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なんらかのレビュー

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#レビュー

ああ、愛しのごみ屋敷:『堆塵館』

ああ、愛しのごみ屋敷:『堆塵館』

今日はエドワード・ケアリー作、古屋美登里訳の『堆塵館』レビューです。小説です。もともとは十代の少年少女向けに書かれたものだそう。三部作なのですが、私は一部『堆塵館』と二部『穢れの町』が特に好きです。

まずは、あらすじ(東京創元社のページより引用)。

ロンドンの外れの巨大なごみ捨て場。幾重にも重なる山の中心には『堆塵館』という巨大な屋敷があり、ごみから財を築いたアイアマンガー一族が住んでいた。一

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見た目はエリート・中身はポンコツ、鷹野ツメ子の行く先は?:『無能の鷹』第一話レビュー

見た目はエリート・中身はポンコツ、鷹野ツメ子の行く先は?:『無能の鷹』第一話レビュー

コミックス派の私は、漫画雑誌って滅多に買わない。

しかし、瀧波ユカリさんのツイートが気になって、今月号のKiss(電子版)を買ってしまった。

これからどう転ぶかまったくわからないが、第一話がとても好みだったので、おすすめポイント2つを記しておきたい。

おすすめポイント1:鷹野さんの破天荒なキャラクタースマートな身のこなし
公共放送のアナウンサーのような
きれいな発声
その場しのぎではなく

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言葉なんか、覚えてよかったに決まってるだろう!:『ものすごい愛の ものすごい愛し方 ものすごい愛され方』

言葉なんか、覚えてよかったに決まってるだろう!:『ものすごい愛の ものすごい愛し方 ものすごい愛され方』

昔から2ちゃんの嫁大好き&旦那大好きスレが好きだった。(読んだことがない方のために説明すると、パートナーのかわいかった発言や嬉しかった行動を報告しあっている、ほっこりするスレッドである)

ずっと同じ人が好きってすごいな、奇跡だな、と思っていて、私もそこにたどり着きたくて、いろんな事例を集めたくなる。

不幸の話は不幸の話で、刺激が多くてたしかに面白いんだけど、疲れてるとき読むとやられちゃう。疲れ

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「パートナーはただ一人」を疑ってみて見えたこと:わたし、恋人が2人います

「パートナーはただ一人」を疑ってみて見えたこと:わたし、恋人が2人います

前から、結婚について思うことがあった。「好きな人が、世界の中でただ一人私だけを選んでくれるって、そんな嬉しいことないなと思うけど、」

「それを受け入れたら、『恋が始まる!』っていう、あのモゾモゾした温かい気持ちはもう永遠に悪者になっちゃって、封印すべきものになっちゃうの?」

「新しく出会った素敵な人に触ってみたいって思う素直な気持ちも、許されなくなっちゃうの?」

結婚は、してみたい。
苗字を

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虚しさのにおいがするといいドラマな気がする:獣になれない私たち

虚しさのにおいがするといいドラマな気がする:獣になれない私たち

タラレバ娘のドラマは、みんなかわいいんだけど、なんだかしっくりこなかった。漫画だと「わあ、好き…この話」って思うのにドラマだとそう思えなくて、全然はまれなくて、なんでかなあと思っていた。

小倉ヒラクさんのブログにあった見解(抜粋すると、原作の「お前ら、現場で汗かけよ」というメッセージが「ツラいこともあるけど、がんばろっ☆」というヌルいエールにすり替わっている、って話)で一旦納得したのだけど、やっ

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傲慢なのは脊髄だけにしたい:『彼女は頭が悪いから』レビュー

傲慢なのは脊髄だけにしたい:『彼女は頭が悪いから』レビュー

Ms.エクスキューズの呼び声高き私、矛盾がいっぱいの書評になると思うけどどうか許してほしい。白か黒かに振り分けること、そのことへの疑いを、そのことへの不安を、ここからのレビューで書き綴るつもりだから。ぐらぐらとグレーな記事であることを許してほしい。

まずは文藝春秋booksのサイト、著者姫野カオルコさんのインタビューページから、本の概要を引く。

 二年前に起こった、東大生五人による強制わいせつ

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私なら、ハンバーガーも投げない:なれた手つきでちゃんづけで(『36度』より)

私なら、ハンバーガーも投げない:なれた手つきでちゃんづけで(『36度』より)

最近の私はなるべく色々なものが読みたくて、ある作品を何度も読み返すことは少ないのだけれど、ゴトウユキコさんの短編集『36度』は別。特に気に入っている話を、何度も読んでしまう。

例えば、「なれた手つきでちゃんづけで」という話。
もっと多くの人に読んでほしいから、今日はこの漫画の特に印象に残ったところを、ふたつ、書いてみようと思う。

あらすじ志村シゲルは漫画家。突然アシスタントが辞めてピンチヒッタ

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恨むことを選ぶ権利:『マギ』

恨むことを選ぶ権利:『マギ』

この夏、私の睡眠時間を奪ったのはサッカーではなく『マギ』だった。

私はネタバレが大嫌いなのだが、というのは私自身が、我慢できずにネタバレを読んでしまったことをいつも後悔しているクチだからなのだが(新鮮な気持ちでこの展開に出会えたらどんなによかったろう…と不可逆性に臍を噛む)、『マギ』の面白さをネタバレなしで伝えることは困難であるから、今日は解禁したいと思う。そうであっても、新鮮さはやはり大事なの

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愛情胃下垂:『天才はあきらめた』

愛情胃下垂:『天才はあきらめた』

昔、母ちゃんが学校に呼び出されて、先生から「亮太君はすぐ嘘をつくんです」と言われたことに対して、「どんな嘘ですか?」と聞き返し、詳細を聞いての母親の第一声が「先生、それ傑作ですね。亮太、聞かれてすぐに何か言えるって、しかも作って言えるってすごいねぇ」というやり取りで先生を呆れさせていた。

山里亮太著『天才はあきらめた』、もう読みしたか?私、面白すぎて、かっこむように読みましたわ。それでも、うまい

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無理して愛してくれ、それだけが本当の愛だ:『万引き家族』

無理して愛してくれ、それだけが本当の愛だ:『万引き家族』

亡くなった母がスマートフォンに残した、彼女の両親のたくさんの写真を見て、私は思った。

彼女にとって一番大切だったのは、子どもじゃなくて親だったのだな。

ショックだった。

それは、たぶん、母が亡くなったことよりも。

しかし、当然だろう、とも思っている。
私は、自分がぼんやりする時間をとることを、重い体で家事をする母の手伝いをすることよりも優先した。祖父母は違う。
おいしいものは、必ず先に人に

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昨日まで本当だったこと:『おやすみプンプン』

昨日まで本当だったこと:『おやすみプンプン』

漫画というのはなんと自由なんだろう、と私は改めて考えた。

「プンプン」の住む世界は、プンプンたちと読者で見えかたが違う。

主人公のプン山プンプンおよびその親族は、落書きみたいな鳥の形をしている。最初は、ドラえもんのように、この漫画は変わった形の人たちも受容される世界で展開されているのだと思って読んでいた。「プンプンと愉快な仲間たち」的な漫画なのだと思っていた。

しかし、これはあくまで記号化の

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不適切なピザのこと:トーキョーエイリアンブラザーズ

不適切なピザのこと:トーキョーエイリアンブラザーズ

ネットに放った感想が著者の方に届く、という経験をこの2年間で何度かして、だから言葉選びには気を付けないといけない、と、そらおそろしくなっているのだけど。

率直に言おう。『トーキョーエイリアンブラザーズ』、すっごく面白かった!とは言えなかった。なんだろう、少しずつ惜しい気がしたのだ。

母が作ってくれたピザに似ているかもしれない。敗因はわからないが、中途半端に生地がぶ厚くなってしまった、ピザ。我々

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本は友人、そしてサーフボード:出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと

本は友人、そしてサーフボード:出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと

『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』を読んだ。すぐ読み終えた。めちゃめちゃ面白くてめちゃめちゃ勇気が出た。久しぶりに、人生に前向きになれた。元気を出すためにすることは、たくさん寝ることでも高級スーパーに行くことでもなかった。この本を読むことだった。

まずは手短にあらすじ。

・著者は花田菜々子さん。
ヴィレッジヴァンガードの店長を12年してい

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