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大安の色

対戦型の結婚式が流行している。

結婚式自体のメソッドは、あまり変わらない。
ただ、同じ会場で、二組が結婚式をするのだ。

どちらのチームの所属なのかひと目でわかるように、イメージカラーは統一しなければならないことになっている。新郎新婦の衣装から卓上花、招待状から皿の色まで、すべてイメージカラーで統一しなければならない。「うっかり相手のチームのイメージカラーを身に着けて会場についてしまった招待客のアナタ。さあ、どうする?」のアンケートに「今すぐ帰る」と回答した人は約70パーセント。一般に、相当な減点対象だからである。 


そう。この勝負は「減点式」である。
各チームの持ち点は200点で、それぞれの招待客と、主役らとは無関係の一般判定員13名が、手元のスイッチを押して減点する。

上司の挨拶にオリジナリティがない、減点。
ファーストバイトで新婦が遠慮しすぎ、減点。
BGMが微妙に流行遅れ、減点。

審査基準は決まっていない。招待客と一般判定員は、自分達の感覚で、好きなように減点できる。

どちらのチームを減点してもよいので、身内にどれだけ裏切り者がいないかが、勝敗を分ける。

式場のスタッフは、打ち合わせの度に念を押す。
「くれぐれも、お式のあとで、犯人を探したりは、しないでくださいませね」

何回も言われることは、壁紙の柄のように意識の下に沈んでいくから、結婚式のあとに壊れる友人関係は跡を絶たない。


だから、ア太郎とア子・イ太郎とイ子のふた組の結婚式が至極穏便に進んだのは、稀なケースなのである。

友達同士の四人組でわざわざ対戦することにしたのは、「共通の友人が呼べるから、みんなの時間も節約できるし、いいじゃない」と、四人の意見が一致したからだ。

ウィットに富んだ挨拶、気の利いたイメージカラー、センスのいい料理に、冒険しているのに洗練された音楽。

客に対しての配慮も行き届いていて、とにかく完璧だった。完璧な結婚式だった。

誰もがそんな気持ちで満腹で、コーヒーなり紅茶なりを啜っていると、そんな気持ちを代弁するように、どこからともなく声がした。

「どっちも勝ちで、いいんじゃないの?」

会場の反対側から、応える者がいる。
「それじゃあ、ダメでしょ。勝敗は決めなくちゃ」

それで、ゲストたちは手元のスイッチのカバーを開ける。ゴールドとシルバーの多数決用のボタンがあらわれる。滅多にない展開だ。サッカーで言う、PKみたいなもの。

そうして、よかったと思うチームのイメージカラーを、各自が押す。

結果は、一回固唾を飲むくらいの時間だけあけて、すぐさま、スクリーンに表示される。

90対91。イ太郎とイ子チームの勝利だ。
一瞬会場がざわつくが、また、声がする。

「だけどイ子、君はゴールドのアンクレットをつけてるよね?」

イ太郎・イ子チームのイメージカラーは、シルバー。ゴールドは、ア太郎・ア子チームのカラーだ。新郎新婦がイメージカラーを守らないのは、決定的な瑕疵だ。イ子は青ざめて、だけどまた、会場から声がする。

「多数決の結果は、変えられないルールだろ。あとで、減点すべき理由がみつかったとしても」

もう一回会場がざわつき、ア太郎はおろおろする。

「そうね、じゃあ、こうすればいい」

「勝者は、イ太郎とイ子。でも、互いのパートナーを入れ換える。どちらの家にも勝者がいたら、縁起がいいじゃない?もし、四人さえよかったら」

四人は顔を見合わせて一言も喋らなかったが、やがて、それぞれの納得度を反映した笑顔を張り付けて、うなずいた。

「皆様、本日は、ア太郎とイ子、イ太郎とア子の結婚式にお運びくださり、本当にありがとうございます!」

いい笑顔でイ太郎が話しはじめ、話し終わり、
にわか雨のようにぽつぽつ始まった拍手は、やがて広がりに広がって、会場を平和で包む。

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※その夜、各自の布団の中で

イ子
(ウ太郎がくれたアンクレット、見えないって思ってたのに、バレてしまうものね。ああ、次はいつウ太郎に会えるかしら。今日のスーツもかっこよかったな)


ア太郎
(どうして、本当に好きな人と結婚できる運びになったんだろう?やっぱり、神様っているものなのかな)


ウ太郎
(みんな演技がうまくてよかったな。結婚式の勝敗を動かす演劇集団、だなんて、怪しすぎて疑っていたけれど、いい買い物をした。

ア太郎、僕が君を幸せにすることはできないことは僕だってわかってるから、せめて、好きな人の隣で幸せでいておくれ)

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