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満員電車の犯人は

今日は、『ファクトフルネス』からの言葉です。

近代医学が発達する前、最悪の皮膚病は梅毒だった。痛がゆい水ぶくれから始まって、ただれが骨まで届き、骨が見えてしまう。気味の悪い見た目と耐えられないほどの痛みを引き起こすこの病気は、国によって呼び名が違っていた。ロシアではポーランド病と呼ばれ、ポーランドではドイツ病と呼ばれた。ドイツではフランス病。フランスではイタリア病。イタリアはやり返したかったのか、フランス病と呼んでいた。 

誰かに罪を着せたいという本能は、人間によほど深く根付いているのだろう。原因不明の痛みをスウェーデン人がスウェーデン病と呼ぶなんて考えられないし、ロシア人がロシア病と呼ぶこともない。それが人間というものだ。

満員電車でいつも不思議に思うことがある。まあまあの混み具合だな、という車内。また駅に着く、降りる人より乗る人の方が多い、ついに「ぎゅうぎゅう」になって、前の人の背中と後ろの人の鞄に潰されているとき、前の人がチラリと私を見るのだ。「誰のせいで私は潰されているのかしら?」と確かめるみたいに。

犯人は、私だ。だけど、チラリ、のあなたも、また犯人だ。私達みんなが毎日電車に乗り続けるから、今日も電車は空かない。

だけど私は、犯人じゃない。チラリ、のあなたも、また犯人じゃない。私が明日から在宅勤務になったって、電車は空かない。あなたが明日から長期の旅行に出ても、同じことだ。
犯人は、誰か一人じゃない。

でも、睨む相手が必要なのだ。目に見える具体的な敵がいなくちゃ、困るのだ。遣る方なき憤懣の出口を見つけることで、みんな少しだけほっとするのだ。

そうして怒りは縮まって、降車するなり散り去って、だからあしたも変わらずに、満員電車が来るのだろう。

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