めるのであれば、まだいいのです。

ある大手メーカーでは、かつてこんなことが起きました。

「私は、いつになったら海外に赴任できるのでしょうか」。ある時から、そのような発言をする若手社員が激増しました。背景にあるのは、新卒採用時の情報提供内容にありました。グローバル化を進めていた同社は、その側面を強調し、海外で活躍できる人材求む、というメッセージを軸に据えたのです。

採用は大成功でした。いい人材が採用できたそうです。さて、彼らは現場で活躍したでしょうか。グローバル化に貢献したでしょうか。

多くのメーカーにおいて、海外事業にかかわるのはごく一部。それも、経験を重ねて中堅社員になってから、というのが、今も日本企業の実情です。そのような実情がありながら、空手形を切るように「美味しい話」をして学生を引き込むと、その先にあるのは、「自身のキャリア展望に悩み仕事に力が入らない優秀人材の山」です。

たたでさえ、「若手社員が育たない」という状況が蔓延している中で、このようなことが重なれば、企業の現場はどんどん弱体化し、事業や組織をけん引するマネジャー、リーダーは疲弊するばかりです。

企業は「生き物」。全体が見事につながりあう複雑系です。部分最適が、大きなゆらぎをもたらすことが往々にしてあります。採用担当の皆さん、視野を大きく持って、自社の未来を深く考えてください。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO34371520Q8A820C1XS5000/

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