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認められカタログ:『初情事まであと1時間』レビュー


私が付き合う人にできることなんてほとんどないけど、「とにかくいいと思うところを褒めまくる」って、これだけは決めている。
表情、髪型、ふるまい、服装、発言、プレゼントのセンス、なんでも。

『臨死!江古田ちゃん』の中で江古田ちゃんは言ってた、「愛情は裏返すな」って(たしかね)。
楽しくしあうことも、癒しあうこともできない恋愛なら、時間がかかっても、この先どうしようって不安になっても、どこかで終止符を打たなくちゃ、と思う。
だって殺伐は、その辺にごろごろしてるんだから。満員電車の中でも路地裏でも簡単に手に入る(山崎まさよしかぶれ、みたいになった)。
わざわざ懐であっためる必要、ない。

漫画ならしょっぱい恋愛の話だって読むけれど、どうしようもなく疲れたときは、フィクションについてもシンプルが恋しくなる。相手のことを大事にしまくる、どこまでも幸せな物語に身を沈めたくなる。

で、だ。「初情事まであと1時間」だ。

「このタイトル…そういうことなんですか?」
「ええ、そういうことなんですよ」

神楽坂あたりの前菜ばっかり提供するレストランよろしく、「おっぱじめるまでの1時間」をオムニバス形式で描く、そんな漫画である。

幼なじみが、家庭教師と教え子が、中世ヨーロッパで、古の洞窟で、誰もが漏れなく、そこに至る(ワーオ!!)。

その各々の過程が、さながら「認められカタログ」なのだ。
かっこ悪いところ、自信がないところをさらけだす相手に繰り出される、温かい言葉や表情の数々。ほっこりしないわけがあろうか(いや、ない)。


中でも一番好きなのが、1巻のネディナ姫とキリク王子のエピソード。

花嫁修行を抜け出しては書庫で本ばかり読んでいた、お姫様としては(自称)「問題児」のネディナ。貿易について、自分が述べる意見を真剣に聞いてくれるキリク王子に驚く。

母国でこういう進言をしても
「出すぎた真似をするな」と…ずっと疎まれていました


これに対する王子の返答。

先ほどネディナ姫は
自分で言ったじゃないですか

国ごとに相場は違うものだと

あなたはこの国では
とっても価値のある人なのですよ

「置かれた場所に咲かない宣言」を、今ここでしたくなる、ありがたきお言葉です。咲かせてくれる場所に、置こう?、身。

月末の干からびた心には、たとえ他人へのものであっても、称賛が染み入ります。おすすめです。

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