革製品と環境:サステナビリティへの真実と誤解。
前回に引き続き、もう少し革と環境について、お話をしていきたいと思います。
サステナブルな選択?革製品の環境への影響を再考する
前回、革ってサステナブルで、決して革製品のために、牛を生産しているわけではなく、食した後の副産物の再利用。つまり、アップサイクルということなので、環境にやさしいのです、と話を進めました。
それでも
革って、環境にやさしくないんじゃないの?
だって、牛を育てるにも、森林を伐採したりして、森林破壊につながるし、環境への影響を換算したら、環境に相当負荷がかかって、やっぱり、やさしくないのでは?
それに、皮が硬いので柔らかくするための工程である鞣すために、薬品を使っているんでしょう、健康に被害が及ぶのではないのかしら。
などと思われている方もおられると思います。
ですので、そのあたりを解きほぐしていきたいと思います。
耐久性と環境負荷:革と合成皮革のライフサイクル比較
まず、第1点目、製造の段階から環境負荷が大きいのではないか、ということです。例えば石油から作られる合成皮革などは、育てるという部分がないので、その製造時に環境負荷が小さいと言われています。
確かに石油から作られるので、製造過程も短く、製品としての不良も少なく、品質も単一ですから、歩留まりもよいのですが、合成皮革は、できた時点から、経年で劣化が始まります。
これはその性質上、否めないもので、5年程度、使用や保管の状況などでは3年ほどともいわれています。
しかし革は丈夫で長持ち、そのお手入れの状況では、10年以上持つともいわれて、それに、その経年での変化が、楽しめて、味わいも深まります。例えば1足の靴のライフサイクルでも、革製品なら1足ですむところ、合成皮革なら3足4足と、買い換えないといけなくなりますので、長い目で見れば、環境負荷が小さいと考えられます。
大切に使えるものは大切に使ってそのライフサイクルを伸ばした方が、環境にやさしいということです。
鞣し工程の進化:クロム使用の実態と環境への誤解
また、もう1点、上述しましたように、皮はそのままでは硬くなってしまうので、柔らかい革へ鞣すという工程が必要となりますが、この際に、以前は、タンニンなどの植物由来のものを使用していましたが、近代には、クロムという薬品で鞣すことにより、その耐久性や染色性、などぐんと高まることがわかり、現在その8割以上はクロム鞣しです。
ただ、クロム剤という名前が、独り歩きして環境汚染だ、という誤解を生んでいるような気がします。
以前の公害問題で、カドミウム(イタイイタイ病の原因)水銀(水俣病の原因)など大きな社会問題となりました。自然界に存在するこうした物質の名前が、多量な工業排水により結果的に人体に影響を及ばしたというがありました。ですので、こうした名前を聞くだけで、即、健康に悪いと思いがちです。
確かに以前工場跡地での毒性が強いといわれている6価クロムに汚染されていると社会問題なったことがありましたし、焼却の時に6価クロムが発生する可能性があるとの指摘があって、クロムが有害というイメージが広がりました。
確認いたしますと、皮を鞣すときに使う薬剤はその6価クロムでなく、以前から安全と言われる3価クロムが使われているのです。また、焼却技術の進歩で6価クロムも発生しない技術も開発されています。
どうぞご安心下さい。私たち皮革業界に携わる者が、もっと勉強してしっかりと説明して、その名前だけで、怖いと思われないよう、そうした誤解を払拭できるようにしないといけませんね。
また、最近は、丈夫で長持ちするので、クロム鞣しを、逆にエコだという考え方や、かつ、さらに新しい鞣し技術へもチャレンジされています。
日本の排水処理技術:姫路市を例にした皮革産業の取り組み
そして、最後に、気になる排水の問題です。
革を鞣す際には多量の水が必要となります。日本皮革の製造のメッカともいえる姫路市は、皮革排水専用の下水管を通って専用施設で処理をされた後、一般下水処理施設で処理も行われています。また様々な有機物などの残りかすのような沈殿物もきちんと処理され、最終レンガやアスファルトとして再利用されています。
つまり、行政挙げて、環境問題をクリアするべく、頑張ってられるのです。もちろん他の生産各地でも厳格に処理されています。日本の排水処理工程はトップクラスなのです。
ですので、どうぞ安心して皮革製品を手に取ってみて下さい。
新たな始まりに向けて:革靴で歩むサステナブルな一歩
ちょうど、コロナも5類となり、初めての4月を迎えます。
きっと卒業式、入社式、入学式、また異動で新しい職場、ひさしぶりにリモートワークから本社に行くなど、新しい生活への切り替えの時期。
おしゃれは「足元から」新しい生活に向けて、革靴を買い替えてみてはいかがでしょうか。
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