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私は、もう祈ることを信じられない:『天気の子』

(いまさらですけれども
 ややネタバレありなので注意)

恋人の推薦を受けて一緒に観に行ったが、
彼ほど熱くなれなかった。
私は今回が初見ということもあると思うけど
(彼は1回見て、町山智浩さん&宇多丸さんの評を聴いて今回2回目)。

端的な感想

絵は好き。好きなキャラクターもいる。
好きなシーンもある。
音楽と練り上げられるカタルシス、最高。
が、ヒーローとヒロインの(特にヒーロー)の成長、相手がいたからこそできた成長、というのが
よくわからず、のめりこめなかった。 

あと、監督が伝えたいメッセージを、
「圧倒的な異常気象が起き切っちゃった世界」で表現するのは、困難だったんじゃないか・・・?

だらだら書く感想

いろんな物語があるから一概に言えないと思うけど、
私が好きな物語は、
主要登場人物が「自ら自分の外に出ていく」話だ。
(孫引きな上にうろ覚えなのだけど、
 スペインの哲学者の
 オルテガ・イ・ガセットが
 「幸せとは自らの外に出ることである」
 みたいなことを
 言っていたらしく、私はこの言葉が好き)

===
例①
『モテキ』の幸世
【前】相手が「怒っているんだろうな・・・」
   と感じたら
   その理由を自分で妄想して
   怖がって引きこもり、
   関係を強制終了していた。
【後】相手の気持ちを、
   直接話して聞けるようになった。  

例②
『左ききのエレン』の光一
【前】才能がないことを嘆き
   自らを実際よりも大きく見せることで
   モヤモヤした気持ちをなだめていた。
【後】できない人の気持ちがわかる
   クリエイターとして
   人を導きサポートする、
   「太陽」ではなく
   「月」のような存在として
   活躍する方法を見出した。   
===

「外に出る」ためにしたことが
壮大でもちっぽけでも
成功しても失敗しても
それはどっちでもいい。

ただ、
自分のことにしか 
目を向けられていなかった人とか
コンプレックスで
自分の中に閉じこもってた人が
そうでなくなる瞬間に立ち会わせてくれると、
ああ、いい物語だったぜ・・・と思う
(※もちろん、「無理すること」を推奨しているのではない。工夫して対話して前に進む人が好きという話)。

この物語の中で、
帆高と陽菜がどういう風に前に進んだのか、外に出たのか、それがよくわからなかったので、しっくりこなかった。

その相手と話したからこそ、出会ったからこそ、
それまでの自分ではできなかったことができるようになった、
それまでの自分では考えられなかったことに思い至るようになった、
というようにはあまり感じられなかった、というか。
(実は恋愛の相手というのは代替可能で(本当は運命の人はいない、その人としか恋ができない、ということはない)その切なさを描こうとしている物語も私は好きなんだけど(小説の『悪人』とか)、この作品はそれを描きたいわけではなさそう)

わが恋人は、
「周りが止まれと言っても帆高が走っていくシーンがよかったな。 
世間がどんなにやばくても、周りに反対されても、
若者は行動したらいいんだ、
というメッセージなのでは」と
いうようなことを言っていた。
(恋人へ>うまくまとめられてなかったらごめん)

世間の声がどうであれ、
結果がどうなりそうであれ、
若者は、自分が信じるもののために
行動したらいいと思うよ!
っていうメッセージを今発信する意味は、
とても大きいと思う。

でも、だとしたら、
なぜ再会したときに
陽菜は「祈って」いたのか?

「祈る」ってことって、
行動することの対極にあると思ってて。
「私以外の何かよ、この事態をどうにかしてください!」って
思うってことじゃないですか。

ほんとうにどうしようもないことって
世の中にはあるので
祈るしかないこともあるんだけど、
この作品で発信したかったメッセージは
「みんな、祈ろう!」ってことじゃ、ないはず。
非力でも意味がないかもしれなくても
とにかくやってみよう、っていう方向のはず。

なので私としては、
陽菜が祈る以外のなんらかの行動
(もちろん、陽菜もほかの誰かも犠牲にならない行動)をとって
それによって
カタストロフの運命が少しでも変えられたら、もう少ししっくりきていたかなあ。
カタストロフ完全回避!だとファンタジーっぽさが強くなっちゃって新鮮さもないしメッセージも伝わらないので、さじ加減が難しいとこだな、とは思いますが。

これは、私自身も母を癌で亡くして
それ以来、
「祈る」ことって意味ないなあ、
運命を変えられる行動があるなら
少しでもしていきたいなあ、
と思うようになったことが
たぶん大きいと思う。
病気で母親を亡くしている陽菜が、
それでも祈ることに
あんなにも意味を感じているのが
私としては結構不思議であった。

こまごました好きなところとか考えたこととか

・3人でラブホに泊まるシーンが
 非常に好き・・・。
 私は『映画の中のラブホ愛』が
 強いかもしれない。
 (『ジョゼと虎と魚たち』のシーンも
  『ウィーアーリトルゾンビーズ』の
  シーンも好き)
 ラブホって
 やや宇宙船感があるからかもな。

・凪くんがすごく好き。
 凪くんがバス通学なのは、
 家が学校から遠いから?

・キャッチャー・イン・ザ・ライを
 読んでないから
 わかっていないところが
 いろいろあるだろうな。

↑この表紙だったので村上春樹訳バージョンと思われる。

・最近、
 ジャンクフードだけど幸せそうな食卓、
 という描写が
 映画で増えてきていい傾向だと思う。
 家庭料理=幸せというのは
 時に人の首を絞めると思うから。

・働けるようになるまでは
 家族とうまくいかなくても
 子供逃げ場がない問題、
 改めて観ててげっそりした。
 今後に不安はあるけど、
 大人になってよかったなと
 心底思った。
 もし子供を持つことになったら
 家庭を地獄とか牢獄とかにすることは
 絶対にしないようにしたい。
 例えその壁が
 どんなに柔らかなものであっても
 子供を地獄に閉じ込めるようなことは
 しちゃいけない。

・私は未読ですが、
 恋人いわく小説を読むと
 わかる部分もあるらしいので
 貼っておきます。


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