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本当に「大学無償化」なのか?

政府が打ち出した「大学無償化」の中身が、ちょっと怪しい。

方針自体はいいのだけれど。それこそ教育費は、人の一生の三大出費のひとつといわれるくらいに、可処分所得に影響を与えるものであるから。しかし、果たして高い教育費で困しむ多くの人にポジティブな影響を与える政策となるのかどうか。

この政策は、年収380万円未満の世帯に限って大学の学費を無償にするというもの。さらに、条件が合致すれば生活費も保障してくれるという。しかし条件を満たさなければ、授業料も生活費の支給は打ち切られる。その条件とはこの通り。

「高校段階の成績や学習意欲はもとより大学進学後も1年間の必要取得単数の6割以下しかとれない場合やGPAなどの成績が下位4分の1に属するとき」

この所得世帯でかつ、高校の時からモチベーションがここまで高く勉強できる生徒は果たしてどれくらいいるのか。

忘れてはならないのは、この基準以外の人はこれまで通り学費を払う。かつての中流層が貧困化している傾向の中、果たしてこれで「大学無償化」といえるのだろうか。

日本と北欧の大学の学費に対する考え方の違い


今回の政策から見え隠れするのは、社会政策を支える思想です。

例えば、日本だったらこんな感じ。

日本:生活に困っている層への支援を手厚くして「授業料も生活費も面倒みる。その代わり高校の時からしっかり勉強して、大学もサボるんじゃねえぞ」

という、パターナリズム。

一方で、北欧(スウェーデン)だったらこの通り。

北欧:
学費完全無料+返済不要の奨学金(4万円)
「大学?勉強する意欲が湧いた歳になったらくればいいよ。」

という、ユニバーサリズム。

さらに返済型の奨学金も(毎月10万円が希望者全員)含めれば、14万円も月額でもらえることとなり、充分に生活することができます。家族が学費や生活費を負担する必要がほぼない,。

日本は先進国の中で学費が異様に高い割に、民間や国の奨学金が少ないことは長年指摘されている。学費が高い英米と比較する人はヨーロッパを知らないし、アメリカで奨学金地獄に陥ってる学生が多いことも知らない。

加えて、日本は大学への入学年齢が19歳と国際的に若いことも知られていない。シンガポールも日本と同じくらいだけど、北欧だとそれが20代半ばになる。進学も就職も「若いうちのほうが良い」という暗黙のルールが前提になっているけども、今、若い人に必要なのはすべてを脇に置いて一度「休憩できる時期」ではないか。高い学費を払いながら「休憩」するのはあまりにも背徳感が大きい。

北欧の場合は、大学がそんなスタンスだからしばし「学生が経済的なモチベーションがない」と言われる。しかし、学びたい意欲が自分の中にオーガニックに芽生えたときと、やらされ続けて学ぶとき、とでは学びの主体性の高さが天と地ほど違うのは多くの人がわかるはず。一度、大学、専門学校を辞めて、入り直した人の方がモチベーションが高いじゃないですか。だから、もっと「やらせない」時間が必要。

日本の中高生、さらには最近は大学生もとにかく忙しすぎる。とくに資格取得を目的とする、看護や教職などの専門職系の大学が忙しいと聞く。そもそも、高校のときに自分の中で納得感を得て進路選択ができる時間も経験も与えられていないのに。「選択肢は広い方がいい」という紋切り型のアドバイスしかしてもらえなかった。

そうやって進学してきた人も多いはず。その中で、資格取得するには「何コマ必須」が迫られる。「大学の中退者数の低減」という国の方針に従う大学からの圧力で、ますます多忙化する大学生。バイト先では、正社員並みに責任ある仕事を任せられ、いつのまにかこちらが本業に..

経済的な動機づけを人に強いるのは前近代的ともいえる。ある研究では「飴と鞭」を与えてモチベーションをあげるやり方は、創造性を阻害するやり方だという。正解がない時代に、創造性を阻害するやり方でいいのだろうか。

そもそも高等教育へのアクセスは「すべての人への教育の機会(EFA)」の権利という点で、当然に保障されないといけないことは忘れてはいけない。一部の層が学費補助と生活支援を必要とする状況にならないようにすること、人生の三大出費のひとつを無くして、すべての人が同じスタートラインに立てるようにすることで、貧困の連鎖を断ち切る。

大学無償化というならここまでできるはず。

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