インタラクティブ業界と呼ばれていたもの :後半

ということで改めて、自分は2014年4月に1-10designに入社した。
確か当時、全社員で60人行ってなかったと思う。

入った当時、インスタレーションなどのウェブでないインタラクティブをやっているチーム(Communication Technology部、略してCT部と呼ばれていた)は合計3人しかおらず、まだまだこれから、という感じだった。

前回の文章でご理解いただいている方もいるかもしれないが、自分は完全に『技術の重要じゃなさ』とか『プロトタイピングで納品といえる案件があること』とか、仕事における技術の立ち位置や制作ワークフローが好きでこの業界に入ってきたため、この業界にビジネスモデルその他諸々が全く分からないまま入ってきていた。

インタラクティブ業界は要するに広告制作会社なのである。なので仕事としては企業の広報部や営業部、そして広告代理店がメインクライアントとなる。

が、そのあたりの知識が全くなく、当時は電通以外の代理店の名前なんて1つも知らなかった。5月に役員がカンヌに行って『カンヌの報告会するよー』と言ってるのを見て『なんでみんな映画祭の話してるんだろう。ショートフィルム部門の映像作家とか先端の映像表現のリサーチなのかな』と思ったりしてた(今でもそれほど詳しくないが・・・)。

(当時は全然良く分かっていなかったが)この2014年はインタラクティブ業界がAppleが殺したFlashの穴を埋めようと試行錯誤していた時期だ。Flashをメインツールとしていたインタラクティブ業界がそれぞれのアウトプットを指向しだしていた頃、という感じ。
AppleのiPhoneにおけるFlash禁止が2010年。この業界の凄腕ディレクタばあかりを集めたPARTYが設立したのが2011年。そしてライゾマティクスの『Sound of Honda』が各種広告賞、そしてメディア芸術祭を総舐めにしたのがこの2014年。

当時の1-10designは大きく4つのアプローチをトライしていた。

1つは従来のウェブ制作。僕が入った2014年の時点でもう殆どFlashサイトはやっていなかったような気がする。JSとCSSがフロントエンドのメインとなる構成への移行だ。

2つ目はインスタレーションやテクノロジーを使った映像制作など、メディアアート的なアプローチのコンテンツデザイン。

3つ目がスマホアプリケーション。ネイティブではなくUnityを導入していた。ソーシャルゲームもテスト的に制作したりしていた。

4つ目がクリエイティブとデザインスキルを買われての新規事業開発の技術的/デザイン的なアクセラレータ。当時はsoftbankとpepperの会話エンジンを開発していた。

『なんで4つもやってるの?』と思うのかもしれないが『受託開発メインでFlashを使って納品物を制作していた会社』というのは現在も、この4つの(かつてFlashが一つでカバーしてた)分野のどれかをメインに据えている場合が多い。なんだったらこの4つの分野を全部できるフルスタックエンジニアもしれっと居たりするぐらいだ。

逆に言うとこの4領域どれかで目立っていて別の業界のように見える会社も元は一緒だったりするのだ。

例えばウェブ制作。 ICSやFICCなど。
例えばアプリ。グッドパッチやKAYACなど。
例えばインスタレーション。ライゾマティクス、BIRDMANなど。
例えばアクセラレータ。noteのCXOになったfladdictさん、Business Architect、softdeviceなど。

どれも元を辿るとかなり近い、お隣さんのような関係だ。横の関係も競合でありながら社長同士が飲み会をするような牧歌的な関係で、中小メーカに居た自分からすると非常に不思議な感覚だった。実際ライゾマティクスやBIRDMANとは一緒の案件をやったり、仕事の相談をしたり、相談を受けたりしていた(ちなみにアニメーションツールとしてのFlashは優秀で引き続き使われている。Science SARUとか鷹の爪団はメインツールはFlashのはず)。

自分は入った直後に2年続くアクセラレータっぽい案件に入り、それをやりつつ半々ぐらいの感じでインスタレーション系の案件をこなしていた。途中で会社が分かれて、最近また一個になったがまぁ仕事の内容的には大きな変化はない。

インタラクティブ業界のコアバリューは何か?

で、やっと主題に入る。僕が書きたい話題はこの業界は何で、結局何が武器なのか、そしてこれからどうなっていくのか、という話だ。
自分のまとめのようになってしまっているが、やりたいのはこの5年間見てきたこの業界の価値だ。
もはやインタラクティブ業界なんて呼び方は死語に近いし、書いた通りもはやみんなバラバラのアウトプットをしている。上記のようにアウトプットや技術だけにフォーカスするとこの業界の特徴を見逃してしまう。

僕はこの業界の特徴は『デザインから逆引きするエンジニアリング』にあると思っている。1−10は(というかこのインタラクティブ業界のエンジニアは)デザインについて理解があり、下手をするとデザインまで含めての実装をしてしまう。

アニメーションをデザインしていたFlashデベロッパ

分かり易いのがアニメーションだ。Flashが今はAnimateと名前が変わっていることから判る通り、Flashのメイン機能はアニメーションだ。Flashデベロッパはアニメーションをエンジニアリング(Flashの場合はActionScriptと言うコード)を武器にデザインする。Flashを使わなくなった今でもウェブではモーションをフロントエンドエンジニアがアドリブでつけてしまうことが多い。これは元Flasherの居る会社の特徴だろう(ちなみに1−10内にはモーションデザイナは社内に勿論居る)。演出意図(デザイン)を考え、そこから逆引きでコードを実装する。

当初、とはいえ『デザインから逆引きするエンジニアリング』はメーカにはないだけで他のエンタメ業界、例えばゲーム業界にも当然あるんじゃないの?と思ったりもしていた。だが実際は違うようだ。今現在、ポジション、カバー率的に当時のFlash並の守備範囲の広さとFlash以上の機能の豊富さを持っているオーサリングツールとしてUnityというものがある。Unityはゲーム業界発祥のツールで、当然ゲーム業界の制作の思想を色濃く範囲しているが、アニメーションなどのデザインに関する機能は非常に弱い。おそらく分業制が非常に進んでいるのだろう。つまり、『デザイン』はUnityの外で、エンジニアの業務範囲外でやっているのだ。そのためか、Flashを経由したエンジニアとゲーム業界からきた生粋のUnityのエンジニアにはデザインに関する態度やアプローチに大きな差がある場合が多い。

Flash以降のエンジニア達の動き

Flashが最終納品のツールとして使えなくなくなるのと前後して1−10などのFlashデベロッパを抱える会社はインスタレーションなどの他のアウトプットを志向した。ライブの演出システム、テレビのライブシステム、イベントブースの照明システム、UnityやUnrealなどのゲーム開発環境などなど。スクリプト言語ではなくネイティブに近い(デザイン的により扱いづらい)言語を触るエンジニアも増えた。
しかしそれでも、アニメーションに直接関与しなくなってもFlashデベロッパは目線がデザイナ的であることは変わっていない。メーカのような技術やマーケットのコンテクストからののトップダウンとも、コンサルや代理店のような概念やアイデアからのトップダウンとも違う、デザインから、カスタマー目線からのボトムアップがこの業界の特徴である。

デザイン思考のエンジニア

昨今流行っているデザイン思考の文脈で言うと『デザイン思考で動くエンジニア』という言い方になる。『デザイン思考』はメソッドの話や課題解決がなんだ、という話題が先行しがちだが、要するに全員が『デザイナー的思考を取り入れて進めていこう』という話だ。そしてデザイナー的思考で動くためには1個人として使用感などを評価することが重要となる。そこでプロトタイプが重要になってくる。デザイナーしかデザイン思考が判っていないと頑張ってワークショップを起点にプロジェクトを進めていってもプロトタイプのフェーズに飛躍が出たり、プロトタイプできるものに制限が多く発生してしまう。

特に多いのが非GUIを使ったインタラクションやVR/ARなど、デザイナが使えるレベルのプロトタイピング環境が整っていない場合と、その後の技術のスケーリング・最終製品を考慮したプロトタイプの設計である。このあたりは以前書いたように大きく乖離があり、体験を仕様に落とすフェイズが非常にコストかかる分野になってくる。デザイン思考、サービスデザインシンキングを進めていくとどの企業でもこの部分の作業が非常に多くなってくる(以前書いた記事はまさしくこのあたりを指している)。1−10の技術者はこのあたりに非常に長けている。

制作物の粒度

また、制作の際に制作物のゴールとスケジュールと予算から、制作の粒度とコントロールするのも非常に得意だ。VRコンテンツを制作しているとゲーム会社と競合することが多いが、制作コストにかなり差がある印象だ。良く言う例えだが『音楽で例えると、1−10はDJのように選曲から入るのに対して、ゲーム会社は全部作曲してる』。予算やスケジュールに合わせて制作物を手一個ずつ木彫りもするし、レゴブロックでサクッと作ったりもする。得られるデザイン、ユーザ体験と制作物の幅が広い。

今後の動き

この業界の動きは大きく2パターンぐらいあるのかな、と思ってる。

プロダクトアウトまで見れるデザイン・エンジニアリングの受託開発会社としての成長

爆発的に人を増やしたりしているが、やはり全てのテクノロジーを見るには足りないし、根本的に工場などを持たないファブレスであるため、メーカや工場をチームに組み込むプロジェクトマネジメント、チームビルディング能力が需要になってくる。実際会社の案件でもテクニカルディレクタ(案件の技術責任者)がチームビルディングとプロジェクトマネジメントを兼ねたような動きをすることが増えてきている。このあたりの強化が進んでくるといよいよ制作会社の業務というよりコンサルティング会社の業務分野に入り込んでいく。

ただ、この分野には構造的な問題がある。『運営』への関わり方だ。おそらくデザインエンジニアリングのコンサルティング会社としてはTakramなどが先行しているが、サービスの運営にコミットし続けているような案件/サービスはないように見える。一方、アジャイルやスクラムなど、世の中の開発手法は『兎に角早く世に出し、その後反応を見てドラスティックに目的さえも変えていく』のが世の中の潮流になっている。そこに対して『開発』や一時的なコンサルティングではカンフル剤的な効果しか期待できない。

日本のPARTYのように他の大手企業と合弁会社を作り、軌道に乗るまで手伝う、というパターンは一見理想なように思うが実際に『何が成功の種かわからない何かを世に出してリソースと予算の面倒を見る』という合意の取り方はかなり大手企業にとっては難しいだろう(その判断ができる企業なら自分達単独で新規事業をそもそも立ち上げているだろうから)。

自社開発の会社へ

何かコアになる技術やデザインを見つけてそこに注力してメーカやサービスのサプライヤに転身する、というパターンも考えうる。スマレジなどがそうだ(この会社も元々インタラクティブ業界だった)。他にもInVision(google)やXD(Adobe)などの競合が強すぎるが、グッドパッチのProttoはそのような流れを想定したようなサービスだろう。

弊社で作ったZIGSIMも「サービス継続のリソースがゼロだが自社製品出せないかな」と思って制作したものだ(去年ふとDL数を見たら3万DLを超えていた)。

ただし、自社製品の開発/販売/運用へのシフトチェンジは実質「幅の広いエンジニアリングとの付き合いを辞める」というキャリアチェンジをエンジニア陣全員に強いることになるため、これ一本にする、というのはなかなか会社的にはカロリーの高い決断である(そういう意味ではスマレジは凄い決断をしていると思う)。

現時点ではプロット然りZIGSIM然り『各会社が受ける受託開発の相談をうまく回すエンジニアリングをツール化し、ニーズがありそうなら社外にも販売を検討する』という、ドックフーディングできるようなツール開発がこの手の会社における自社開発のスタンダードになると思っている。これは何もアプリだけでなく、ワークショップなどのメソッド開発も含まれる。



この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

53

Toyoshi Morioka

いい話

コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。