ジャム

アラサー半ニート。小説や詩になりきれない文章を気まぐれに投稿します。<ブログ>アラサー…

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アラサー半ニート。小説や詩になりきれない文章を気まぐれに投稿します。<ブログ>アラサーニートの雑記帖 http://zakkicho.hatenadiary.com/

最近の記事

あの人

 元彼がパパになったらしい。  8年の付き合いの末に、浮気をして、私を捨てたあの人が。  あの人の情報を知りたくなくて、引き戻されたくなくて、SNSを一切見なくなった。だけど、ブロックはしなかった。ボタン1つでどうとでもなるその繋がりを、どうしても断つことができなかった。  連絡先も消せなかった。  もしかしたら、数ヶ月、数年経ったら、私を選ばなかったのは間違いだったと、せめて友達に戻りたいと連絡が来るかもしれないと、淡い期待を心のどこかに持ち続けていた。  バカな女だと思

    • 途立つあなたへ

       付き合い始めてまだ間もない頃、半同棲のように過ごしていた日々。私は週末のたった二日間、あなたを実家に帰すのが寂しくて仕方なかった。  しばらくして、仕事で一週間東京に行くと言われ、ほとんど泣きながら送り出した。  またしばらくして、友達と三週間ほどオーストラリアに行くと言われた。完全に泣きながら、初めて会うあなたの友達にあなたを託した。  付き合いも数年経った頃に、仕事で一ヶ月、タイに行くと言われた。仕事前、早朝の福岡空港であなたを見送り、国際線ターミナルから戻るシャトルバ

      • きらめく街

         福岡から京都に向かう夜行バス。あの日、カーテンの隙間から覗いた門司の夜の街並みは、きらめいていた。  初めての夜行バスでの8時間に及ぶ長い旅路。同行者はおらず、ひとりきり。それでも私の胸は、喜びと期待でいっぱいだった。このバスが京都につけば、1ヶ月近く海外に出かけていた恋人と会える。ふたりで京都や神戸を旅行して、フェリーに乗って福岡へと戻る計画だ。  バスが高速道路に入り、浅い睡眠と覚醒を繰り返し始めると、少しだけ、心細さが頭をもたげる。続く同じ景色と、曖昧な意識の中で、

        • 旅行の醍醐味

           修学旅行の前日、閉店間際のデパートで、母に叱られながら下着を買った。何日も前から、「旅行の準備はしてるの?ぎりぎりに言われてもお母さん知らんけんね?」と言われながら、元来腰の重い私は、母の心配通りにぎりぎりまで準備を怠り、ぎりぎりになって(可愛い)下着が足りないと言い始め、案の定喧嘩をしながら買い物をする羽目になった。  喧嘩をしながら、でもちゃっかり試着なんかもして、買ってもらったちょっと高めのその下着は、友達からも可愛いと好評で、私のお気に入りになった。おみやげを渡しな

          薬の効き目

           「今週はいかがでしたか?」 私はそのふんわりとした質問に戸惑いながら応える。 「まあ、変わりなく…。」 「そうですか。」 彼はなにかをパソコンに入力して、再び私に向き直り尋ねる。 「その、原因になった出来事の方はどうですか?なにか状況変わったりしました?」 原因になった出来事。だいぶ遠回しな言い方をするのだな、と私は思う。 「まあ、そちらも変わりなく。…普通に連絡は取り合っている感じです。」 「そうなんですね。それでやっぱり居場所がわからなくて不安になることがある、と。」

          薬の効き目

          孤独

          あなたがいない夜 賑わう街 誰も通らない道の点滅する信号機 青く突き抜けた空 外から聞こえる笑い声 自分だけのために淹れた美味しいミルクティー 冷え切った指先 届かない言葉 あなたといる夜

          私をやめる

           私は私であることをいつもやめたかった。  今日、振られた。  好きな人ができた、と言われた。ごめん、と言って、彼は泣きそうな顔をしたけれど決して泣かなかった。  彼の態度は誠実そのもので、非の打ち所がなかった。別れを告げられた瞬間から、私にはもうなにもできることがなかった。ただ、そっか、と呟いて涙をこらえる他に、なにもできなかった。  せめて最後はイイ女であろうと思って、無理に笑顔を作ったりした。ちゃんと言ってくれてありがとう。今までも、いっぱいありがとう。そんなことを言

          私をやめる

          夜にいる私

           壊れたい。戻りたい。消えたい。  書いては消して。書いては消して。繰り返すうちに、時が経って、あの人から連絡がきて、言いたいことは言えずに、また日常に戻る。  馬鹿みたいだと思う。何度同じことを繰り返しているだろう。苦しくて、苦しくて、辛くて、みじめで、空しい。何度味わえば私は思い知るだろう。楽しさも幸せも、一時の夢に過ぎないと。  あの人の腕を抜け出たその瞬間から、疑いも、裏切りも、もう私のすぐ隣に立っているのに。あの人の腕の中でさえ、既にもう裏切りと嘘に塗れているのに

          夜にいる私

          30歳になった日

           30歳になった。  キラキラした友達にキラキラと祝われながら、さっき私は30歳になった。  三十路だというのにキラキラとかなんか申し訳ないと思ったりしながら、キラキラした写真を撮って、キラキラした文章を添えてSNSにアップした。怒涛のごとく「いいね」の通知を受け取りながら、友達の歌うアユに合わせてタンバリンを振り回す。久々に始発が出るまで騒ぎまくって、カラオケ店の前でキラキラたちとお別れした。  アルコールと眠気で血管の動きに合わせてリズミカルにやってくる頭痛を抱え、汗

          30歳になった日

          本音

           私が私のことをすごくくだらない人間だと思うのは、すごくくだらない人間だと自覚しているのにも関わらず、それを覆す努力もせずそれを認める潔さも持たないくせに、そのことを他人に悟られないように必死になり、なんだか難しいことを考えている頭の良い人間のように見せかけながら、本当は底の浅い自分に都合の良いことしか考えておらず、穏やかでいかにも優しい人間のように振る舞いながら、その実ただの事勿れ主義のその場しのぎで自分の内面を曝け出す勇気も覚悟も持たず、そのくせ一生懸命生きる熱量を持った

          失恋できない私の髪は短い

           髪を切った。もうすぐ胸の下あたりまできそうだった髪を、顎のラインでばっさり切った。  「失恋したの?」 冗談で、ちょっと本気で、会う人みんながそう尋ねてくる。 「ただの気分転換ですよ。」 笑顔を作って私は答える。 「似合うね。」 社交辞令2割、本音8割。と私は思う。私は自分に短い髪が似合うことを知っている。今まで7年間、鎖骨より上の長さになったことのない、すっかり馴染んだ長い髪よりも、頭の形に沿ってきゅっとくびれたショートカットがとてもよく似合うことを知っている。 「ありが

          失恋できない私の髪は短い

          食卓

          「このCMに出てる子、名前なんだっけ?」 母が声をあげる。 私は答えない。 「ねえ、なんて名前だっけ。」 もう一度、母が尋ねてくる。 「……知らない。」 本当は知ってる。 「あのドラマとかにも出てる子だよ、ほら。今やってる。」 「知らないって」 本当は知ってるのに。名前を教えさえすれば、この会話はそれで恙無く終わるとわかってるのに。私は知らないことにする。 「誰だったかなあ……」 こんなくだらないことでいつまでグダグダ言うんだろう、と思う。私が名前を教えれば、この人はグダグダ