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まさかの発掘!90年代関西ニューウェーブシーンの最重要バンド!? CONTROLLED VOLTAGEの過去音源3枚がCDリリース

 TECHNOLOGYPOPSπ3.14です。いよいよ年末も押し迫ってまいりましたが、今回は長らく待ちに待った貴重な音源「DUST TO DIGITAL」「MIND ACCELERATOR」「UN OFFICIAL LIVE TAPES」の3枚がリリースされたということで、このnote別邸でどうしても特集したいという思いがありまして、企画させていただきました。(なお、本家ブログでの特別編は基本的にアルバム1枚の特集レビューという位置付けで、こちらの別邸noteでは、アーティストやグループに焦点を当てた(複数枚を辞さない)の比較的自由なレビューテキストということで、一応使い分けています。)

 今回取り上げますのは、1990年代初頭から中盤にかけて関西インディーズニューウェーブシーンで活動していたテクノバンド、CONTROLLED VOLTAGEです。関西のテクノ〜エレクトロシーンを牽引してきた小西健司(ex.飢餓同盟〜DADA〜4-D〜P-MODELほか)が鉄骨ビートを標榜して90年代初頭に設立した自主レーベル"Iron Beat Manifesto"(以下、I.B.M.)。こちらにはギター&ドラムを迎えてインダストリアルトリオバンドとしてリニューアルした4-Dのほかに看板バンドが在籍していました。それが、多重録音クリエイターとしてデモテープを制作してきた稲見淳率いる4人組バンドCONTROLLED VOLTAGEでした。

 さて、このCONTROLLED VOLTAGE(以下、C.V.)というバンドが少しでも名が知られている要因は、改訂P-MODELのメンバーであった福間創が直前まで在籍していたバンドであったこと、そしてこのバンドがテクノポップ冬の時代の情報源として貴重な役割を果たしていたFMラジオ番組「トロイの木馬」(DJは加藤賢崇)で紹介されたテクノポップアーティストの楽曲を集めた1993年リリースのオムニバスCD「TROJAN HORSE」に「closed eyes view」を収録したことにあります。


 中野テルヲや松前公高といったメジャークリエイターや、ORGANIZATIONやB-2 DEP'TといったTRIGGERレーベル系のインディーズテクノの気鋭ユニット、当時は福岡のインディーズバンドでしかなかったインスタント・シトロン、パラペッツやGNPといったアマチュアのテクノポップ遺伝子を繋ぐバンドが収録されている中で、ある種異色の骨太なテクノバンドサウンドは、確かな個性を放っていて、筆者もその存在感に魅かれて音源を探し回った記憶があります。前述の福間は本オムニバスCDのリリースを最後にC.V.を脱退しますが、こうして一般流通のCDに収録された際のメンバーであったということもあり、C.V.は長く「福間が在籍していたバンド」という記憶のされ方をしていたことと思われます。しかし、そもそもCONTROLLED VOLTAGEという名義はもともと稲見氏ソロワークスとしてのものであったらしく、バンドとして機能していくのはまた後年の話で、今回発掘されたリマスターCDは、このバンドの歴史を振り返る貴重な機会になるのではないかと思います。



黎明期の貴重なデモカセット音源をリマスター!「DUST TO DIGITAL」

1.「HANDSHAKE」 詞・曲・編:C.V.
2.「SHE IS MINE」 詞・曲・編:C.V.
3.「SYSTEM100 VEL 1+2」 曲・編:C.V.
4.「1220」 詞・曲・編:C.V.
5.「OUTER」 詞・曲・編:C.V.
6.「P&E+M」 曲・編:C.V.
7.「DEBAYASHI → 1984 (RECORDED LIVE 92)」 曲・編:C.V.

 C.V.はカセットテープによる1stアルバム「MIND ACCELERATOR」以前に、3本のデモテープを残していたようです。「Un Official Demo Tracks」と題したそのカセットテープは3本制作され、今回発掘音源としてリリースされた「DUST TO DIGITAL」にはこの3本のデモテープに収録された貴重な楽曲が収録されているというわけです。状況証拠からすると、このデモテープが制作されたのは1991年〜92年にかけてと思われますが、これらの収録楽曲にはその時代性を感じさせるタイプのサウンドが楽しめる仕上がりとなっています(なお、このデモテープ類は筆者も未入手でして、長年探し求めていたものでしたので、今回の発掘はとても嬉しいです。故に3本のカセットテープのどこに収録されているかは不明ですのでご容赦ください。← しかし、状況証拠でなんとなく時系列は把握できますが)

 まず彼らの代表曲と言っても良い「HANDSHAKE」です。今回の発掘リリースの3枚全てに収録されているのはこの楽曲しかありませんので、スタートを飾るに最もふさわしいと言えるでしょう。キョワンキョワンの不思議音響から始まるダンサブルチューンですが、ベースとなるのは当時席巻していたハウストラックです。今回改めて気づいたのですが、1993年(福間創在籍時)までのC.V.のサウンドは基本的に軽めのスネアがパシッ!パシッ!と叩き出されるリズムトラック、クラブ仕様のテクノ&ハウス系リズムを軸に構成されています。そして、この「HANDSHAKE」、そして「SHE IS MINE」のボーカルを聴いてみてお気づきのとおり、この声は独特の低音ボイスが特徴のボーカル・杉本敦のものとは思えないほどの若さです「SHE IS MINE」はあの伝説的草の根ネットワークXD FirstClass Networkが発行していたオムニバスCD&CD-ROM「XD-submit」にも収録されていた初期C.V.の名曲ですが、上記のように若さ溢れる杉本ヴォーカルに加えて、アシッドなシンセベースが主張するダンスナンバーということもあり、C.V.の質感とはやや異なった印象を受けます。ちなみに5曲目「OUTER」も音質の粗さや楽曲の完成度という点ではデモの域を出ていませんが(途中のインダストリアルリズムなかなか良いです)、C.V.のニューロマ的な部分が表出していると思われます。

 本作には興味深いインスト楽曲も収録されています。その名も「SYSTEM100 VEL 1+2」というど直球なシンセインストですが、Rolandが誇る名機SYSTEM-100によるインプロヴィゼーション電子音響で、恐らくリズムもSYSTEM-100で音作りされていると思いますが、ベースサウンドも含めて独特の深みがあるサウンドです。2つの組曲的構成ですが、後半アップテンポになってからはムッチムチの不思議音響とリズムに合わせてブンブンと共鳴する電子音響が心地よいです。

 もう1曲のインスト「P&E+M」では静謐なアンビエントスタイルのサウンドに浮遊感のあるE-Bowギターが奏られます。「DUST TO DIGITAL」では稲見のギタリスト的側面を見せる場面は少ないのですが、この楽曲で面目躍如、このニューウェーブ風味満載のギターワークは、後期C.V.にて大々的にフィーチャーされていくことになります。ボーナストラックの「Debayashi」は当時のライブでの登場曲ですが、メンバー紹介のAMIGAボイスが特徴です。AMIGAは80年代から90年代にかけてコモドール社が発売していたパーソナルコンピューターで、平沢進が好んで使用していたことで有名ですが、当時C.V.にはヴィジュアル担当として野間靖が第5のメンバーとして在籍して、彼が制作したCG画面と共にあの解像度の低い独特のコンピューターボイスが発声させられていたのでした(なお、冒頭のみの「1984」はDavid Bowieのカバーです)。

 そしてもう1曲触れていない「1220」ですが、ここからボーカルスタイルが代わっていることがわかると思います。ハウスなルーパーリズムに乗った扇情的なボーカルは、さながらLiaisons Dangereusesのようです。この楽曲がいわゆるバンド形式のC.V.の始まりと言えるのではないでしょうか。ここに福間創、MASAと加わって4人組として活動していくことになるわけです(加入時期は多少前後するかもしれません)。


初期CVの貴重なオフィシャルスタジオ録音盤をリマスター!「MIND ACCELERATOR」

1.「MIND ACCELERATOR」 曲・編:C.V.
2.「MICRO KERNEL」 詞・曲・編:C.V.
3.「1220」 詞・曲・編:C.V.
4.「GASOLINE」 詞・曲・編:C.V.
5.「S-7」 曲・編:C.V.
6.「SHE IS MINE」 詞・曲・編:C.V.
7.「HANDSHAKE」 詞・曲・編:C.V.
8.「THE END OF 125」 詞・曲・編:C.V.
9.「MIND ACCELERATOR (REPRISE)」 詞・曲・編:C.V.

 そしてこちらがIron Beat Manifestoからカセットテープにて1993年にリリースされたC.V.の1stアルバム「MIND ACCELERATOR」です。ここまで語っていながら、恥ずかしながら筆者はこの「MIND ACCELERATOR」を未聴でしたので、今回遂に念願の再発であったわけです。ではその感想の前にメンバーの確認をしてみましょう。

杉本敦(Atsushi Sugimoto):vocals
 色気のある低音声質のメインボーカリスト。David Sylvianや遠藤某や櫻井某系のアレです。
稲見淳(Sunao Inami):Computer Generated Instrumentation
 言わずと知れたメインコンポーザーにして主宰者。PPG~Waldorf愛好家にして、E-bowも駆使するギタリスト。現在は農業のかたわら電子音響アーティストとして活動。
福間創(Hajime Fukuma):Computer Generated Instrumentation
 加藤賢崇にMemorymoogの値段を突っ込まれた仮面も被るシンセシスト。1993年脱退後、94年にP-MODELに加入。以降の活躍はご存じのとおり。2022年逝去。
MASA:Trigger and Pluse
 C.V.の底辺を支える紅一点の敏腕ドラマー。テクノ好きするノングルーヴ・ノンスウィング系ドラマーでカッチリクッキリしたフィルインとパワフルなスネア音色で華を添える。小西健司とTAKAとのユニット、T.K.Mの1人としても活動。

 以上、4名のバンド形式となったC.V.ですが、いわゆるテクノ・ハウス路線は継続します。印象としてはさらにストイックなスピリチュアル系テクノなサウンドメイクに移行したようですが、本人たちは"We Play Techno True Type"と標榜しているとおり、自身の音楽性がTECHNOであることにこだわりを持っていたようです。この頃は上記のパート割りを見てもわかるように、稲見と福間が"Computer Generated Instrumentation"という何とも唆られるElectronicsパート名を用いており、ドラマーのMASAに至っては"Trigger & Pluse"というElectronics度満点のパート名が冠せられ、当時のC.V.は既存のバンドというよりはテクノユニットというスタイルであったと解釈すべきでしょう。

 なので、実は福間脱退後の後期C.V.をメインに聴いてきた筆者にとっては本作は実に新鮮でした。流れるようなハウス系リズムにこれぞテクノの代名詞であるサイン波のアルペジオをリピートさせた稲見&福間のComputer Generated Instrumentationコンビによるエレクトロ度満点のトラック・・・前述の「1220」や「MICRO KERNEL」、そして彼らの人気曲となっていく看板楽曲「GASOLINE」も、もちろんインスト曲のタイトル曲や「S-7」も全てがTechno-Styleで構築されています(「GASOLINE」の原曲はこうだったのか〜・・・途中で素っ頓狂なサンプリングを放り込んでくるのか!・・・と率直に思いましたがw)。

 後半は「DUST TO DIGITAL」(Un Official Demo Tracks)でも収録された1人C.V.時代の代名詞楽曲「SHE IS MINE」(本作の中で聴いてみるとロマンティック度が上がるエレポップに聴こえます。デモテープからはラストにシンセソロが追加されました。)、「HANDSHAKE」が収録されていますが、圧巻はラスト前に配置された「THE END OF 125」。彼らの楽曲には珍しくメジャーに転調してのサビの開放感が美しいです。そしてリズムトラックの構築も良いですね。特にスネアのフィルインの絶妙なタイミングにMASAさんを感じます。
(※なお、ここまで書いてきておきながら今更ですが、彼らの楽曲は全て英語詞です。)

 正直ここまでテクノに特化した作品であるとは思いませんでしたが、当時のインディーズテクノポップとしてはクオリティの高さに驚かされるところです。
 しかし、本作を持って前期C.V.は一旦区切りを迎えることになります。前述のオムニバスCD「トロイの木馬」に未発表曲「closed eyes view」が収録されると、そのリリース記念ライブを最後に福間が脱退します。この「closed eyes view」(注稲見氏ご本人からの情報で、この楽曲のボーカルはなんと稲見氏ご本人ということです)ですが、アルバム「MIND ACCELERATOR」と比較すると、急にニューウェーブ色が強くなったように見受けられます。それはMASAのドラムが強調されたサウンドに変化したことも要因があると思いますが、これはC.V.が第2段階に入った証ではないかと解釈しています。

 さて、時系列は前後しますが、C.V.は「MIND ACCELERATOR」リリースの前年、1992年には大阪阿波座のCLUB CLIMAXにてTechno-Styleのライブ「LIVE ELECTRONICS」を敢行しています。このライブは本作から3曲が収録されたライブビデオとして販売されましたが、これが今回もう1枚リリースされた「UN OFFICIAL LIVE TAPES」にエンハンズドCDとしてまで収録されています。


貴重なビデオ作品も収録したマルチメディアライブ盤!「UN OFFICIAL LIVE TAPES」

1.「FREE WHEELS (94_July_9)」 詞:杉本敦 曲:稲見淳 編:C.V.
2.「GASOLINE (94_July_9)」 詞・曲・編:C.V.
3.「HANDSHAKE (93_Nov_20)」 詞・曲・編:C.V.
4.「LABYRINTH (94_July_9)」 詞:杉本敦 曲:稲見淳 編:C.V.
5.「SECOND SIGHT (94_July_9)」 詞:杉本敦 曲:稲見淳 編:C.V.
6.「SEEK (94_July_9)」 詞:杉本敦 曲:稲見淳 編:C.V.
7.「THE END OF 125 (93_Nov_20)」 詞・曲・編:C.V.
【VIDEO】
「LIVE ELECTRONICS (RECORDED LIVE 92)」

 というわけで、このライブ音源集でございます。上記の楽曲タイトルに丁寧にいつのライブであるか、年月日が記載されていまして、1993年11月20日もしくは1994年7月9日のライブからの音源ということになります。ということは、この音源にはもう福間創はC.V.に在籍しておらず、今回の発掘リリース第1弾の中では唯一後期C.V.の音源ということになるわけです。

 福間脱退後のC.V.はしばらく杉本・稲見・MASAにヴィジュアル担当の野間靖を加えた体制で活動を継続していきますが、1993年11月20日(恐らく尼崎LIVE SQUARE VIVRE)のライブの際は下記の通りの編成でした。

杉本敦(Atsushi Sugimoto):vox
稲見淳(Sunao Inami):Stratocaster・PPG
MASA:Simmons
野間靖(Yasu Noma):Amiga

 なお、このライブはカセットテープ「OFFICIAL BOOTLEG」としてライブにて販売されました(恐らく第2弾リリースの発掘音源CDに収録されると思います)。

 ここで遂に稲見が本格的にギターを手にするわけですね。シンセサイザーもPPG WAVEを大胆にアピールしていくことになります。MASAも本格的にドラマーとして辣腕を振るうわけで、遂にニューウェーブバンドスタイルがスタートとなりますが、やはり福間のパートを埋められているわけでもないので、1994年に新メンバーが加わることになります。それが、自身で作詞作曲編曲までこなす新進気鋭の多重録音系エレクトロポップシンガーソングライター・緒毘絹一(Kenichi Obi)ことOBIです。というわけで、本作の1994年7月9日の音源は下記の体制であり、OBIが参加していることになります。

杉本敦(Atsushi Sugimoto):vocals
稲見淳(Sunao Inami):guitars・bass・synthesizer & computer programming
緒毘絹一(Kenichi Obi):synthesizers・chorus

MASA:drums & electronic percussion

野間靖(Yasu Noma):Amiga & video effects

 いかにもイケメン風のキーボーディストが加入したためかどうかはわかりませんが、バンドは急速にUKニューウェーブテイストに移行していきまして、代表曲「GASOLINE」「HANDSHAKE」はソリッドなエレクトロロックサウンドに変貌し、新曲「LABYRINTH」、「SECOND SIGHT」(アルバム未収録ですがこの曲は本当に哀愁エレポップで良いです)では明らかにJAPANを、「SEEK」はULTRAVOXを意識したニューウェーブ(疾走感が凄まじい)、ニューロマンティクスを意識した作風に変化しました。実はこの時期のサウンドが筆者の好みに非常に合致したものであり、筆者にとってのC.V.とはこの時期、後期C.V.ということになります。何が良いって、明らかにYMO「BGM」っぽい陰鬱したクセの強い音色に変化していますし、ドラムのスネアの叩き出し方がノングルーヴでガシガシしている(スネアを碁盤目に置きに入っている感覚?)部分も素晴らしい(小西健司のI.B.Mに在籍していることが良く理解できる鉄骨系ビート)。そしてやはりギターが加わると実にロックになるといいますか、躍動感が加わります。

 なお、これらの音源は、90年代〜00年代にかけての稲見氏主催のHP「CAVE STUDIO」の隠しページの中にReal Audio形式でUPされていた音源であり、筆者はその音源をダウンロードして長年後生大事に聴かせていただいていたので、今回リマスターされた音で楽しむことができて、実に感慨深いです。

 ということで、個人的にはやはりこの「UN OFFICIAL LIVE TAPES」が好みであることを再確認した次第です。
 なお、この後期C.V.の音源はしっかり2002年のアルバム「LOST AND FORGOTTEN」に残されていますので、この機会に是非ご試聴を。


 このようにまさか実現すると思えなかったCONTROLLED VOLTAGEの貴重な音源が3枚もリリースされたわけですが、なんとまだ2枚追加があるようです。恐らく前述の「OFFICIAL BOOTLEG」(「UN OFFICIAL LIVE TAPES」収録曲以外の4曲収録)や、ボーカル杉本欠席時に稲見・福間・MASAで演奏した貴重なライブ「MINUS ONE LIVE」、忘れられていたビデオ作品(収録曲は全て未発表のインスト)「USED UP AND EMPTY」、そのほか後期C.V.の楽曲(「4gatsu」のスタジオ録音版もあったような・・「System of Lips」のフルバージョンも聴きたい・・)や、OBI氏の楽曲までリマスターされそうで、期待度はいやがおうにも上がります。
 そして、再び稲見氏ソロユニットとして30年ぶりに再始動した第3期C.V.の新譜「DIFFUSION」も控えているということで、CONTROLLED VOLTAGE周辺がにわかに(一部で)盛り上がっています。一ファンとして、首を長くして待っていたいと思います!

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