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不気味ちゃんを見て、やっぱり好意を返されたいと思った:愛がなんだ

観終わって、いろんな思い出が雹のように降り注いでふらふらになっていたが、よくよく考えるといろんな思い出が降り注ぐのはこの映画を観たあとの反応としてちょっとストレートじゃないな、と気づいた。

なぜか。

※ネタバレしちゃう部分もあると思うのでご注意。ネタバレしてから観たって素晴らしさはちっとも減らない映画だとは思うけど。

(主人公のテルコが自分でも言ってたけど)もはや彼女の気持ちは恋とか愛とかにおさまらなくて、ひたすら執着、だったからだ。その執着が謎の次元にあり、それは私が共感するにはあまりにも純度が高いものだったからだ。

主人公の山田テルコは、田中守が好き。
一般的な言い方をすれば、テルコは守にとって「都合のいい存在」だ。

守が風邪を引いたときは、深夜に呼び出される。で、料理作って掃除してたら、そろそろ帰って、と追い出される。
好きな人がいると明かしておきながら「やらせて」という守に、何も言わず従う。

仕事中もひたすら守からのメッセージを待ち、守からいつ呼び出されてもいいように終業後もずっと会社で待機し(たぶん自宅から守の家に向かうより近いのだろう)、守から電話がかかってきたらシャンプーしてても出て、守に入れ込みすぎて会社をクビになる。

それでもテルコは止まらない。

「守が好きな人と旅行に行くためのグループ旅行の計画に参加する」ことも、「守に、テルコの恋人候補として守の友達を紹介してもらう」ことも、喜んでする。

守と一緒にいる時間を確保するために。

テルコは、同じく「都合のいい」人間だった仲原が、片思いをやめる宣言を言葉を探し探ししたとき、それは綺麗事だ、と断言し、「手に入りそうもないから、諦めるってことでしょ」と不満げに換言する。

いや、手に入りそうもなかったら、諦めるだろ!!

テルコの友人・葉子は、テルコを「不思議ちゃんじゃなくて不気味ちゃん」だと言った。

マモちゃんにどんなにひどい仕打ちをされても、テルコは泣かないし大声で喚いたりもしない(ちょっとラップを作ったりするくらい)。

一緒にいるためだったら、「マモちゃんのことなんて、好きじゃないよ」と言えるし、それに対して守が「よかった〜」と嘆息しても、笑顔を返せる。
 
好きな人にちっとも好きを返してもらえないのに、なんで。
なんで笑っていられるんだ。
なんで続けていられるんだ。

不気味すぎて、胸が痛い。

仲原くんは何回か「幸せになりたいっすね」と言うけれど、テルコは一回は頷いたりしていたけれど、実は彼女はもう、幸せのど真ん中にいるのかもなあ。

他の人の心を「手に入れる」ことなんて、ほんとは誰にもできない。付き合ったって、結婚したって、それはゴールではない。
今両想いでも、それがずっと続く保証なんて一ミリもない。
今両想い、と思っているのもあくまで自分の推測だ。相手の気持ちを取り出して自分の心に入れて感じてみることはできないから、相手の仕草とか、言葉とかで、「きっとそうなんだろう」と考えることしかできない。

だから、「一緒の時間を過ごすこと」を「なるべくたくさん達成すること」を目指すテルコの姿勢は、自分を悲しくしないための賢い目標なのかもしれない。

うーん、それでもテルちゃん、私はあなたのようには生きられない。

確かめにくいものでも、相手に「愛」を返してほしいのだ。
好きだと言ってほしい。
大事そうにさわってほしい。
私のために時間をかけて、プレゼントを選んでほしい。

自分じゃどうにもコントロールできない目標だ。だから心細い、いつも足りてない気がする。

でももう、それらの甘さを知ってしまったから後には戻れないんだ。

起きたばかりの相手のかわいい顔を見ること、足でさわりあうこと、一緒にお酒を飲むこと。

それだけでいいと思えたら、私も泣かないで生きてこられたんだとしても。



【ここから、はみ出し感想】

■守が、世の中の男をかっこいいかかっこ悪いかで分けたら、俺ってかっこ悪い方だと思うの。なんでそんな男が好きなの?みたいな話をしたとき、私がテルコなら、あーマモちゃんは自信がないんだなこんなに素晴らしい人なのになんで、絶対に今だけでも幸せな気持ちにしたい!、と思ってどこが好きかを延々と語るけど、テルコはそうしなくて、ますます不思議な好意だなーと思った。マモちゃんのためになんでもするのに、マモちゃんの自信のなさを埋めるための何かはしないんだなーと。
(しかし、守を成田凌氏が演じると「顔もそこまでかっこよくないし」の台詞の説得力がめちゃんこ下がるぜ)

■仲原くんがひたすらひたすらひたすらよかった…。髪型から服装から、あーこういう人はこういうところで、こうやって笑うよね…ってところまで。

■テルコと葉子の、寂しくなるときはあるかって聞いてんの、みたいなやり取りのシーン。大好き。(これがあったから葉子は、きっと仲原くんのこと検索したんだよね)

■大晦日に餃子を焼きまくるのなんかよかった。ていうかこの映画はずっと食べてる。そして飲んでる。これによって鍋焼きうどんの売上、間違いなく上がってると思う。

■守とスミレさんの、「あーわかる…いい人じゃないけど、なんか好きになっちゃうって感じの人たちだわこれ…」感、すごい(スミレさんは、パスタのくだりで好きになった。アスパラじゃなくてなんだったのか気になる。それを食べきろうとするとこにテルコの人間性出てる)。

■成田凌氏の不機嫌の演技が冴え渡っていて、いろいろ思い出しました。

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