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産んでも産まなくても大丈夫、どっちの人生にもあなたのしたいことが詰まっているから/『私、子ども欲しいかもしれない』レビュー

子供を持つ方針を執るか持たない方針を執るか考えることは、私にとっていつも苦痛でしかない。「産む」なら、絶対に越えなくちゃならないと思ってる山が2つあって、その山があまりにも大きくて、私を潰しにかかってくるからだ。

いろんなものに、「産むなら体力がある若いうちに!」と書かれている。私は既に生物学的には決して若くはないが、自分の実家で起きた様々な残念な出来事(ほとんどがお金があれば回避できたはずのこと)を考えると、お金持ちになれないうちに子供を産むことは絶対にしてはいけないと思う。

また、自分がこんなに生きづらい中(毎日とは言わないが、毎週早めに死にたいなと思う)、そんな地獄に人を招くことも嫌だ。子供を見守りきって生き延びる自信もないし。自分が「生きるのを楽しい」と思える前に子供を産むことも、絶対に避けたいと思う。

これら2つの条件、①お金持ちになること、②生きるのが楽しくなること は大ボスで、子供の件はどうであれ、生きていくために必ず倒したい事柄だ。日々対策を考えて行動しているが、まだ攻略するまでには時間がかかるだろう。

子供の件に絞って考えると、大ボスの周りに子分みたいな不安があって、これらも私を苦しめている。大ボス対策と並行して、子分の正体を見極めること&対策を考えることを進めたいと思って、この本を読んだ。とにかく素晴らしい本だったから、何がよかったか、まとめたいと思う(前置きが長くてすみません)。

素晴らしい点1:不安を言語化してくれてるところ

本の冒頭で犬山さんが書いていること、一部状況は違うとは言え、「え?私が書いたんですか?」という内容で、もはや笑ってしまった(しかし私はこんなに華麗に不安をまとめられない)。

ずっと、「子どもを持つかどうか」ってことをめちゃくちゃ悩んでいる。周りから「子どもはどうするの」なんて言われることも増えてきて、焦りもある。でも、自分の本当の気持ちが分からない。

だって私、「うお────子どもが欲しい!!」って思った瞬間が……、一度もないんです。

いままでの人生、「漫画読みたい」「彼氏が欲しい」「美味しいご飯が食べたい」「お金が欲しい」「ちやほやされたい」みたいな欲求があって、そのために行動してきた。

〔中略〕

なんとかいままで、自分のことは、辛くて逃げ出したいこともあるけど、とにかく必死に向かい合ってきました。 

けど、子どもに関してはそういう感じじゃない。 

「あれ? 年も年だし産むのならもう産んだほうがいいんじゃないの?」 
「いま、仕事もプライベートもめっちゃ楽しいから変わりたくない、いまのままでいたい」 
「でも、健康で仕事が充実してるいまが楽しいのは当たり前で、人生ずっとこのままという保障はない」 
「フリーだから、産休で仕事を休むとダイレクトに収入がなくなりそう、不安」 
「友達からは保育園に入れるのもすごく大変って言われる……」 
「でも、将来子ども産んどきゃ良かったって後悔するのも怖い」 
「でもでも、子ども産んだら自分の時間、なくなるんでしょ?」
「でもでもでも、自分が将来、病気になっても、子どもがいてくれたらどれだけ心強いだろう」 
「でもでもでもでも、子どもが面倒見てくれるって考え方って、どうなの?」

あああああ〜わかる〜わかるわかるわかるよ〜!(わかるの赤べこみたいになってしまった)

不安をきちんと並べてもらえるだけで、自分の思いを整理したり対策考えたりしやすい!!

犬山さん…感謝…!

素晴らしい点2:いろんな扉の先を教えてくれるところ

もちろん犬山さんは、不安を並べるだけじゃない。いろんな人に、それぞれが選んだ扉の先にあったものを聞いてくれて、読者自身が「行く先を選ぶ」ための材料集めを助けてくれる。

家事サービスを活用しまくっている人、妊娠後に夫と離婚した人、夫と協力して子育てしていて、工夫しながら外食もしてる人…。

いろんな人が悩んで行動した結果を紹介してくれているから、「もしこうだったら、どうしよう?」という不安に「この人みたいに対応してはどうだろう?」と対策案を考えることができて、怖い気持ちが少し和らいだ。

特に、第三章の「子どもを持たない人生について知りたい」と「『専業主婦』について知りたい」は、それぞれ一人の人への聞き取りに加えて「子供を持たない人(74名)」「専業主婦の人(92名)」へのアンケートも載っていて、その道を選んでどういうところがよかったか、どういうところに悩むか、いろんな人の何年もの経験から浮かび上がるものを試食させてもらえる(…変な言い方だけど…)感覚で、本当に参考になった。

「後戻りできないのにタイムリミットがある」ところが子供産むのか問題の一番怖いところだと思うのだけど、この本を読んで「先人の経験を吸収しまくることで、人生の先取りができ、少し楽になれる」ということが改めて確認できた。

素晴らしいところ3:子供を産む人生も、産まない人生も、それぞれの幸せがあるはずって確認させてくれるところ

私は、子供を産んだ犬山さんが以下のように言ってくれてるのを読んで、すごく嬉しかった。

きっと私は子どもを産まない選択をしていても「ああ、私いまとても幸せだなあ」と思っている自信があります。

子どもがいないことで生まれる時間で何か作品を生み出していたかもしれないし、
誰かに会って刺激をもらっていたかもしれませんし、
つるちゃん(※けそ注:犬山さんの夫の劔樹人さんのこと)と2人の時間を丁寧に大切に生きていたかもしれませんし、
休みのタイミングでぱっと旅行したりしていたかもしれませんし。

どんな生き方を選んだってそこには自分のしたいことが詰まっているんですね。

私は母のことが大好きだったけど、それでも子供がいない伯母(母の姉)について、母が「彼女は子供がいないから気が利かない」みたいな言い方をするのが、すごく嫌だった。

母が子供を育てていた時間に得たものの代わりに、伯母は違うものを手にした、ってだけの話だと思うから。どっちがえらいとか、そういうことじゃない。それぞれ、自分が持ってるものを使って助け合ってやっていけばいいじゃん。

母は亡くなっちゃったから、こういうことをもう話すことができないのが残念だけど。
(たぶん彼女は、がんばって子供を育てた自分をすごく肯定してもらいたい気持ちがあって、でもそうしてもらえないという思いがあったんだろうな、とは思う。育ててもらった側なのに変だけど、抱きしめたり、おいしいものを一緒に食べたり、彼女がお母さんで嬉しかったということを伝えるようにした。このことについては自分グッジョブと思っている)

今後私も、子供を産んだら子供を産まなかった人生のことを、子供を産まなかったら子供を産んだ人生のことを、きっと想像してしまうと思う。でも、この本のおかげで「そっちにはそっちの楽しみがあったろうけど、こっちにはこっちの楽しみがあるんじゃ!」と思えそうだ。

【本文中に書ききれなかった件のはみ出しコーナー】

・この本、企業のダイバーシティ研修とかで読んだらすごくいいと思う!特にアンケートの回答であった、「こういうことを言われて嫌だった」例について(特に第二章で取り上げられてる、妊婦さんへのアンケート結果は必読だと思う)。

・同性愛の人で子育てしてる人や、もう子育てが終わった人への聞き取りもある、というところもこの本の好きなところ。犬山さんがいろんな人に目を向けているのがわかって、いいなって思った。そして内容がすごかった…回答してたお二人の人間としてのエネルギーと行動力に圧倒された…。この人たちの人生は2時間ドラマくらいにした方がいいんじゃ、と思った(観たことないけど、方向性としてはプロジェクトX的なイメージ)。予想していたのとは違う角度の充実感を得た。

・ちょいちょい溢れ出る犬山さんのユーモアに癒やされた(妊娠検査薬を記念にとっておくかつるちゃんさんと話し合って、おしっこついてるからやめるってとことか。笑った)。

・もし子供を産むことになったら、私も絶対無痛分娩にしようと決意した。

・もし子供を産むことになったら、ママ友をつくらないといけなそうなことに恐怖を感じていた(母の話では、人間関係が難しそうだったから)が、普通の友達つくるみたいに気が合う人と仲良くしたらいいんだとわかって、ほっとした。

・こんなに素敵な犬山さんのお連れ合いはどんな方なんだろうと思ってつるちゃんさんのことを調べたのだけど、つるちゃんさんが描く子育て漫画が、まためちゃ面白いのな…。
劔樹人の「育児は、遠い日の花火ではない」 
https://woman.excite.co.jp/article/comic_essay/child/S1548642036249/

・本の最後に犬山さんが書かれてる「子よ、母ちゃんは君のことめちゃくちゃ愛してます。何があってもそれは変わりません」というところ、何回読んでも泣いてしまうなあ。犬山さんの妊娠から出産までの記録を読んで、怖い気持ちばっかりだった子供を産むことについて、楽しみなことなのかもしれない、と思えた。犬山さん、ありがとうございます。(漫画『子宮の中の人たち』のEMIさんにも同じことを思っている…感謝…)
※ほんとはこのあたりについてもっと書きたかったけれど、既に4000字近くなってしまったからやめる。


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