見出し画像

上手に祝えなくてごめんね

本の言葉と、そこから思い出した出来事に関するちょっとしたエッセイをお届けするマガジン。

今日は、『私がオバサンになったよ』より、ラジオパーソナリティのジェーンスーさんのお言葉を紹介します。

私がラジオに出始めた頃は、女が口を開いているだけで気に食わない人ってもっといたんです。アシスタントではない女に慣れてないというか。うちの番組では、一緒にやってる人は男でも女でもパートナーと呼んでいて、アシスタントとは呼ばない。


私のいた高校の吹奏楽部は当時マンモス部で、人気の楽器を担当することは非常に困難なことだった。

ほなみんは中学のとき担当していたフルートのオーディションを受けた。でもフルートのメンバーにはなれなくて、初めてホルンを吹くことになった。
ほなみん、私の記憶が正しかったら、あなたはそのとき泣いていたと思う。同じ学年の他の人たちは、私も含めみんなホルン経験者だった。それがどんなに不安だったか、私にはわからない。そんなに吹きたい楽器があるなんて羨ましいなって、そうとしか思えなかった。

一年後くらいだったか、転入生がやってきた。彼女は前の学校でフルートを吹いていたという理由で、フルートに途中参加した。
ほなみんは怒っていたね。
「なんで私はオーディションを受けたのに、あの子は何も受けないでそれでもフルートが吹けるの?」と言っていた。

ほなみん、華奢で優しいあなたがそんなに怒っているのを見て、私はびっくりしたんだ。

あなたは鉄の意志をもって練習して、どんどんホルンがうまくなった。
同期の中で、一番ホルンがうまかった。
それでもそんなにもフルートに思い入れがあったなんて、私は本当に驚いたよ。


ほなみん、あなたが第一志望の大学に不合格だったとき、「違う学校に行くからには、第一志望ではできなかったことをやってやろうと思う」と言っていたことを覚えている。

コンタクトにしてますます垢抜けたほなみんを、「俺はかわいいと思ってたんだよ!」と大勢の男子が褒め称えた。

ほなみん、あなたは前よりもっとかわいくなったけど、実は頑固で、負けず嫌いで、私はあなたのそういう多面性が好きだった。

大学でもオーケストラでホルンを吹いていたあなた。
あなたがパートリーダーをしていること、誘ってくれた演奏会のパンフレットで私は知った。立派な会場で、大変な人数の演奏会だったね。高校生のとき、一緒に楽器を吹いていたのが嘘みたいだって思ったよ。

あなたはいつも上を目指して、戦っていたね。それを見るのは、悔しかったよ。


ほなみん、それから長いこと会っていなかったのに、結婚式に呼んでくれてありがとう。
かわいいあなたのますます輝く瞬間がみられて、私は嬉しかった。

だけど、ずっと気持ち悪かったよ。
新郎のよきアシスタントとしてあなたを扱う、結婚式のいろいろが。

金融業界でエリア職として働いていたほなみんは、職場の同僚と結婚した。
乾杯の挨拶をする、新郎の上司は言う。
「まあ、新郎は接待ゴルフとかいろいろあると思うけど、お家に迷惑をかけることもあると思うけど、奥さん、許してやってください、支えてやってください!」

ほなみんが選んだことだって思った、心からお祝いしたいと思ったんだよ。
でも、ほなみんその人の強さは、結婚式ではほとんど取り上げてもらえなかった。
いかに素晴らしい「奥さん」か、って、そういう話ばっかりで。
だから私は悲しかった。

お連れ合いの仕事の都合で、遠くに引っ越すことになったほなみん。
子供のために、陽当りがいい家に暮らしたいと言ってるのに、夫は設備を重視して北向きの部屋を契約しようとしてると言っていた。

話を聞きながら、あなたはきっと折れてしまうのだろう、と私は思った。

戦い続けるのはエネルギーがいるから。
あなたは時々、どこか諦めているようなところがあるから。

もし、あなたが心からアシスタントになりたいと思っているのなら、ごめんね。

だけど、私は、ずっともどかしいよ。

いただいたサポートは、ますます漫画や本を読んだり、映画を観たりする資金にさせていただきますm(__)m よろしくお願いします!