テクニカルディレクション、インタラクションデザイン、体験デザイン

『御社はなんの会社なんですか?』とか『テクニカルディレクタってなんですか?』を毎回聞かれる度に困る。初めてお会いする方に会社や自分のことを説明する内容のまとめました。年末年始に投稿した『インタラクティブ業界と呼ばれたもの』を読んでおくと背景が分かりやすいかもしれない。

テクニカルディレクタとは?

「テクニカルディレクタ」は「テクニカルディレクション」を行う人です。で、「テクニカルディレクション」について書こうと思ったら日本一有名なテクニカルディレクタの清水幹太さんがまさしく今日、的確に「テクニカルディレクションとは?」をまとめた記事を投稿されているのででそちらを参照していただくと良いかと思います。書かなくて良くなったワーイ。

あえて補足をするとするなら、この業界のテクニカルディレクションは、

『技術を使ってどうできるか』だけでなく、『技術を使わない』という選択肢自体も検討要素に入れている

という特徴があります。

4年ぐらい前の会社の案件でデジタルの顔ハメコンテンツを制作した時のことです。簡単に書くと

写真を取る→画像の顔部分を切り取る→別の画像に顔画像を張り込む

と行った感じのフローのアプリケーションです。自動で顔を切り抜くために顔認識のライブラリを利用したのですが、当時の顔認識の精度はあまり良くなく、メガネがあったり顔が斜めだったりすると認識が外れてました。
で、どうしたかというと、顔部分を切り取る際に一度GUIにプレビューを表示し、オペレータに確認/調整をさせる仕組みに変更したのです。『顔認識の精度向上』という技術的アプローチでの解決を試みず、1日1万円でオペレータを雇って運営できるようなGUIを作っての解決を試みたわけです。


なので幹太さんのnoteに書かれている通り、『実現可能な技術を提案する』というより『実現可能な方法(システム)を提案する』のがテクニカルディレクタの仕事です。

僕らの『コアテクノロジー』は何か?

僕は『糊のようなエンジニアリング』と『デザインツールとしてのエンジニアリング』が武器だ、と答えてます。後者は以前書いた逆引きのエンジニアリング』とほぼ同義です。
(前、名称として『グルー・エンジニアリング』を推してたのですが悉く不評だったので他の名前を募集します・・・)

我々は何か特定の技術に数億円のコストをかけて研究開発していたりするわけではありません。ただ、『コストをかけて作られた、世にある技術を新たな表現やデザインに転用すること』をメインワークにするため、この『転用力』みたいなのには力を入れています。今風に言うと『越境する力』みたいな。舞台照明をツイッターと連携させたり、ボールの動きをトラッキングしてプロジェクタの映像を切り替えたり、ドローンをシミュレーションするためにゲームエンジンを組み合わせてみたり。

もっと技術要素で言うとアプリケーション間通信だったりデバイス間通信だったりhttp通信だったりといった『通信』に力を入れてます。ただしこれも『逆引きして手早くエンジニアリングすためには何が一番効率的か』を考えた結果の勉強分野というか、あくまで結果論ですね。技術ベースで仕事していない、デザイン会社であることが良く分かる話かと思います。


こっからはどっちかって言うと同業者と喋ったりするときに喋る話。

インタラクションデザインとは?

ネイキッドのTokyo Art Cityを見て『デザインの方向性の違い』に気づいた事があります。

この動画の開始3秒あたり、手で触れたところを中心に光が広がっていく演出があります。非常に綺麗ですね。

でもこれ、同時に1−10だったら絶対作らない演出だな、と思いました。何故なら『手を触れてる本人から見るとアニメーションが早すぎて目で追えない』から。多分1回目のデザインレビューで全員から『ちょっと早すぎるね。スピード落とした方が良いんじゃない?』というツッコミが入ります。インタラクションを感じる事、自分の動きとの連動を1-10は設計の指針にする場合が多いです。

じゃあこれはネイキッドのほうがデザインできてないのか、というとそうじゃありません。1−10が恐らく作るであろうアニメーションはこの映像のように引きで撮るとメリハリが失われてしまったように感じるでしょう。1-10の触った本人を中心としたデザインはカメラ映えしません。もっというとインスタ映えしません。

これはデザインの設計方針の違いです。『映像をシャワーのように浴びた自身の写真を撮る』というネイキッドのイベントに来るカスタマの要望に沿った結果辿り着いたデザインだと思います。

一方1-10は(というか恐らくインタラクティブ業界全体は)『ユーザのインタラクション』を骨子にしてデザインを設計します。こその結果インスタ映えもカメラ映えもネイキッドのそれに比べ数段劣ります。ただし、当人のインタラクション自体は非常に気持ち良いものになっています。1−10もインタラクティブ業界の他の制作会社も、SNS拡散で不利だと分かってもこのデザイン方針は中々譲りません。

この差異についてどのように考えるべきなのか、というのを批評家の東浩記に質問したところ、『インタラクションって極論するとセックス。無理やり複製するとポルノになってしまう』という答えをもらいました。ことインタラクションというものに注目すると、ネイキッドとインタラクティブ業界のデザインの方向性は全く別物になってしまうんですね。インタラクティブ業界がSNS連携や映像制作も得意な割に映像の見えにプライオリティを置いたインタラクティブコンテンツを作るのに抵抗が会える理由が非常に腹落ちした言葉でした。

もしかしたらチームラボやネイキッドに比べて1-10やカヤックがVR系に強い、あるいは注力しているのとも関係してくるかもしれません。

『体験を作る会社』『体験を作る製作者』であるために

『1-10って何をやってる会社なんですか?』と聞かれた時、『体験を作る会社です』と返すようにしてます。広告領域ではユーザがユーザになる前も含めての体験設計を行い、最近ではUX的なアプローチも行い、逆引きで体験からエンジニアリングを行う。『モノを作る』のではなく、『体験』を作ってます。

が、さっきのところで東浩紀が指摘したように『体験(インタラクション)の複製』は非常に難しい。ネイキッドはちゃんとデザインしいていますが、広告業界のコンテンツなどでは「映像では気持ちよくインタラクションしているように編集しているが、実際は全然インタラクションがデザインできてない」みたいな事例が結構あります。

また、弊社が良く関わらせてもらうイベントコンテンツなども同様で、折角良いインタラクションがデザインできても数週間、下手すると数回で体験できなくなってしまいます。後に残るのは『インタラクションがちゃんとデザインされたように見えるアーカイブ映像』だけ。上のダメなコンテンツとの差異は映像から判断するのはなかなか難しいでしょう。

このように考えるとインタラクションや体験をデザインすることは『継続して体験できること』も非常に意識する必要があるように思います。



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