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豊岡演劇祭2023観劇ガイド①:現代日本演劇の「いま」に触れる

豊岡演劇祭2023の開幕まで一ヶ月を切りました。今年の参加プログラムはなんと90以上!どれを観ればいいのか迷ってしまいますよね。そこでこのnoteでは、ディレクターズ・プログラムを中心に作品のあらすじや見どころを紹介していきます。豊岡演劇祭の観劇ガイドとしてご利用ください。

まず注目したいのはぱぷりか『柔らかく搖れる』範宙遊泳『バナナの花は食べられる』。2022年に第66回岸田國士戯曲賞を同時受賞した2作品が揃って豊岡演劇祭で上演されます。「演劇界の芥川賞」と呼ばれることもある岸田賞は演劇界で最も影響力のある賞の一つ。受賞作はそのときどきの日本の演劇を象徴する作品だと言えます。岸田賞作家の作品をまとめて見られる機会は東京でもなかなかありません。現代日本演劇の「いま」に触れたい方はまずこの2作品をチェック!

ぱぷりか『柔らかく搖れる』は広島のある家族を描いた会話劇。リアルで緻密な広島弁の会話を通して、家族が抱えるギャンブル依存、アルコール依存、不妊治療、同性カップルなどをめぐる極めて現代的な問題が次々と浮かび上がります。連続テレビドラマのような4話構成になっているので演劇を見慣れていない人でもきっと見やすいはず。4話を通して見えてくる物語にはサスペンスの要素もあって目が離せません。今回は初演からキャストを一新、台本も改稿しての再演ということで初演を見た方も是非。

撮影:矢野瑛彦

一方、範宙遊泳『バナナの花は食べられる』はマッチングアプリの客とサクラとして出会った二人の男が相棒となり、人を救おうと探偵業をはじめるハードボイルドストーリー。世間一般の基準からいったらダメダメな、社会からはみ出しがちな主人公たちが、ときに失敗しながらそれでも人を救いたいんだと言い放ち行動し続ける真っ直ぐさがグッとくる作品です。現実の世界には酷い出来事が溢れていますが、この作品を見ると、世界をよりよい方向に変えていこうと、そう思っていいんだと励まされるような気持ちになります。

撮影:竹内道宏

城崎国際アートセンター(KIAC)の芸術監督である市原佐都子さんも岸田賞の受賞者です。世界演劇祭での初演を終えたばかりの新作『弱法師』は能「弱法師」や三島由紀夫『近代能楽集』で有名な「俊徳丸伝説/弱法師」をベースに文楽の要素を取り込んだ人形劇。といっても、高尚な、お堅い作品ではまったくありません。それどころか、既存の価値観をひっくり返す強烈なパワーが市原作品の魅力。なんせ今回登場するのは交通誘導人形とラブドール、そして赤ちゃん人形の「家族」です。戯曲は『悲劇喜劇』9月号に収録されているので先に読んでから上演を見るのも面白いかも。市原さんの作品はいつもそうですが、今作も性や愛、家族のあり方を鋭く過激に問い直す作品になっています。

© Jörg Baumann

さて、実は今年のプログラムには岸田賞受賞作家の作品がもう一つ。堀川炎『窓の外の結婚式』芥川賞作家にして岸田賞作家でもある柳美里さんの朗読劇を野外劇として上演するもの。柳さんがプログラム・ディレクターを、平田オリザさんがフェスティバル・コーディネーターを務める常磐線舞台芸術祭からの巡回公演となります。男女の会話に喪失の記憶と互いへの慈しみが滲む声のドラマが夕闇迫る旧名色スキー場に立ち上がります。公演当日はJR江原駅と会場を結ぶ臨時バスも運行されるので交通手段の心配もいりません! 神鍋高原の雄大な景色を楽しみつつ観劇というのも演劇祭ならではの楽しみですね。

写真提供:常磐線舞台芸術祭 2023、撮影:冨田了平

演劇人コンクール特別企画『青い鳥』を演出する松村翔子さんはこれまでに三度も岸田賞にノミネートされたネクスト岸田賞候補の劇作家の一人。『青い鳥』は「利賀演劇人コンクール2017」で優秀演出家賞を受賞した作品で、松村さんは演出家としても高く評価されています。今回は子供向けにリクリエーションしたバージョンを上演。そう、あの有名な『青い鳥』はもともとは童話劇だったんです。『青い鳥』の物語は演劇としてどう演じられるのでしょうか。演劇ならではさまざまな工夫で舞台のうえに広がるちょっとダークな童話的世界は大人も楽しめるものになるはずです。

イラスト:嵯峨ふみか

プログラムの中にはもちろん笑える作品も。アル☆カンパニー『POPPY!!!』に登場するのは結婚間近の恋人、ともに花屋を営む夫婦、40年前に付き合っていた男女の3組。家族や恋人であってもお互いの価値観が完全に一致することは稀でしょう。価値観のずれから生まれる笑いは側から見れば滑稽でも当人たちにとっては笑い事ではなく、だからこそよりいっそうおかしかったりするわけです。アル☆カンパニーは平田満さんと井上加奈子さんが公演ごとにお二人が信頼する劇作家・演出家・俳優と組んで創作を行なうプロデュースユニットで、今作では桃尻犬というユニットを主宰する野田慈伸さんが作・演出を担当。今回は2021年の初演を経ての再演ということで、十分に時間をかけて準備された作品のクオリティは折り紙付き。おかしくもどこかもの哀しく、そして少しだけ心も温まる作品です。

さて、いかがだったでしょうか。見たい作品は見つかりましたか? 次回はCHUNCHEON CITY PUPPET THEATER COMPANYのインタビューをお届けします。

文:山﨑健太
1983年生まれ。批評家、ドラマトゥルク。演劇批評誌『紙背』編集長。WEBマガジンartscapeでショートレビューを連載。2019年からは演出家・俳優の橋本清とともにy/nとして舞台作品を発表。主な作品に男性同性愛者のカミングアウトを扱った『カミングアウトレッスン』(2020)、日本とブラジルの移民に取材した『フロム高円寺、愛知、ブラジル』(2023)など。


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