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土屋昌巳リマスターBOX「Masami Tsuchiya SOLO VOX EPIC YEARS」全曲クロスレビュー(3):3rdアルバム「Life in Mirrors」

 今回はボックスセット「Masami Tsuchiya SOLO VOX EPIC YEARS」の3枚目、いよいよ最高傑作との呼び声も高い3rdアルバム「Life in Mirrors」がテーマです。誤解のないように捉えていただけるようであれば、メディアに翻弄されたとも言える1stならびに2ndアルバムでしたが、ここからは彼の独壇場、堰を切ったように才能がほとばしる楽曲たちに魅せられた2人の熱いトークが繰り広げられます。文章量は非常に長くなりますが、お楽しみ下さい。

◆3rd「Life in Mirrors」(1987)

〜オープニング〜

@tpopsreryo:
土屋昌巳のリマスターBOX「Masami Tsuchiya SOLO VOX EPIC YEARS」全曲クロスレビュー企画、いつものように@junnoviさんとの雑談レビュー、本日は3rdアルバム「Life in Mirrors」です。よろしくお願いします。

@junnovi:
よろしくお願いします。いよいよだ~っ!

@tpopsreryo:
2ndアルバム「TOKYO BALLET」から1年空けての1987年リリースである本作からは、俗にいう土屋EPIC3部作の誉れ高い第1作ということになりますが、サウンド面でも楽曲面でもクオリティをさらに上げて来たという感がありますよね。そして@junnoviさんと共に出会った初めてのアルバムでもあります。
そんな3rdアルバム「Life in Mirrors」ですが、まず驚かされるのは豪華なゲスト陣。Mick Karnはもちろん、David SylvianやDuran DuranのJohn Taylor、Roxy MusicのAndy Mackayといった普通では呼べないような大物ミュージシャンを起用できるのは、さすがはJAPANのサポートで名を馳せた土屋ならでは。
そして本作から起用されているのがKilling Timeの清水一登やBANANA、福岡ユタカといった面々ですが、彼らの起用は前作からディレクターとして関わっている福岡智彦人脈による部分が大きいですよね。3曲を作詞したQujilaの杉林恭雄の起用も彼の推薦で、その後の作品も含めて非常に重要な人物です。
そんな豪華スタッフに囲まれ、その後の作品に連なるアラビックな世界観とギタリストとしての矜持をまとったロックテイスト、そして芳醇に漂ってくるニューウェーブの香り。それらが絶妙にブレンドされた名盤という認識ですが、本作への思い入れが強い@junnnoviさんにまずは語ってもらいましょう。

@junnovi:
こうして書いてもらったらほとんど、言いたいことを(いつもだけど)的確に言ってくれてるから、あとは何を言おうかという感じだけど、このアルバムについてはやっぱり出会いが衝撃的だったんでそのあたりのことを書きますね。
学生ながらもかなり背伸びをして買い揃えたオーディオを鳴らして、そのハイファイさを初めて体感したのがこの「Life in Mirrors」CDでした。初めて聴いたのは確かそんなに暑くない時期だったと思うのだけど、余りの圧倒的な音楽体験に、全身から汗が吹き出したのを思い出します。
この音楽は何だろう!?ってね。「Life in Mirrors」を紹介してくれたのはおそらくセンセだったと思うんだけど、当時毎月発売日を待ち望んで買っていた「CDジャーナル」のコメントも加勢してジャケットがちょっと気味悪かったけど聴いてみようかなと思ってレンタル屋の店頭に並ぶ「Life in Mirrors」に手を伸ばしたのでした。
そしたら自分でも思っても見ないような音楽体験が待ってた。87年当時、このアルバムの音は良く聞こえて、相当高価な録音機材を用いて録られたんだろうと思いました。1曲目の前奏の不思議な響きから10曲目の3度の和音で自由に演奏されるギターの音まで、クリアで音圧も高く、本格的なニューミュージックなるものを知った気持ちになれましたね。そして音そのものの良さ以上に、楽曲やアレンジの多様さに感動して、その後何度も何度も聴き続けることになるのだけど、1つのタイトルに3,200円のお金を出せるほど裕福でない身としては、何度かレンタルをして結局カセットにダビングすることになります。ダビングのとき、このアルバムの魅力を余すところなく感じ続けたくて、当時市販されていたカセットテープの中でもかなり高価だったSONYのMetal-ES(初代)というキンキラパッケージでシースルーなデザインのカセットに大切に大切にダビングしたのを覚えています。Metal-ESというカセットはSONYのMETALLICというまるで西洋の騎士のようなカセットの次の世代に出た当時最高峰のカセットだったのだけど、そういうメタルテープ独特のあの金属臭に酔いながら、どれだけの熱い思いでダビングをしたかを今でも思い出します。

そうやって私は土屋昌巳の目くるめく音楽世界にのめり込んだのです。

あ~書き切った!ここまで書くのも、人に伝えるのも初めてやから、センセも「へ~」って感じでしょうかw 何しか、概観についてはほぼ一切を吐き出しました!

@tpopsreryo:
メタルテープっていうのが時代を感じるねw ワタシは当時メタルテープが嫌いだったんです。ハイポジ派だったんですよね。確か日立マクセルのUD IIだったかな? もちろん当時はワタシも金がなかったのでレンタルだったと思うね。しかもCDプレイヤーがなかったので、レコードだったと思います。それをダビングして。

@junnovi:
音楽を聴く環境がどういう状態であったかも結構左右すると思う。表現者・制作者の意図を汲み取るのには、ハイスペックなツールを揃えるのはとても重要だったと思ってて(それは今もだけど)、当時、私の最高賛辞としてメタルテープへのダビングがあったのでした。

@tpopsreryo:
それは何度も何度も借りてからダビングするからできる芸当ですよね。一度だけでは期待はずれだった時は危険過ぎますからw 当時はCDで聴けるのが羨ましかったですね。レコードからカセットテープのダビングは大変なんですよ。A面B面の時間調整がw このアルバムはなんとか上手くいった方だったと。

@junnovi:
そう。レコードからのダビングは大変。時間が中々読めないから。レコードに各曲の時間が表示されていたら良いのだけど、無いものももちろん多いから、結構やっつけで録って行ったり、余裕をもって46分じゃなく54分とかで録ったり。CDの場合、プレーヤーのコンディションは手軽だし、時間もデジタルで表示されるし、やりやすかった。なんでダビングって本当に真剣勝負だった。あとメタルテープってカセットデッキが良くないと、1回録った曲が消え切っていなくて、それはそれでとてもおカネのかかる賭けだった。

@tpopsreryo:
そんなことが起こってたんだ。メタルテープって余り使ったことがなかったので。CDの場合は曲順の入れ替えとかできたしそれだけでも画期的だったよ。レコードダビングはテープの残量でドキドキしたもんw

@junnovi:
そう! だから音楽を聴く時の「覚悟」みたいなのが全然今とで違った。その「覚悟」というのは、レコードが特に厳しいけれど、CDからのダビングだって結構な「覚悟」が必要だった。その後CD-Rが出て来て丸ごとコピーなんてのが出て来てからは、結構やっつけになった気もするね。
それにしても、レコード会社から発売されるカセットって当時結構あったけれど、あのカセット、Normal Positionなのにどうしてあんなに音が良いんだろうって何度も思った。私はカセットはヘッドに絡んで台無しになるのを恐れて1つも買ったことがないのだけど、友達とかがたまに持っているのを聞くと、ビックリするようなクオリティの音質が聴ける。しかもさして再生機側の良し悪しを問わない。同じものをCDで聴いても再現できない。いや圧倒的に小さくて細くて弱った蚊が飛んでいるように聞こえる。これこそまさにCD化する際の音痩せの最たる事例なのかな? 
私はカセットの、輪郭も鮮明で音圧のある音を求めて、背伸びしてCDプレーヤーを買ったり、3ヘッドのカセットデッキを買ったり(3ヘッドだと録音レベルが手動で調節ができるから音圧のある録音ができる!)、メタルテープを買い求めたのでした。結果としては全戦全敗だったんだけど、Normal Positionであそこまでの音質と音圧を閉じ込めることが出来るのは、機材によるんだろうなぁと思った。民生用の機器とプロマスター仕様の機器とでは、埋められない差を設けているんだろうなって。まるで医者が処方箋で出す薬と、ドラッグストアで市販している薬の、同じ薬を名乗っていながら有効成分の濃度や含有量がまるで違う(それどころか値段も市販の方が高い!)のような感じやろうか。とにかく、クオリティが違いすぎるのでした。

@tpopsreryo:
そんなにNormal Positionって音が違うのか。ずっとハイポジ使ってたわw
さて話を元に戻しますが、本作はリリース時期が10月だったので、確かに暑くない時期といえばそうでしたね。以前から土屋昌巳は聴いていたし、前作も喜んでレコードレンタルして聴いていましたから、こんなのどう?って感じで薦めたんだと思いますね。ルックスで気味悪がられるのは織り込み済みでw

@junnovi:
「RICE MUSIC」も「TOKYO BALLET」もリアルタイムで聴けたことの羨ましさは堪らないものがあります。その時代の空気を背景にして音楽の最前線を共時的に感じるのは、後追いで遡って聴くのと圧倒的に違うからです。そそり立つような、峻厳さすら感じさせる音楽体験は圧倒的でしょうから、それを若い日に知ってしまった場合、その後の音楽人生を決定的にするんだと思う。音楽を単なる流行の1つとして捉えるのではなく、生活の彩りを添えるという程度のものでもなく、異性交遊の有効ツールとして使うのでもなく、もっと生きることの根源に近いところに迫る意義を音楽の中に感じ、求め、見出すのだと。

@tpopsreryo:
そうですね。中高生の多感な時期に出会う音楽というのは一生モノですから。残念ながら異性交遊のツールとしては使えなかったけどw 当時は現在の地に引っ越して来てやっとレコードレンタルできる身になった時期だったから、そりゃあ猿のように聴きまくってましたね。その中の1つに土屋があったのです。

@junnovi:
数多く借りて聴く中でも、このアルバムは孤高の圧倒さがあったんじゃない? 私は今まで聴いてた音楽って一体何だったんだろうというくらいのインパクトがあったよ。

@tpopsreryo:
そうなんですよ。他となかなか比べることができない。いつもこうした企画の時に、ネタ的にいろいろなアーティストを挙げられるけど、彼に関してはそんなネタが思いつかない。孤高の存在というのは言い得て妙だと思うね。特に今回から連なるEPIC3部作に関しては。


1.「STAY IN HEAVEN」

 作詞:杉林恭雄 作曲・編曲:土屋昌巳

@tpopsreryo:
それでは3rdアルバム「Life in Mirrors」各曲をレビューしていきましょう。
1曲目「STAY IN HEAVEN」。いよいよEPIC3部作の幕開けです。期待感溢れるオープニングから世界観が明らかになるイントロが印象的なこの名曲の解説を@junnoviさんにまずは熱く語っていただきましょう。

@junnovi:
行くよ~。行きますよ~。長いよ~。だいじょうぶ~???w
じゃ、参ります。

森の奥深くに、人知れず虹色に湧き出る泉のような、魔法がかった清泉の音でこのアルバムの火蓋は切って落とされる。1987年当時、ここまで強烈な力のこもった録音は中々なかったと思う。汲めども尽きない漲るパワーに圧倒され、約40分間にわたって至高の音楽体験をすることになる。
レコーディング環境が目まぐるしく変化していたであろう最中にて、スタジオの熱気をリスナーに余す処なく伝えようという土屋昌巳の強い意気込みに飲み込まれてしまう。
この曲で始まる疾走は5曲目の「PERFECT DAYS」まで、息をつく間もなく手を変え品を変え一気に続いていく。
生命力が横溢する、鋼でも叩いているかのような硬質なドラムスとエッジの利いたベースが変幻自在に変化し、どんどんと展開する様は、音楽を聴く楽しみとはまさにこういうものなのだと解するに充分な素材を提供してくれる。
この曲はアルバムの1曲目に持ってくるために創られたといっても良いくらいに、土屋昌巳の世界に一気に引き込むの魅力と完成度の高い作品で、杉林恭雄の得意とするシンボリックでアンビバレントな詞の世界の中で、キャッチーだけどポップすぎないメロディと、堅固な曲構成と緻密なアレンジが複合的に融合し、見事に昇華した好例。
特にコメントしたいのが前奏とBメロ。前奏は溢れる泉のような音に思わず気持ちが昂ぶる。この前奏部分の音とリズムにどれだけの人の手が複雑に絡み合っているのだろう。そんなことを想像して私はたまらなく興奮する。奔流する音と高ぶる感情とが自分の中でリンクする。パンもブドウ酒もたわわなフルーツも、しっかりと味付けされた肉料理も、目の前の食卓には夜通し食べても食べきれないほど沢山盛り付けられている、そんな饗宴を想起させる。「さぁはじまりますよ。」と告げている。
前景では音の泉が湧き立っているのだけど、その奥では、膨大な電気の消費が感じられて「シューッ! シューッ!」とか「キーン!」というエレクトリックなノイズが聞こえてくる。あぁもうたまらない。その大量に電気を消費する様を逃したくなくてSONYのMetal-ESにダビングしたと言っても良いほど。この電気の大量消費、エコな90年代に入ったら決して許されない所業。「この前奏部分を作るのに、どんだけ電気使うねん!」「テクノロジーとはエネルギーの消費である」という良く分かんないフレーズが出てくるほど。機材好きのミュージシャンのPeter Gabrielの作品の中でも時々「シューッ! シューッ!」とか「キーン!」という膨大な電気の消費を感じさせるノイズが聞こえて、ムズムズしてしまうのだけど、それと同じ。
あと、この曲のホーンセクションを当時とてもカッコイイと思った。ブラスアレンジってすぐに陳腐化するから余り触れないようにしてきたのだけど、この曲のブラスアレンジについては飽きないし今も陳腐化していないと思う。
そしてBメロ。ここで杉林恭雄の言葉の響きと土屋昌巳の楽曲の響きとがピタッと重なり合う。言葉と音楽が呼応する。思いのほか簡単なメロディラインなのだけど、そのために杉林が描く妖艶な世界が鮮やかに立ち上がる。
この曲は色んな点において80年代を代表するアルバムの1曲目にふさわしいが、自分にとって土屋昌巳を本格的に知ることになった最初の曲なだけに思い入れもひとしお。

@tpopsreryo:
非常に熱い解説をありがとうございますw Bメロに関してはすこぶる同意ですね。この楽曲のBメロの素晴らしさはストリングス系音色を奏でる清水一登のパッドにあると思いますね。あのテンションでグッと来るわけです。全体として効果的にストリングス音色やオケヒットが使われているんですよね。
イントロの部分もあのストリングス系白玉でブワ〜っとくるから引き込まれるというか。そしてこれは本作全体に言えますが、渡辺等のベースプレイは素晴らしいね! ゲストのMick Karnに目を奪われるけど、ここでは彼にしては珍しいチョッパー奏法でグルーヴを生み出しています。リマスターの恩恵ですね。
また、ブラスセクションについても同意です。跳ねるようなフレーズ。ワクワクしますよね。オープニングにふさわしいアレンジだと思います。特にCメロが大好きですね。前述の渡辺等ベースとの絡み合いが素晴らしいです。そして例の2周目Aメロ終わりのギターソロ! やはり今回も出ましたw

@junnovi:
そうそう!Cメロというかブリッジというのか分かんないけど、ここも秀逸。最初の万華鏡みたいな音も登場するし、すごい盛り上げ方。あとやっぱり2週目のAメロの一休みw 好きやね~。でも当時はこれを初めて知ったものだから、ビックリしたよ~。ホント渡辺等のベースが頑張ってるよね~。

@tpopsreryo:
時の終わりを〜♪の部分ですね。万華鏡の音はあのハープっぽいフレーズね。イントロにも出てくる。あれだけでも神々しさが増すというかね。あのソロパートの入り方はもう十八番だからね、B&Bの「もみじ饅頭」みたいなものだからw

@junnovi:
ところでセンセ、この曲については、他でも似たような曲を作ってるんでしょ、この人。

@tpopsreryo:
そうですね。小泉今日子の「水のルージュ(Berlin Version)」ですね。大村雅朗アレンジのあの「水のルージュ」を土屋プロデュースの87年アルバム「ファンタァジェン」で別アレンジで収録したもの。入り方といいサウンド、ブラスセクション、そのまんま「Life in Mirrors」です。

@junnovi:
そうそう!これ!水のルージュw ここまではまるもんなんやね~。まるでJadoes「Heartbeat City」と角松の「I can give you my love」(第4文型)みたいなもんやね。

改めてこのyoutubeで水のルージュを聴いたけど、こっちも派手派手でエッジもしっかり効かせてて、ベースもバッコンバッコン・ベキベキいってるし、ブラスセクションも、どれもカッコ良い! ええね! それにしても小泉今日子、若い!!

@tpopsreryo:
小泉今日子は今と比べないでw このアレンジ好きなんですよ。いやオリジナルもTVバージョンのアレンジも好きなんですよ硬質で。オリジナルのテレビ披露時のバックバンドはオーディションで全部女性だったんだけど、キーボードは鈴木祥子だったというプチ情報。それはともかくかっこいいでしょ。あのアルバム銀色夏生が6曲作詞。

@junnovi:
なんと!鈴木祥子!? ドラム叩いてるんじゃないんだ? あ~最近『水の冠』聴いてないなぁ~。「電波塔」ようやく怖さが抜けてきたんだよ~。
銀色夏生。そっか、そうやね。斉藤由貴の「AXIA」とか色々出没してたね。私はユカさん(注:高校3年生の時のクラスメート)目当てで読み始めたけど、ユカさん以上に銀色夏生にはまったのでしたw

@tpopsreryo:
そうなんだよ。当時鈴木祥子は修行の時で、高橋幸宏&鈴木慶一のビートニクスや原田真二のバックではパーカッションを叩いてて、小泉のバックではキーボード。こうした下積みがあってのデビューなんですよね。

@junnovi:
ホント鈴木祥子については4枚目までお世話になった。ちゃんと「Hourglass」までは丁寧に聴かんとアカンのやろけどね。余りに「Long Long Way Home」が好きすぎて、これ以上は求めません、求めるのは贅沢というものですという勝手な自制が働いてしまったのでした。そうなるまでの下積みがあったんやね。

話は戻してリマスターについてなんだけど、さっき言いまくった電気の大量消費のノイズ。リマスターになって全然聞こえなくなったのw あれが聴きたかったのにwww 80年代後半の時代のあだ花「シューッ! シューッ!」。あれをリマスターでクリアに聴きたかったw

@tpopsreryo:
それ、改めて聴いたんだけど、聴こえたことがないんよw おかしいな。本作では聴こえないんだけど、確かに他の80's作品では聴こえてたかもです。アイドル歌謡とか特にw

@junnovi:
多分ね私しか言ってないと思うw どこで鳴ってたかというと、0:05~0:10あたりと、0:20あたり、0:30あたり、0:46あたり。とくに最初の最初のAメロ導入部分が強く聞こえたんよ。 シューッ! シューッ! って。もうええねw


2.「DON’T STOP LOVING」

 作詞:宮原芽映 作曲・編曲:土屋昌巳

@tpopsreryo:
2曲目「DON’T STOP LOVING」。空間処理が見事なミディアムバラードの逸品です。生き生きとしたメロディラインと共に渋いホーンセクションが素敵なこの楽曲もまずは@junnoviさんに解説していただきます。どうぞ!

@junnovi:
前曲は土屋昌巳のポップでロックな楽曲で「久しぶり。土屋昌巳です。」といったような挨拶代わりにあたる曲だったから、誰が聴いても抵抗なく引き込まれるし、分かりやすい傑作だった。けれどこの曲からアラビャの夜な雰囲気が前面に出てきて、B面の「一日千夜」に至るまで、このアルバムで土屋昌巳が何を表現したかったのかが今まで余り体験したことのない航路を辿りながら明らかになってくる。前奏のギターから不思議な旋律が奏でられ、英語でありながらアラビャ的官能を湛えていて、組み立て方や展開の仕方がとても巧みだなぁと思う。
それまでテレビの音楽番組やFMやらで、色んなミュージシャンの色んな音楽を聴いてきたつもりだったけれど、それは誤解でまだまだ知らない音世界があり、また知っているミュージシャンでもまだまだ世に問うてはいない楽曲が沢山あるのだということ認識した。
PINKの「SHISUNO」あたりでこれに近い空気を感じたことはあったのだけれど、ここまで歌詞やメロディが普段よく耳にするものでありながら、異国情緒を醸し出しているのは知らなかったので、これからどういう展開を見せるのだろうと、初めて聴いたときはその勢いに少し怖さを感じたほどだった。
「君の恥ら・は・は・た、笑顔がすぅーきぃー」って半分サスペンスな絶命の今際の際な声で、うららかなメロディを情感たっぷりに歌っていたり、随所でギターを感情豊かに揺らぎながら弾いていたり、中々な余裕しゃくしゃくぶりで、すごいなぁと感心したものだけど、発売からかなり時が経って改めて聴き直すと、リズムマシンの音が余りにも機械的にダンダン!って進んでいくので、違和感たっぷりに耳に残ってしまって、バランスが悪いなぁと感じてしまった。時間の経過によって聞こえ方が違うんだなぁと改めて思ったよ。
とはいえ、曲の味付けとしてのアラビャ感は、土屋昌巳自身が意図したものをちゃんと表現できているように思った。この曲は他の曲と違ってサックスよりもギターの方がよほどアラビャやね。

@tpopsreryo:
この曲はアラビアな匂いは実はあんまり感じていなくて、非常にロマンティックなミディアムチューンだなあと思っていたのです。イントロから特にギターにかかるエフェクトが実に心地よいんですよ。ディレイのかかり方とか。歌パートにカウンターに入るビブラフォンとギターの掛け合いも美しいですね。
しかし何と言ってもこの曲は吉田美奈子のコーラスの存在感がすごくないですか? 愛するのやめらんない、待ってるのやめらんないっていうw あの部分だけで吉田美奈子ワールドに引き込まれるんですよ。例の低音で土屋が歌を聴かせようとも出過ぎな感じがするのは彼女の圧倒的なパワーなんでしょう。
そしてドラムですね。全曲にわたってバシバシ決めてくるドラムパートなんですが、全編打ち込みなんですよね。結構肉感的な楽曲も多い中で、実はマシーンというのも地味にスゴいと思うんですよ。この曲は松武秀樹だけど、他の楽曲でも藤井丈司や北城浩志といったプログラマー達が良い仕事をしてますね。

@junnovi:
そう。ドラムマシンの音は当時1曲目の名刺代わりの曲以外でも衝撃だった。潔いっていうか。何だけど、リマスターを聴くと過剰に聞こえてしまう。もう年を取ったからなのか、その後の時代のヨワヨワなドラムパートの楽曲に耳が馴染み過ぎてしまったのか。耳もたれがする。大好きなんですけどね。

@tpopsreryo:
爆音ドラムは時代の音だとか陳腐だとか言う人が多いんだけど、それはやはり耳がついていかないんだと思うのですよ。そう言う刺激的な音に慣れてないというか。歌重視ってのが90年代以降はあるからね。ただ自分はドラムの音がいつも楽しみだったんです。それは80年代前半の原体験からそうだったので。

@junnovi:
この曲について当時から一度もセンセと意見交換をしたことがないと思うのだけど、私がアラビャの始まりと評したのに対し、センセはムーディーでロマンティックな曲とコメントしてる。これをどう解釈したら良いか考えてるのだけど、吉田美奈子のダークなコーラス、「重力コーラス」とでも呼びたいトーンは、アラビャというより、もっと都会のオトナの夜の闇とか世知辛さを表現しているように思えてきました。もう30年間、ずっとずっとアラビャの巻のはじまりと受け止め続けてきたから、自分のセンスに根本的な疑問を抱いてしまった。曲の随所に配された小さいフレーズは、どこかアラビャなニュアンスが感じられるのだけど、それも1stや2ndのニューウェーブの文脈から見れば、オリエントな表現の派生形くらいであり、急に中近東に接近したとは、確かに考えにくいよね。


3.「KHAOS TOWN(日射しの罪人)」

 作詞:杉林恭雄 作曲・編曲:土屋昌巳

@tpopsreryo:
3曲目「KHAOS TOWN(日射しの罪人)」。DURAN DURANのJohn Taylorがゲスト参加したミステリアスなアラビックエレポップ。特徴的なエレトリックタムが随所でアクセントとなっていますね。それでは@junnoviさん解説をお願いします。

@junnovi:
リズム隊が前面に出てドコドコドコドコ!と延々と繰り返して、シンセによる高い音域の短いフレーズが執拗に繰り返されて、中々落ち着かない楽曲。聴き始めた頃は他にはない個性的なバランスだったし、斬新だったので特に意識することはなかったし、これも土屋昌巳の音世界だと思い、ありがたく聴いていた。1987年当時に発売されたCDにしては、この「Life in Mirrors」はどの曲も力が物凄く凝縮されていたので、そういうエネルギッシュになった時代の音をこの曲から感じ取ろうという気持ちもあったし、かなり強い音が乱用されていても、そうとは思わなかった。
やがて次作や次々作が新譜として発売され、作品間の流れというか文脈で聴くことができるようになると、この曲を聴き続けることがまるで苦行のような印象に変わっていき、後日このアルバムをCDで入手した頃には、飛ばしてしまって聴かない曲となった。
サビのところで急に歌謡曲っぽくなる展開では、その聴き慣れた安定感のある曲調に当時はホッとしていたものだったけど、今にして思えば何もそんなにしてまで聴かなくても良いわけで、自分でも何なんだろうと思う。この曲は、作詞は杉林恭雄、シンセでBANANA、プログラミングでは藤井丈司がいるのに、どうしてこんなに苦手なのだろう。やっぱりPINKでもそうだったし松岡英明でもそうだったように、私は繰り返し多いのがイヤなんだろうと思う。・・・・・とまで予め用意した文章ですけど、やっぱりこの曲でも重要なポイントを忘れてる。このべぇ〜っな感じになる原因が2人のコーラスだと!w(キライじゃないのですw)

@tpopsreryo:
リマスターされた際にこの曲で確かめたかったのは、BANANAはこの曲で何をやってたんだろうと思ってたのです。恐らくリピートされるメインフレーズは清水のプレイだろうから、やはり右耳から聴こえてくるビチャ〜〜って聴こえてくる電子音なんかなと解釈しました。
でもどうしてもドコドコ叩いてる例のエレドラが打ち込みとはわかっているのに、玉置浩二「キ・ツ・イ」でスタンディングエレドラパフォーマンスしているBANANAの姿に変換されてしまうのですw 全然そんなことないのに。困ったw

そして忘れてはならないのがこの曲では吉田美奈子と福岡ユタカのWコーラスでサビを歌っているんですよね。この個性的で癖のあるボイスが重なるとそりゃあサビではスゴいことになる・・と思ってたら実はお互い反射されて打ち消し合って、その間から土屋が出てくるという構図にw そこが微妙に面白い。

@junnovi:
この曲の「べぇ〜〜〜っ」とした雰囲気を知りたくてクレジットを当時見たんだけど、センセの言うとおり、想像していた異次元的核融合みたいなことにはなっていなくて、首をかしげたことを今でも覚えてる。「べぇ〜〜〜っ」と下世話な雰囲気はあるのだけど、えげつないことにはなっていなくて、妙にまとまっているんです。生き物としての本性が露呈するような歌い手が登場しているのにね。それにしてもどういう理由でこの二人を呼んで歌わせようと思ったんだろう。センセの言うような実験的なことをしたくてってことではないと思うんだけどw

あ!聞こえる、ビチャ~っていう音!やらしい音やなぁ~w あ~ホントにコーラスのトーンのダークさと言ったら!
その玉置浩二のソロ曲! 当時すごい衝撃やったよね! 何ていう編成! 何ていう楽曲! 立って叩いてる! この頃の玉置って鬼気迫るクリエイティブさやったよね。ホントにすごかった。

@tpopsreryo:
コーラスは吉田と福岡がぶつかったら意外と無個性になるんだなっていうのが面白かったのよ。ギャラクティカマグナムとブーメランテリオスみたいなw 玉置のこの曲のBananaのパフォーマンスは真似したかったなあ。シモンズのセッティングも秀逸!エレドラマーの理想形ですよ!

@junnovi:
チョット! センセ、何言ってるの!?www ギャラクティカマグナムなんて、久しぶりに口にしたし、そもそも文字打つの初めてやわ!w しかもブーメランテリオスと来たか!w
玉置はホントにこの頃すごかった。小林薫も良かった。篠ひろ子も良かった。なんしか立って叩くBANANAには玉置と一緒にブラウン管越しにみんな、こんなドラムプレイみたことない!カッコ良い!と思ってみてたと思う。

@tpopsreryo:
まあどうしてもね、車田正美世代ですから仕方ないね。そうそう、玉置は「キツイ奴ら」というドラマ出てたもんね。その主題歌が「キ・ツ・イ」。ここは土屋昌巳レビューなのでこの話題はこの辺でw

@junnovi:
ハイ了解ですw でもあと1クールだけ付き合って、 センセ。この玉置の曲ってさ、始まりのむち打ちからすごかったやん? ドラマそのものにしても、曲を単に聴いているだけにしても、一気に曲の世界に引っ張り込まれるくらい強烈さやったわ。すごいよね、玉置もBANANAも。何をやってこうなるのか知らんけどw 才能やセンスの化学反応の賜物やね。

@tpopsreryo:
確かにw ムチ打ちが「キツイ」の表現だとしたらスゴい世界観やね。しかもコーラスがAMAZONSでね。やはりEVEとAMAZONSって下世話バブルコーラスの代表みたいなもんだから。あ、多分BANANAのこのセッティングはGrass Valleyのレビューでも出てくると思うw

@junnovi:
ありがとセンセ、付き合ってくれて。最後のセンセからの返しで下世話バブルコーラスとか、GVとか出て来て、思わず続けたくなってしまうけど、これで終わりにしましょ。


4.「水の中のホテル(HOTEL ATLANTIS)」

 作詞:杉林恭雄 作曲・編曲:土屋昌巳

@tpopsreryo:
4曲目「水の中のホテル(HOTEL ATLANTIS)」。跳ねるリズムとブラスアレンジが絶妙に絡み合うこの時期の典型的なスタイルを楽しめる名曲です。福岡ユタカのコーラスのインパクトに持っていかれそうですがサウンドクオリティで見事にバランスをとっているこの楽曲も@junnoviさんお願いします!

@junnovi:
前の曲のラマダンの苦行に似た煩悩との闘いの時間をくぐり抜けると、急にクーラーのきいた部屋が現われたような、熱砂のエリアを抜けたところに豊かなオアシスが現われたような曲、そしてA面のハイライトが待っている。
曲全体に響く小刻みなシーケンスが、まるでオアシスの水面に起きるさざ波に様々な光が乱反射する様をまるで万華鏡のような不可思議さを湛えているよう。アラビャな魔法の話へと誘うような杉林恭雄の歌詞の世界も、妖艶で不可思議な謎に満ちており、そこに福岡ユタカたちの直感的で野性的なコーラスが宴を嫌が上でも盛り上げる。そして酔狂の真ん中で吹き狂うサックス。小規模なフレーズを繰り返すホーンセクション、まさに饗宴。たくさんの酒がふるまわれ、長い夜はまだまだ始まったばかりといわんばかり。土屋のギターは、どちらかというと控え目で、「一日千夜」まで取っておく感じ。
「水の中のホテル」ではBメロの流麗さ、サビの後半の歌い上げるドラマティックなメロディがとても好きで、何度も何度も歌ったものです。けれどもやっぱり水を題材にしているためか、どこか流れ去っていくさめた感じがして、それが物足りなくもあり、美しくも儚くもあり、そのアンビバレンスな複雑さがまた素晴らしいのです。

@tpopsreryo:
確かに本作のハイライトの1つですよね。野性的なホーンのソロはトランペットですね。Guy Barkerというイギリスのジャズトランペッターが吹きまくってます。ヒロヒロヒロというフレーズに乗って軽快なリズムのまま歌がスッと入ってくるんですよ。そしてここでも渡辺等は出過ぎず目立たず巧みなプレイ。
そして当然インパクト抜群の福岡コーラスですが、ブリリアンヴォーダー♪の濁音混じり具合が絶妙ですよねw そんな美しい杉林恭雄の歌詞に負けず劣らずの聴きどころ満載の中でもどうしても気になってしまう2周目Aメロ後ギターソロ。確かに大人しめですが様式美ですよね。
そして最後に一言、2周目後に控えめなチョッパーを入れてくる渡辺等と、チョンワチョンワとコミカルなカッティングを聴かせてくる土屋のプレイは隠れたハイライトと思うわけです。もちろんラストのギターソロも追いかけがいのある名フレーズ。改めていうまでもないですが大好きな曲ですね。

@junnovi:
コーラス音がキチャナイw この曲でも登場する福岡ユタカって、どういう経緯で招聘したんだろね。あと、私はこの曲のドラムマシンのカッタい音がかなり好きです。空飛ぶ凶器みたいに、ショワン!ショワン!ビンッ!ビンッ!ってなっている風にも聞こえる。それにしてもホントにラッパが縦横無尽に吹きまくってる。

@tpopsreryo:
福岡ユタカは福岡智彦が呼んできたんでしょうね。ほら彼って太田裕美の旦那さんだから。太田裕美の「I do,You do」や「Tamatebako」の時ってバックがほぼPINKだったし、Qujilaは「ランドリー」を提供してたでしょ。BANANAもそう。日本人はすべて福岡人脈だと思うよ。だからこその本作の重要人物なの。

@junnovi:
てかさずっと前から思ってはいたんだけど、どうしてもコーラスに吉田美奈子の声が聞こえるんだけど。クレジットには書いてない。不思議。あとセンセの言うクイクイいうギターとグゥングゥンいうベースと、ホンマにそこはカッコイイ。当時そこがというよりこの曲どうなってるんやて思ったよ。

@tpopsreryo:
あの部分でノリがもう1度跳ねるんだよね。そこがカッコいいんですよ。ああいうちょっとしたアドリブっぽい部分で演奏することの楽しさみたいなのが伝わってくるんですよね。そういうのはライブで楽しむものかもしれないけど、スタジオ録音でも十分に味わえるのです。

@junnovi:
確かにようこういうセッションを残したなぁと思う。こういうところが土屋昌巳の作品をCDで聴く面白さだし、彼の才能なんやろね。綿密に計画して何度もチャレンジして狙ってやったというよりも、即興的な偶然から生まれたようなニュアンスが感じられて盛り上がるんやね。ライブみたいな大音量の場でこんなスリリングなのを聞き逃さないためには相当場慣れしてないと難しい。だからライブはさほど頻繁に行かなくってもって思うし、録音されたものの閉じられた完成品の鑑賞でも十分満足できると私も思う。


5.「PERFECT DAYS」

 作詞:金沢信一 作曲・編曲:土屋昌巳

@tpopsreryo:
5曲目「PERFECT DAYS」。本作の中では地味な部類に入るであろうこの楽曲はなんとDavid Sylvianとのコラボ曲。このふわふわでつかみどころのないサウンドはデビシルに寄った感があるという印象ですが、@junnoviさんの解説はどのような感じでしょうか?

@junnovi:
この曲でもますますアラビャなトーンが濃くなっていく。簡潔で短い詞なのに、それを囲む音楽的要素の豊富さに感動する。スネアの音で、アタックの後にシャーッと残るところが当時の空気感を伝えるけど、それは流行りというだけではなく、この詞が表現している砂漠の近くにある乾燥した街の昼下がりのワンショットを切り出すのに必要な音だったようにも思う。今となっては耳につくけれど、それはそれでそういうことなんだろなと。
この曲の構成は独特で、Aメロ・サビ・ブリッジ・Aメロ。ん~違うかな。Aメロ・Bメロ・ サビ・Aメロ? ま、いいか。ここで曲構成について触れたのは、このあとピアノの入れ方について触れたいから。
私がこの曲で特に重要だと思ったのは サビ(Bメロ?)や ブリッジ( サビ?)の直前から奏でられるピアノの存在。この曲でのピアノはいずれもたった1つの音で旋律を構成しており、その潔さや太陽の光を受けない井戸の高い深窓の部屋で練られた感じがする。 ブリッジ( サビ?) のところのピアノの旋律については、ゆったりと行ったり来たりして回り続けるところが何とも独特で美して深い。ここは発売されていた当時からとても好きだった部分。
ひとしきりピアノが鳴って去ってしまうと、「夏の斜陽に」と歌詞に出てくるのだけれど、外はいよいよ日差しが強くて白くなって町中の音が消され、ギターソロの粗い音色が極度の乾燥に晒された荒野に、更に生の厳しさを与える感じで、厳粛な気持ちにすらなるのです。
森の奥の豊かに湧き出る泉から、荒涼とした砂嵐まで。A面の世界はここで幕を閉じる訳だけど、盛りだくさんの内容だったなと満足至極になるのです。
とまあ、言うことは言ったけど、87年当時、「水の中のホテル」よりも実はこっちの曲の方が気になっていて、センセとお互いにやり合っていたアンケートでも、この曲のピアノソロに気持ちを強く持ってかれたみたいなことを書いてたのを覚えてる。コメントが長めになったのもそういう理由。

@tpopsreryo:
正直な話を申しますとこの曲は苦手だったんです。苦手というか苦い。つかみどころがないというか、良い意味では浮遊感があってドリーミーという表現もできるけど。ただこのアルバムカラー、シルバーやグレーといった色合いが見事にマッチした楽曲とも言えるんですよね。
印象的なピアノはデビシルですよね。あのフレーズを入れてくるセンスは流石百戦錬磨のデビシルのセンスだと思うけど、個人的にはこの曲の象徴的なのはあの不気味なベースフレーズ、気持ち悪いんですよアレw 微妙にくぐもっていて、良くもああいうヌメッとした音色使ってくるなあという感じなんです。

@junnovi:
ベースライン気持ち悪いのセンセ? 私は全くそういう感じはなかった。ただDavid Sylvianのピアノプレイが出てきたら、それにすがるような思いになるのは、しつこいベースラインが自覚してなかったけど、耳についてたのかな? なんしかセンセが苦手なんが良く分かったw

@tpopsreryo:
だって、「PERFECT DAYS」なんてタイトルなのに、ものすごく不穏じゃないですかサウンドが。完璧なのになんでそんなに物悲しいのかっていう。ピアノの入る部分とか美しいとは思うけど、あのベースフレーズがモゾモゾと這い回るのが不安感を増幅させるのです。

@junnovi:
この曲についてここまで掘り下げるのって初めてやと思うんやけど、確かにホンマにそうやね。何でこんなに不穏なトーンなんだろう。ピアノの単音の旋律にだけ光が当てられているようで、その神々しさにすがるような構図は、まさにセンセの言う通り世界が不気味だからやんね。そっか~!

@tpopsreryo:
これ、ひょっとしたら今際の際の歌なんかね? 完璧すぎてそのまま天に召されそう。ドレス広げて君が回ったって天使か何か? 三途の川渡ってる? だから不穏なのかと解釈すれば幾分納得できるんですけどね・・憶測に過ぎないけどw
そうそう、言い忘れてたんだけどボーカルの入り方が逆回転リバーブがかかって入ってくるじゃないですか。あれも後ろから霊魂がまとわりついているというか、そういうイメージなのかと思い始めてるんだけど・・なんか怖くなってきたわw

@junnovi:
ええ? えええ? もしかして、またしても大江千里の「♮」ですか!? 夜聴いちゃダメ、良い子は聴いちゃダメ、夢ある人は聴いちゃダメって感じのw

@tpopsreryo:
そうそうw 似たような感覚ですね。ドレスは天使の羽かな・・・w いかんいかん。

@junnovi:
も~アカンって!w 大江千里の「♮」の時でも、相当戦慄したのにw 「♮」の亡霊、間違いなく降臨してるわ!!

そんなんセンセ、アカンわ~。なんかもうこの時間になってくると、そういうモードが入ったら、ゴシック体の文字の並び見ただけでも怖くなるのに。私の「なないなな」(注:@junnoviさんのアカウント名ですw)っていう太字ゴシック体も、今結構怖いのにw 何やねん、この文字の並びは! 怖いやないかい!ってw

@tpopsreryo:
確かにその文字列、なんかコワイw 次行きましょうw

@junnovi:
そやろ。そやねん。今晩こわいねん。妙に。勘弁してよ!
大体ね、今回なんてさ、私の連続コメントが多いからさ、画面いっぱい「なないなな」になるねんw(注:Twitterではご存知の通りアカウント名だらけになるのですw)どういうことやねん、怖すぎるやろこれって思うわけw 自分でしときながら、よぅわからんのやけど、怖いわ、なんで「なないなな」やねんって思うんよ。完全に自家中毒やねw


6.「DAYDREAMS OF YOU」

 作詞:松尾由紀夫 作曲・編曲:土屋昌巳

@tpopsreryo:
6曲目「DAYDREAMS OF YOU」。本作中では「DON’T STOP LOVING」と双璧のミディアムバラードですが、こちらは幸福感のある夢見心地に包まれたハートフルな印象です。Roxy MusicのAndy Mackayが繰り出すソプラノサックスがノスタルジーを刺激するこの楽曲は@junnoviさん、いかがですか?

@junnovi:
「HORIZON」の「Silhouette」同様、絢爛なサウンドが曲の随所でアクセントになっている感じ。ベルばらというか、アール・デコのような世界を表現しているかのようだけど、アラビャの王家の宮殿内の艶やかで蠱惑的な世界を現わしているようにも聴こえて不思議な気分になる。
ちょっと下世話なプロデューサーなら秀吉の金の茶室のロケのバックにこの曲とか「Silhouette」を流しそう。豪華絢爛な世界を描写することについては、「Silhouette」でしっかり触れたいなと思うんでこのあたりで別の話題に。
レコードで言うB面1曲目に位置するこの曲は、A面後半でますますアラビャのトーンが強まったところに少しリセットを入れる役割を果たしてるよね。そこで土屋昌巳が出した結論がこのベルばらでアラビャな曲。そこに息の長いソプラノサックスの柔らかいフレーズが随所に薄衣のヴェールを広げるようで本当に美しい。
ただそれも単に美しいというだけでなく、次の「一日千夜」への伏線のようなアラビャさを帯びた不思議さが伏線としてあるのだろうなぁと思うと感心するばかり。このソプラノサックスについては、歌が終わった後の終わりに再び登場するのだけど、そこでは伸びやかな音声のソロが始まって、その中で同じ音程を11回も続けて吹くところが出てくる。これは何だろ・・・。長い間開くのが待たれる白い花のつぼみが音に合わせて開いていく様を表しているかのよう。チュベローズやイランイラン、ジョンキルやクチナシといったホワイトフローラル系の甘い香りが夜の闇の向こうから音を通じて伝えてくる様。
夜来香っていうお茶があるけど、こういうイメージなんやろうか。

やがて土屋のギターソロに引き継がれ、そしてまたソプラノサックスに戻されてシンセの音のシャワーと共に曲が締めくくられるその繊細で艶やかな仕上げ方には、ため息をせずにいられない。
今回のリマスターでは、87年発売のCDでは分からなかった陰影や感情のうねりまでも感じられる深みを見せてくれている。
そして魂も光も何もかも、空高く昇華しそうなところを、すんでのところで引き返し、そっと地面に着地する。けれども華麗に展開された美しい世界の余韻は、次の曲に引き継がれて、いよいよ力強く昇華されることになる。儚さを一切捨てて、青紫色の夜空に力強く舞い上がっていく。
ただねセンセ、こんだけ美しいだの芳しいなど言葉を並べてるけど、そんなに好きな曲じゃないんだよ。だってこの曲は私にとっては「一日千夜」のプレリュード(前奏曲)なのだし、A面の世界を一度ゼロリセットするトランキライザーなんです。バッハの平均率クラヴィーア曲集でいうフーガの前のプレリュードなんです。

@tpopsreryo:
この曲は、今回のリマスターでかなり印象が変わりましたね。神々しさが増しました。まずはイントロから白玉のシンセの存在感が素晴らしいですね。地味なんだけどああいう清水一登のプレイというのは全体を通して楽曲を下支えしていて非常に玄人好みであると思います。
いや、あの白玉はBANANAかな? 井上陽水や安全地帯でもああいうプレイしてたから。DX系のメインフレーズが清水かもしれませんね。Andy Mackayの起用は本作のハイライトの1つでしょうが、それは次曲に任せるとして、それ以上に素晴らしいのはやはり渡辺等のベースですね。本作の影のMVPは渡辺でしょう。
この曲は「RICE MUSIC」で共演したPercy JonesやBill Nelsonらのセンスをうまく取り入れていると思うんです。土屋の天空で鳴っているかのような浮遊感のあるギターも、ハーモニクスを多用する渡辺等のベースも、彼らのセンスを我流に料理したような渋みを感じるのです。それが神々しさたる所以ですね。

@junnovi:
サビの部分のベースラインの、まるで裏すじをなぞるような、きわきわ感やね。そこに限らずこの曲全体において確かに存在感あるベースやね。そういうところ気持ちよ~く聴いて享受してました。コメントも忘れるほどw
あと言っておきたいのは歌詞。「嘘つきな子供だね」はすごく耳に入ってくる。

@tpopsreryo:
渡辺等は前作も褒めたけど、本作では本当に大活躍で。リアルタイムで聴いてた時も褒めてたけどすっかり忘れてたんですよ。でもこのリマスターでやはりスゴいベーシストだなと再認識しました。あ、それと本作の影のMVPは2人いて、それは次の曲でw


7.「一日千夜(ONE DAY A THOUSAND NIGHTS)」

 作詞・作曲・編曲:土屋昌巳

@tpopsreryo:
7曲目「一日千夜(ONE DAY A THOUSAND NIGHTS)」。いよいよハイライトとなる土屋式アラビアンロックの真髄です。Andy MackayとMick Karnの共演だけでも垂涎であるにもかかわらず、土屋自身も名フレーズを次々と生み出したギターソロで応戦。それではたっぷり@junnoviさんに語っていただきましょう!

@junnovi:
土屋昌巳は一体どこからこういう楽想を思いついたのだろう。この曲の稀有で圧倒的なオリジナリティがこのアルバムを唯一無二の名盤にしている。この曲はアルバムの一番のハイライトで文句なしの名曲。深くて豊かなフレーズが横溢している。こんなに多彩で豊かな音楽的な着想をこの1曲の中に沢山盛り込んで良いのだろうか。ここでの土屋昌巳の挑戦は力強く、実験的なレベルを軽く飛び越えている。
曲の導入は、遠くから響くソプラノサックスのソロで、一気に夜のアラビャの世界にトリップする。
深い紫紺色の夜空の下、金属製のランプからは怪しい煙が細長く吹き続けている。このフェードインするソプラノサックスの演奏が、楽曲に込める気合いのレベルが圧倒的であること、これから始まる物語が大変な冒険であることを思い知らせてくれるようで、「さぁ始まりますよ。心の準備は宜しいですか?」と問いかけているよう。そしてその「お告げ」が、予告通りにこんなスゴイ音楽を聴ける経験ができることに、心の底から嬉しくなる。実際に歌が始まるまで約50秒ほど要するけれど、そういった規模の大きさに感動を覚えずにいられないし、決して冗長ではないところが素晴らしい。
土屋昌巳がギタリストでありながら既成のギター技法に拘泥しないで、ソプラノサックスをはじめシンセなどに主役の座を譲って表現の幅を広げていくのを目の当たりにするにつけ、音や楽曲表現に対する徹底ぶりを思い知る。卓越したテクニックを持つプレーヤーが自身のアルバムで、往々にして陥りがちな失敗を犯してしまって目も当てられない体になるのは良くある話だが、土屋昌巳の場合、ギター以外の楽器を簡単に脇役に追いやったり冷遇したりせず、正当に評価できる冷静さと愛情とを持ち合わせている。それが最も成功し、かつ、彼の独自性が如何なく発揮されたのがこの曲だと思う。5分超の決して短くない曲だけれど、最後まで一気呵成に駆け抜けていく名曲になっている。
本来余り聞かない音域まで果敢に攻めて切り込むベースの力強くて揺るぎないフレーズ展開が曲を一層強靭なものに仕上げている。中音域でブルブルと震えるようなベースというのは中々ない。それはまるでショパンの『英雄ポロネーズ』の第1主題の中に登場する合いの手(左手による2拍半と3拍目で♭E3と♭A4と弾くところ)のような特異な音形。
1番から2番へのソプラノサックスソロ、2回目のAメロの後のソプラノサックスソロとギターソロ、要所要所に登場するアラビャなソプラノサックス。サビに入る前のブレイク。2回目のブレイクではギターソロまで乗せてくる。何という規模だろう!!本当にため息が出る。ひとしきり歌い終わって始まる3回目のブレイクでは、深遠なソプラノサックスを乗せてくる。それが実はその後始まるソプラノサックスソロへの導入となっており、そしてそれを受け継ぐギターソロへ。このソプラノサックスとギターとのソロのセットは2回目。そして繰り返しではなくしっかりと発展・展開してくる。素晴らしい! 何という規模の構成。この曲で「Life in Mirrors」のテンションはマックスになる。

@tpopsreryo:
この曲はそれはもう、80年代の中でもベスト10に入るほどの名曲であると思ってるのでポイントはたくさんありますが、まずは土屋のギターですよね。サスティナーの効いたBメロからアラビアンなリズムギターにかぶさってくるノイジーフレーズがたまらなく好きなんです。あれがあるのとないとでは大違い。
そして十八番の2周目Aメロ後のソロはマッケイのサックスと土屋ギターの二段構え。流れるような受け渡しをラストでも見せてくれるのですが、このラストのギターソロは80年代ロック史に残る名フレーズではないかと思います。4:58あたりのちょっとした歪みなんかが渋くてたまらないのです。
Mick Karnのベースはもはや芸術の域ですから言及する部分もないですね。こんなブヨブヨなベースを違和感なくこの流れるようなリズムに乗せられるロックなんて土屋にしか書けないのではないかと思うほど。そして清水一登がここではスペイシーなアトモスフィア音色で攻めています。これが実に魅力的。
恐らく「夜」とか「星」とかのイメージなんだろうと思いますが、この情景描写のおかげで楽曲の幅が広がりますよね。そして極めつけは本作の影のMVP2人目の橋田匡人、別名ペッカーですね。ドラムが打ち込みなので、リズムのヒューマンな勢いを彼のプレイが補っていて、この生命の吹き込み具合が秀逸。
ペッカーは「STAY IN HEAVEN」と「PLANET MIRRORS」に参加しているのですが、こうした要所の楽曲で彼が起用されていることが彼の本作における重要度を高めていると思います。彼のプレイもリマスターでさらに際立っていますね。嬉しい発見でした。

@junnovi:
いやはやセンセのコメントはいつも以上に楽しい。
まずBメロのあとにあるノイジーフレーズ。これは曲を引き締める最大のアクセントになっているから、これがないとアラビャが始まらない。Mick Karnのベースは3拍目に中音域にまで上ってきてアクセントをつけるのが、4拍子の曲なんだけど、ポロネーズ(これは3拍子の曲)を思い出してしまうんよ。あと、この曲のドラムマシンの音はやっぱり好みの硬さとアーティフィシャルさで気持ち良い。センセの言うペッカーの活躍は、こんだけ聴き込んできたくせに全く気にも止まらなかった。土屋昌巳がひとしきり歌い終わったあとで、パカスコ・パカスコ叩いてたりするのは面白いな~と思ってたんだけど、その程度だった。でもしっかり例のノイジーフレーズでもガラガラ鳴らしてたりしてるんよね。あと土屋昌巳のこの曲でのギタープレイは、どこまでも多彩で雄弁で力強い。
特にソロフレーズでは彼が素晴らしいギタリストだということ、そしてこれはそんな彼が作るアルバムであることを思い出させてくれるね。
それと歌詞。やっとここで「鏡」が出てくる。「mirror」も。中々音楽で「鏡」とか「ミラー」って出てこない。岩崎宏美の♪バックミラ~万華鏡のようくらい。

あともう一つ。土屋昌巳の歌。いつになく決然としていて力強い始まり方をしてる。「すべてまぼろしぃ~」と言い切ってはいるものの、生命力を感じる歌になっていると思う。

@tpopsreryo:
「鏡」といえば山口美央子にそのものズバリの「鏡」という曲がありますね。これも土屋昌巳プロデュースですから、よほど土屋は鏡に縁があるんでしょうねw

もし自分がギターを弾けるならああいうノイジーな音を延々と鳴らしていたいと感じるもんね。ギュイーンと言わせたいw Mickのベースはフレットレスだから輪郭が丸いのが良いのです。この曖昧さは彼の個性だし、Percy Jonesにもないもの。ただしここでは変態的にもならずにノリを壊さない見事なプレイ。
ペッカーの活躍は、あのラストのサックス〜ギターソロ前、「さあ皆さん大道芸の始まりですよ〜」っていう期待感を煽るドラムパートがあるでしょ?そこのグルーヴ感は半端ないんですよ。あそこのタメ方が生命線なので、何かが迫ってくるかのような圧力を肉感的に跳ねるリズムで表現してると思うのです。

@junnovi:
あ~さっきから4回は聴いてるけど、曲の最初のフェードインから、シャカシャカ言ってるねパーカッション。センセの言うのはあの4小節のパカポコね。納得納得。

@tpopsreryo:
その場面に限らず延々と叩きまくって音の隙間を埋めているんですよ。そのノリがこの国内外の名プレイヤーの共演をしっかり支えているんですよね。もちろん松武秀樹も打ち込みにしてはアタックを調整したりしてヒューマンなノリを出しているけど、それを補って余りあるペッカーのプレイぶりよ。美味。

@junnovi:
あと、この曲でどうしても話をしておかなければならないのは、最後のサックスソロからギターソロへのチェンジ。ここはセンセはずっとずっとスゴイと褒めてたところだよね。パカポコのあと、堂々と歌い上げるように奏でるサックスが「後は頼んだぜ」と土屋のギターにバトンタッチ。
ここでバトンを受け取った土屋昌巳はいつになく、激しく攻撃的でわなないてる。ああ、この人はギタリストだったと思い新たにする部分やんね。
あとドラムマシンではあるんだけど、2:00のダダダダダダダダは世間ではありきたりのものなんだけど、ここに却って平凡なものを入れるカッコよさってあると思う。いよいよ上り詰めていくって感じがするのです。要はここが好きなんです。

@tpopsreryo:
そこのスネアの連打の強弱ですよね。いかにもリズムマシンのディケイを粗くいじったような時代特有の。でもそこがたまらなく良いのですよw いかにもプログラマブルなリズムだからこそ、映えるのですペッカーのプレイが。
それとラストのマッケイソロから土屋ギターへのバトンタッチが良いのはソロの終わりと始まりが違和感なく溶け合っている部分ですね。この流れるような共同作業。素晴らしくないですか? この美しさこそ本作の最もハイライトとする部分だと思いますね。

@junnovi:
そこの接続部分は、それこそ聞き流すような聴き方をしていたら、気づかないんじゃない? それくらいの自然な流れ。
アカン、「ダダダダダダダダ」の字面も、今晩はこわい!w


8.「LAPIS」

 作曲・編曲:土屋昌巳

@tpopsreryo:
8曲目「LAPIS」。本作唯一のインストゥルメンタル。これはMick Karnとのコラボ曲ですね。本作に漂うアラビックな世界観を2分余りの短い時間で余すことなく表現仕切っています。@junnoviさんはどのように感じられましたでしょうか?

@junnovi:
ふたたびトランキライザーとしての曲が登場。その機能を果たしつつも、アラビャさを維持している点で、中継ぎでも手抜きでないことが分かるけど、土屋昌巳の過去の作品を聴くと、こういうタイプの曲はお得意やんね。
あと、このアルバムのテーマカラーとも言える青紫はラピスラズリの色でもあるけど、それをイメージしてつくったのかな。
私は当時、こういう類いの楽曲を全く聴いたことがなかったのですごく驚いたのを、今でも思い出すことがある。「DAYDREAMS OF YOU」でも書いたんだけどバッハ。
バッハをはじめとする複音楽、対位法を用いたような楽想を曲全体に表現してる点で、現代の洋の東西を駆け巡るだけでなく、時代の縦糸も使ってアルバムを構成している気がするんです。フレーズが何重にも折り重なるところなんて「これはロックアルバム?」と自問したくなるほど。
多種なクラリネットの音色とギターのハーモニクス、マンドリンのような響きのギターとが混ざり合って醸す不思議で深遠な音世界。ちょっとした小休止なのだろうけど、ここでも決してお茶を濁すような手抜きはしてない。ま、お家芸な部分もあるから、リラックスして作ったのかも知れないけど、音楽的手法の多様さに瞠目するばかり。ロックが成熟して作り出す地平は、こういうものなんだろうかと、当時感嘆したものでした。
結局そういった展開はなくて、ロック音楽は様式の繰り返しをするばかりで、変わったのは、より日常化・口語化した日本語の歌詞であり、それを聴くリスナー側だったのでした。世代が移り変わり、楽曲面での表現様式には、大した変化はなく、むしろ”殿堂化”でもしたかのような過去の作品群の再現(リバイバルやカバー)を自ら望んで演奏するようになった、そんな気すらします。後日のロックは私が期待するような方向では、何の展開もなかったのです。

@tpopsreryo:
最初のプププゥ〜ン♪だけで、Mick Karnとわかってしまいますよね。土屋昌巳はエレキだけでなくアコギのプレイも秀逸なんですよね。ここではガンガン弾きまくっていますが、確かにこうしたインストは彼の得意とするところ。それとMickのクラリネットはもう彼のソロで何度も聴いた馴染み深い音ですね。
最後の大団円な2曲に向けての箸休め的な楽曲とも言えますけど、デビシルとの「PERFECT DAYS」にしろMickとのこのコラボにしろ、元JAPANとのコラボはどれも地味ですよねw 渋い。でもそこがいいというか良い緩急のつけ方になっていると思います。

@junnovi:
発売された当時は好んで聴いていた「Perfect Days」も「Lapis」も今は実は余り聴かなくなってしまった。やっぱりダントツで「一日千夜」だし、それを聴いたらもう満足で。ただこの「Life in Mirrors」というアルバムの全体構成で見たときには、こういう楽曲も十分役割を果たしていると思う。

@tpopsreryo:
そう、アルバムとしてのバランスを考えた時、必要不可欠な楽曲たちなんですよ。「STAY IN HEAVEN」や「水の中のホテル」「一日千夜」といったキラーチューンに美しい「Don't Stop Loving」や「Daydreams of You」があり、本作ではトリッキーな「Khaos Town」と「Planet Mirrors」、そしてその2曲という。絶妙なバランス構成。


9.「BECAUSE」

 作詞:松尾由紀夫 作曲・編曲:土屋昌巳

@tpopsreryo:
続いて9曲目「BECAUSE」。ここに来て繰り出される壮大なバラード。爆音スネアとPenguin Cafe Orchestraで活躍したGavin Wrightの情感豊かなviolinのおかげで全く飽きさせません。@junnoviさんはこの楽曲はどのように解説されますでしょうか?

@junnovi:
曲の初めの「チン。。。トン。。。シャン。。。」3つの音の後に、一気に曲が展開するそのジャストな爆発がカッコ良い。これ何!? 少しはずらした方が生っぽいのだろうけど、そんな細工には目もくれず、「ドーン!!」と鳴らし切る潔さ。昔、好きだったGlenn Freyが1992年に発売したアルバム「Strange Weather」の取材記事かで、「シーケンサーやコンピュータを使うとき、何も考えずに作ると色んな音が同時に鳴ることになって、それはとても違和感がある。どれだけ上手いプロの演奏でも実際は微妙にズレているのが自然で、それが却って心地良かったりする、今回のアルバムではそういうことにもこだわって作ったつもりだ。」なんてことを話していたことを思い出すのだけれど、(それにしても我ながら何でここで突然Glenn Freyを出すかw)の「Life in Mirrors」ではそういうことなどお構いなしに「ドーン!!」と一斉に鳴らし切ってる。

ニュアンスとかお構いなしに鳴らし切る、その潔さに思わずのけ反ってしまう。でもその直截さが良いんです。微妙なズレなどを付けようとするのは90年代に入ってからのニュアンスであって、80年代はドンドンバシバシ行くのがそれらしいのであって、私はそれを求めて止まないから良いのです。
特にこの「BECAUSE」の「ドーン!!」の”圧”は不可欠なのです。(実際そのGlenn Freyの「Strange Weather」はそんなには売れなかったんじゃなかったかと思う。当時来日公演してたけど、余りだったんじゃなかったかなぁ。それはそれで後日行かなかったことを激しく後悔する。)
そういう訳で、この曲でも「KHAOS TOWN」と同じく感情ゼロな直截なドラミングが伺えるけれど、この曲の場合はドラムの打つ”球数”が少ないのと、むしろ1打1打の揺るぎない様が却って崇高さすら感じさせるので正解だったと思う。そしてその崇高さをさらに強めるようにグイグイ弾き鳴らすバイオリンがまた素晴らしい。旋律を縦横無尽に駆け巡らせながら、曲の最初から最後まで天衣無縫に歌い舞ってる。さらには屹立する様をも内包するフレーズと奏法が、サビの部分で顕著に現われ、まるで強い天上の光に八方から照らされてどんどんと視界が白く霞んで行く様な感じがするほど。
この曲にバイオリンを入れようと思いついたのは才能ある者の慧眼だったと思うんだけど、これはやはり一風堂の時の見岳章の存在があっての発想なのだろうね。一風堂の音がここでも聞こえる気がするんです。それにしてもこの頃の土屋昌巳は本当に創作意欲が横溢していて、この名アルバムの締めくくりに向けての素晴らしい大団円の舞台を用意してくれていますね。このアルバムの個性のひとつとして、思い切り疾走するというのがあると思うのだけど、こういうスローテンポで大局的な楽曲でもしっかりと疾走する印象が込められていて、締めくくりへと昇り詰めていく。
何と素晴らしいことか! よく、シングル曲が入ったためにアルバム全体の世界観を壊してしまうことを目にするけれど、このアルバムについてはそういったコマーシャル的な損得勘定やスケベ心は全然見えなくて、それがまた清々しい。

@tpopsreryo:
なるほど。確かに一風堂の匂いはしますね!ていうか見岳章の匂いですね。彼のソロアルバムの雰囲気までしてますね。バイオリンのGavin Wrightの起用や「水の中のホテル」のGuy Barkerとか、その他欧州勢の起用は、エンジニアであるNigel Walkerの手引きもあったのではないかと思いますね。
本作や次作「HORIZON」でもNigel Walkerの起用が続きますが、JAPANの名盤「Tin Drum」のエンジニアSteve Nye直系の彼のキレのあるミキシングも本作に貢献していますよね。この爆音スネアもバラード嫌いのワタシにとって非常に刺激的で飽きさせないしこうしたリズムにしてくれたことに感謝したいです。
で、例によってBANANAってここでは何してるのって思うのですが、ピアノは清水が弾いてるとして、恐らくBメロとかで聴けるメロトロン的な弦楽器フレーズかなと思いますね。生のバイオリンと人工バイオリンが混ざってると思うのです。そこも楽曲に厚みをもたらしていますよね。
そして相変わらず渡辺等は味のあるプレイだなあ。Percy Jonesばりのピッキングハーモニクスを繰り出してるし。でもやはりこの楽曲は爆音スネアに尽きますね。この突き刺さるような音、大好きですw

@junnovi:
確かにベースが活躍してるね。ベースが強いから、バイオリンが上へ下へと勝手なくらいに動き回っても、空を舞っているようになるんだろうと思う。
ホントにこの強烈なドラムの音は、この時代だからこそだよね!


10.「PLANET MIRRORS」

 作詞・作曲・編曲:土屋昌巳

@tpopsreryo:
10曲目「PLANET MIRRORS」。タイトルからすればエレクトリックなサウンドを想起させますが、実は本作でも最も肉感的なロックナンバーです。この楽曲でラストを飾るわけですが、最後もまずは@junnoviさんに解説していただきましょう!

@junnovi:
大団円では俗っぽく仰々しいバラードで終わりたくない、むしろ元気にお祭りをも感じさせる楽曲で楽しく疾走感いっぱいで終わりたい、そんな意図を感じる曲。「前曲で終わればよかったんじゃないか」と人によってはこの曲を余分に思うかもしれないけれど、私は好きな楽曲。
この曲があるからこそ「Life in Mirrors」を聴いたあと、開放的で前向きな気持ちになって「聴いてよかった!」と聴き終えるのに貢献していると思う。オープニングのかなり至近距離でキラキラと降りてくる分散和音は唐突とも言えるえれど、前曲「BECAUSE」の気分を一気に変える役目を果たし、ダンサブルでファッティなサックスの三連符の曲展開に持っていく重要な音の架け橋、音の流れ星であることが分かる。この音の流れ星、鍵盤で弾いたらなんか楽しそう。そんな空想をしてしまう。
歌が始まると「♪パラダイスに~」。ああ、祭りやね、これは。メロディに動きがあって、聴き応えがある。そして音の流れ星が小規模ながらその後も1回目のギターソロの前に再登場。そのアイデアに感服する。
あとBメロでもサビでも土屋のギターは大活躍で、育ちの悪いクソ猫の悪態のように楽しく音楽とじゃれ合っている。終わりにふさわしい音楽的要素を沢山盛り込んで、アルバムを楽しく締めくくろうとしている。2回目のギターソロも速くないけれども、オリジナリティ溢れた素晴らしいもので、聴いている方がウキウキするほど。何度もアルバムを聴いて曲の順番はもちろん楽曲自体も楽曲の特性などもある程度自分なりに消化できるようになると、この2回目のギターソロが始まると「ああいよいよ終わるんだなぁ~」という気持ちにさせられる。その思いを強めるかのような音の流れ星が遠くでもう1回小さく流れて、アルバムがフェードアウトで終わる。
歌、曲、演奏、アレンジ、構成。どれをとっても余裕を感じさせる佳曲。

とまあ言ってみましたけど、センセのコメントにもあるけれど、この気持ちよさや解放感はやっぱりどこか肉感的なものに反応したんだろうなと思います。

@tpopsreryo:
最初の分散和音が駆け下りてくるのですが、これは1曲目の「STAY IN HEAVEN」のスタート、ハープ系音色の駆け上がりとの対比とも言えますよね。なんだかニクい演出だと思いますよ。あとバラード後の大団円は後にGVがアルバム「STYLE」で「EDUCATION」を繰り出したあの雰囲気ですね。まさにパラダイスw

それにしてもまあ気持ち良いほどギターを弾きまくること。この楽曲では他の演奏陣どうこうではないというか、ほぼ土屋の独壇場と言っても良いと思いますね。イントロのフレーズはBill Nelsonリスペクトっぽい感じですが、やっぱり3:08からのラストのギターソロがお茶目さも相まって可愛いったらないw
また、あえて言うならば本作の影のMVP、渡辺等の2:50あたりの駆け上がるベースフレーズ。こういう気の利いた小技が本当にニクいです。まあ何にせよ色々あったこの作品がこうして楽しく大団円を迎えるというのが聴き手としても嬉しいというか、幸せな気分になれることはいいものですよね。

@junnovi:
ホンマや!何センセそのコメント!! ぜんっぜん気が付かんかったわ。1曲目と10曲目が呼応してるわ。曲名が「Planet」ってあるから流れ星が飛んでんやって思ったくらいでそこまで考えてなかった。「Stay in heaven」と呼応してる。ホンマやすごいわ!

@tpopsreryo:
でしょ〜〜?w まあつい最近気づいたんだけどね。そして最初に戻ると。何だかループ要素もあるし、アルバム全体として楽しめるという。そういう意味でも隙のない作品ですよね。

@junnovi:
そのキラキラ流れ星は、この曲がそれまでの曲とは違って、一旦幕を閉じたような様を意図すべく表現していると思ってたんよね。それがアナタ、1曲目と対称関係にあるって!? いや~、驚いた!!
この曲では「一日千夜」とはまた違ったギタープレイを堪能できるね。ホンマ自由なお祭り騒ぎ。プルップルップ~って言ってる渡辺等のベースね。そこはホンマ楽しい即興的アクセント。聞こえる聞こえる。
あとGVの「EDUCATION」ってw

@tpopsreryo:
土屋のギターソロで言えば、3:20のあたりのンパンパンパッ♪っていうお茶目フレーズがお気に入りです。もう完全に遊んじゃってるしね。でも音楽ってやっぱり音を楽しむもの。渡辺の即興フレーズもそんな賜物だしね。「EDUCATION」はまあ言い過ぎかなw

@junnovi:
このあたりの音、当時のCDでも良くなってたけど、今回のリマスターでも良くなってるよね。1曲目と対称構造の流れ星も、かなり近くを流れ飛んでくれるようになったし。
「EDUCATION」はもう、学級崩壊してるから!w


〜エンディング〜

@tpopsreryo:
それでは「Life in Mirrors」のまとめにいきましょう。国内外の豪華なゲスト陣を迎えたEPIC3部作のスタートでしたが、想像以上で濃厚でハイクオリティなアルバムでした。構成も抜群、サウンドも演奏も見せ場、隠し味、それぞれ職人芸炸裂で非の打ち所がない名盤であることに疑いはありません。
土屋昌巳やNigel Walkerの外国人プレイヤー人脈、ディレクター福岡智彦の日本人人脈が上手くブレンドされたことも本作の無国籍感を顕現させてくれましたが、特に次作以降この福岡人脈が活きてくることになります。そういう意味でも本作は充実期でありながらも転換期であったとも言えるでしょう。
次作以降はやや内省的な方向にシフトする印象がありますが、本作ほどロックな楽しさを表現仕切った作品もそうはないと思います。濃密な音空間を提供しながら本人達も楽しめる様子が窺える多幸感が味わえたこの名盤に改めて感謝しつつ締めにしたいと思います。この作品を残して下さり有難うございます。

@junnovi:
センセと同じで、私もこの音楽的楽しさいっぱいのアルバムが好きでならないですね。そしてこの名盤をリアルタイムで聴くことのできた幸せを改めて強く感じずにいられないですね。私にとって本作は本格的な土屋昌巳の作品の出会いだったのだけど、センセみたいにそれ以前から彼の音楽を親しんできた身でも同じような印象を当時から抱いたのかなぁ。このあとの2作と比べると、新鮮さや粋の良さ、爽やかなニュアンスがあって、好きなアルバム。2日目のおでんみたいなこってりまったりじゃないんです。2日目が美味しいものが多い中で、そうじゃない食材もある訳で、このアルバムはまだ若さのニュアンスを残しながら、力強くて多彩な音世界を表現しているのを思います。

@tpopsreryo:
というわけで長かった土屋昌巳SOLO VOX第3夜「Life in Mirrors」のクロスレビュー、これにてやっと終了です。次回は4thアルバム「HORIZON」です。今回もお疲れ様でした!


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