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怪物流し

今日は小説『ウェイクフィールド』の中の一節をご紹介します。

読者は経験からおそらくご存知だろう。
怪物はその予兆、出現の兆候こそが恐ろしいのであって、お決りの実物はさほどでもないのである。


旅は準備が一番楽しい、とはよく言われることだ。でも私は、旅を振り返るのが同じくらい好き。なんで海外旅行にあほみたいにお金を使うかって、何回でも思い出して楽しめるからだ。時が経てば味が落ちてきてしまうとはいえ、無制限に楽しめるんだから、実はすごくコスパのいい趣味だと思う(何度でも幸せな気持ちになれるものには、たくさんお金をかけていい、という自分ルールがある)。

学生時代も、吹奏楽コンクールや文化祭のあと、打ち上げの時間の真っ白な清々しさが好きだった。なんにも悔いがないとは言わない、これから前みたいに会えなくなる人だっている。でも、そういう、物語の最後をみんなで見送るような時間が好きだった。ぎゃあぎゃあ笑いながら、あるいは、声をあげて泣きながら、笹舟を川に流すようなそんな時間が。

そのときに初めてわかる怪物の姿もきっとある、と、今なら思う。


※ちなみに『ウェイクフィールド』は、「一人の男がある日ふと妻を置いて出かけ、そのまま帰らずに、妻にも知らせないまま自宅のすぐ隣の通りで20年間暮らした後、なにごともなかったようにひょっこり帰ってきた(ここまでWikipediaより引用)」という話。文体とか何にも覚えていませんが、存在がずっと心に残る物語なので、よろしければぜひ。

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