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旅する日本語展2018に入賞したから、羽田空港に行った。

知人や友人はひとり残らず幸せに結婚し、子供を産み、そつなく仕事をこなし、まっとうな社会の構成員として生きて私だけが取り残される、という気持ちになる日だったので、しかしながら花を買いきてもともにたしなむような妻もおらぬので、仕事のあと、羽田空港に行くことにした。

入賞した「旅する日本語」のエッセイが展示されるという説を聞いていたからだ。

説だと書くのは、受賞のお知らせに、作品はパネルにして1月下旬以降に空港に展示予定、詳細は後日また連絡する、とあった割にまったく連絡がなく、その連絡先に確認してみる気力もなかったからだ。とりあえず空港に行けば結果がわかると思って電車に乗った。

問い合わせメールをするほうが空港に行くよりも簡単に思えるが、それに対して返事が来なかったら精神が潰えるな、と思った。人に大事にされなかった思いは私を殺すので、死んでもいいとは思うけど痛いのは嫌なので、一人で解決できる方法を選んだ。
メールが来ないだけで人に大事にされなかったと思うくらいには、大事にされたい気持ちが強い。

いきなりこのパネルを発見して、なに!と思ったけれど、ここには企画の概要しか書かれていない。

自分のエッセイが展示されていなかった場合にも空港まで来た甲斐があったと思えるように、捜索を開始する前に熱心に空弁を選んでむしゃむしゃ食べた。14時頃(スペイン的なランチタイム)。鮭ハラスといくらのやつ。このパネルの前の椅子に座って。

なお、行きの電車がまるで特急券がいるみたいな座席のつくりだったためちょっとした旅みたいで、ここに至る前にある程度の満足感はあった。

それでも、空港に着くと本当に旅に出る人が溢れていて、羨ましくて仕方なかった。私だって旅に出たい。

入賞したらここ(写真上部)に展示されると期待していたが、やはりそんなことはなかった。ちぇっ!腹いせに、じっくり見てやらなかった。その代わりにひたすら鮭ハラスをかっこんだ。おいしかった。

腹ごなしが終わればいよいよ捜索だ。2017年度入賞者の方のツイート、つまり昨年のことなのだが、に、6階のギャラリーに作品が展示されました!やっぴー!みたいな内容のものがあり(やっぴーはもちろん私の脚色だ)、とりあえず6階に向かうことにしていた。

ちなみに6階には宴会場のようなホールのようなスペースがあり、ここに来るとどうしても古傷がうずく。就職活動の際に羽田空港を運営する「日本空港ビルデング」も受けたのだけど、グループディスカッションがここで行われた。有名私大生の舌鋒にめためたにされ、私、こんなところで戦っていけるのかしら…と暗い気持ちになったのだ、あの日。あの日からしばらくは何もかもうまくいかなかった。
あのときの私よ、不器用さは何も変わらないからしんどいけれど、とりあえず職を得て生き延びているぜ。とりあえず、エスカレーターに乗るぜ。

これでは?

これだった。捜索活動はあっけなく幕を閉じた。

正直、見ている人は誰もいないので恥ずかしかったが、せっかくなので写真を撮った。しかし恥ずかしいので、ちゃんと位置も定めずすぐにシャッターを押した。すると写真、曲がる曲がる。「撮影界のユリゲラー」の異名をほしいままにする私。

4000通の中の14作品に入れたのはやはり嬉しい。
(写真が曲がっているのが気になる)

自分が書いたものがパネルになっているのは、感慨深い…しかし改めて、けそというペンネームは変だ。
(そこも含めて私の表現だ)
(やはり写真が曲がっているのが気になる)

展示期間中に空港に行くことができてよかったなあ、と思いながらマックシェイク(バニラ)を飲んでから帰った。

誰も見てくれていなくても、私が見たのだから、いい。ここから始めるのだ。

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