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20歳の夏「予想もしなかった曲がり角」の先に見い出した、人生のミッション——Traimmu共同創業者・佐野貴之インタビュー

就職活動の時期になると、多くの学生が「大企業 or ベンチャー」、「やりがい or 安定」といった悩みを抱えているとを耳にする。大人たちからは「やりたいことより、できること」なんて意見もあれば、「やりたいことに没頭すべき」なんてアドバイスをもらうこともある。

とはいえ、その大人たちも皆、1回目の人生を生きているわけであって、正解など持っていない。イギリスの小説家サマセット・モームが「人生の秘訣とは、自分自身でそれを見つけないと意味のないものだ」と語ったように、自分が選んだ選択肢の先にしか、正解はないのだ。

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株式会社Traimmu共同創業者の佐野貴之は、大学に入学する以前、「自分が起業するなんて、考えたこともなかった」と語る。しかし、たまたま手に取った書籍『20歳のときに知っておきたかったこと』がきっかけで、「自分が本当にやりたかったこと」に出会う。

同書の一節に「踏みならされた道は、誰でも通ることができます。でも、予想もしなかった角を曲がり、何か違うことをしようとしたとき、そして周りがお膳立てしてくれたルールに疑問を持とうとしたとき、面白いことが起こります」とある。

佐野が「予想もしなかった曲がり角」の先に見い出したものとは。「自分が想像している以上に、やれることや実現できることがたくさんある」と語る彼に、創業に至るストーリーと、これからについて伺った。

キャリアパスに見つけた、予想もしなかった曲がり角

佐野は安定志向の家系に生まれ育ったこともあり、所属する大阪大学を卒業した後は、大企業に就職するものだと思っていたそう。しかし彼は、大学院在学中に会社を創業し、起業家になった。

佐野「大学に入学するまでは、起業しようなんて、一度も考えたことがありませんでした。卒業後は、大企業に就職するものだと思っていたんです。ただ、たまたま手に取った書籍や、書籍に影響を受けてセミナーに参加したことで、自分が描いていたキャリアに疑問を持つようになりました」

とあるセミナー講師は、参加者に向け「やりたいことがあるなら、本気でチャレンジしろ」と語ったそうだ。たったそれだけのことだが、感銘を受け、佐野は自分のキャリアを改めた。

佐野「セミナー自体は胡散臭さがありましたが、彼の言っていることに間違いはありませんでした。世界を見渡せば、環境のせいでチャレンジできない人がたくさんいます。でも日本は、勉強しようと思ったら勉強ができ、起業しようと思ったら起業ができる国です。恵まれた環境にいるのだから、たった一度の人生、何も行動を起こさずに過ごすのは、あまりにもったいないと感じました」

その当時、佐野自身は特にやりたいことがあったわけではない。ただ、「やりたいことを本気で実現しにいく、チャレンジングな人が増えたらいいな」と感じたそうだ。

「その第一歩として、まずは自分がチャレンジすることからスタートしないと」——佐野の起業家としてのキャリアは、とにかくアクションを起こすことから始まった。

初めてのチャレンジは、大学の友人たちと立ち上げた、クーポンサイト「OUlife」。セールスとして、大学周辺の飲食店や美容室を駆け回る日々を過ごしていた。

しかし事業はなかなかうまくいかず、佐野自身「本当にやりたいこと」ではなかったために、チームを解散することになる。この出来事が、現在に至る最初のターニングポイントになた。

佐野「 一度立ち止まり、『本当にやりたいことは何か?』を懸命に考えました。すると、いくつかアイディアが浮かびました。しかし、いかんせんアイディアはアイディアです。僕は、アイディアを形にする力を持っていませんでした。

そこで、大学を休学し、プログラミングを学ぶことを決意したのです。「OUlife」を開発していたエンジニア・森脇健斗くん(現Wantedly)にアドバイスをもらいながら、独学で開発スキルを身につけました」

佐野と「OUlife」のメンバーたち

自宅と大学の図書館を往復し、ひたすらにプログラミングを学ぶ毎日の中で構想していたのが、後にTraimmuとしての最初のサービスになる「Co-mender」だ。Co-menderは、内定者と就活生をマッチングするサービス。「やりたいことを本気で実現しにいく、チャレンジングな人が増えたらいいな」という、彼の根本にある想いを具現化したサービスだ。

佐野「昔からパイロットを目指していた友人がいました。ただ、所属していた大学からパイロットになる人はほとんどいません。なので、なかなか情報を得られずに困っていたのです。

彼は無事にパイロットになることができましたが、パイロットになることが決まった数ヶ月後に、実は同じ学科の先輩にJALの内定者がいたことが分かりました。もし情報がないことがきっかけで、夢を諦めてしまったり、夢が叶わなかったら…。想像するだけでも、悔しくなる。そこで、Co-menderを開発しました」

千葉功太郎氏に認められ、想いが形に

初めて自分で開発したサービスを、学内のSNSコミュニティに投稿したところ、2つ年下の後輩から連絡があった。後に、共同創業者となる高橋慶治だ。待ち合わせした大学の図書館につくと、高橋はおもむろに、ホワイトボードに今後の構想を書き始めた。

佐野『彼はいつも、発言が突拍子もない。当時、『Co-menderを”日本版LinkedIn”にしましょう』といきなり言われたのですが、正直何を言っているか分からなかったですね(笑)。

ただ、ハタチそこそこで、これだけレベルの高い人をなかなか見たことがありませんでした。人脈もあるし、地頭もいいし、経験値もある。仲間を探していたわけではなかったのですが、尊敬できる人だったので、一緒にサービスを伸ばそうとタッグを組むことにしました」

大学を休学中はお金がなく、毎日即席麺を鍋のまま食べる日が続いたという。その間、同級生たちは、いわゆる“人気企業”から内定を獲得していった。「不安に感じることはなかったか?」と尋ねると、「むしろ前進している気がして、どんどん成長していると思えた」そうだ。プログラミングスキルが身につき、サービスが形になっていき、「このままいけば、自分がつくりたかった世界が実現する」と感じたからだ。

しかし、夢はそう簡単に叶うものではない。サービスをリリースしても、なかなかユーザーは集まらず、「売り上げは月に1万円あるかないか」だったそう。

そこで、サービスを伸ばすべく、学生向けメディア「co-media」を立ち上げる。活躍する同世代のインタビューを導線に、「co-mender」のグロースを目指した。

佐野『僕がCo-menderを、高橋がco-mediaを担当していたのですが、結果的にco-mediaの方がサービスとして成長しました。そのタイミングでCo-menderは閉じ、代表権を彼に譲ることにしたのです。自分はどちらかというと2番手タイプで、代表を担うべきなのは、優れた先見性を持っていて、大きく魅力的なビジョンを描くことができる高橋だと感じていたためです。

また彼は、インタビューを重ねながら、「長期インターン市場が大きくなってきている」という噂を拾ってきました。事実、優秀だと言われる学生の多くが、長期インターンによって実力を伸ばしていたのです。そこで新たに、「InfrA」を立ち上げること。市場が大きくなっていること、そして僕のつくりたかった世界に近づくことから、サービスをピボットしました」

そうと決まれば、話は早い。佐野がサービス開発を行い、高橋は東京へ出て、投資家を回った。そしてサービスがある程度形になってきた頃、高橋がチャンスを掴んできた。学生起業家を支援する「コロプラネクスト」から、出資をもらえる可能性が出てきたのだ。

リリース前のつくりかけの段階で、二人は千葉功太郎氏の元へ。改善点だらけのサービスを見せながら、つくりたい世界を語った。

リリース初期の「InfrA」

佐野『Co-menderを構想してから、もう結構な時間が経過していたので、もしこのタイミングで投資をいただけなければ、可能性がなくなってしまうのではないかとも思っていました。しかし、無事に投資をしていただけることに。自分が信じてきたことを、肯定してもらったような気がしました」

コロプラネクストからの出資が契機になり、株式会社Traimmuが誕生することになる。社名の由来は、高橋の好きな言葉「不易流行」。「変化の最先端に立ち(Transitional)、それでいて、いつまでも変化しない本質(Immutable)を忘れない」との想いからだ。

新卒第一号が改めて教えてくれた、長期インターンの価値

ただやはり、Co-menderが伸び悩んだように、サービスはそう簡単にうまくいくわけではない。資金調達に成功したからといって、サービスの成長が確約されたわけではなく、軌道に乗るまでは時間がかかった。

佐野「思い悩むことがなかったかといえば、嘘になります。ただ、そもそも初めての起業で立ち上げた会社が、1年で思い通りにうまくいくことなど、そうありません。今成功されている経営者だって、踏みならされた平坦な道のりを歩んできている訳ではない。冷静に考えて、スキルのない学生起業家の自分が、一発でうまくいくなんて、その考え自体がおこがましいのだと改めました」

サービスが伸び悩む“苦悩の時期”を支えたのは、自分が開発したサービスがきっかけで人生を変えていく学生たちの存在だっという。ひとり、またひとりとユーザーが増え、「InfrAのおかげでやりたいことが見つかりました」という声が届くことも。

今では、InfrAから長期インターンに挑戦した学生が、2,000人近くになった。佐野自身、リアルに事業を体験したことで成長した原体験があるため、長期インターンによって実務経験を積む学生が増えていくことに、誇りを感じている。

そして今年、佐野が会社を立ち上げてから、最も感激する瞬間が訪れた。InfrAを通じてTraimmuのインターンに参加した学生が、新卒で入社することになったのだ。

新卒第一号社員・林さくら(左)

佐野「自分の会社に新卒で入ってくれたことはもちろん嬉しいです。でもそれより、長期インターンが持つ価値ってすごいな」という気持ちが大きいかもしれません。Traimmuはまだまだ小さな会社で、知名度もない。普通なら、入社対象にもならなかったはずです。

でも、長期インターンがあったから、彼女を採用することができました。さらに彼女は、僕たちが叶えたいビジョンに賛同して、入社を決めてくれている。これほど嬉しいことはないですよね」

今年新卒入社する林さくらは、大学4年次からTraimmuで長期インターンを始めた。すでに教育業界の大手企業から内定をもらっていて、卒業前に社会人になる準備をしているところだった。

しかし、働くうちに「自分が本当にやりたいことは、Traimmuにあるのではないか」と思い直し、内定を辞退。成功の確約されていないスタートアップの世界に飛び込んだ。

佐野「彼女がいつか、Traimmuに入社したことを、周囲に誇らしく語れるようにしたい。分かりやすいのは、自社のサービスを誰もが知っている状態にすることだと思っています。彼女の意志ある決断に、『あの誰もが知るサービスをつくっている会社に、新卒第一号として入社した』という未来をプレゼントすることで、報いたいです」

「InfrA」のサービス名の由来は、「キャリア形成のinfrastructureになってほしい」という願いと、Intern from A to Z(インターンを原点に、キャリアを形成しよう)」という思いが込められている。新卒第一号の林は、まさにサービスを体現したひとりなのだ。

キャリア形成の“インフラ”を目指して

Traimmuは今期、新たに4名のメンバーを迎える。佐野自身、2019年は創業以来最も大きなチャンスだと認識しており、Traimmuにとって「勝負の年」である。

佐野「創業時から、『時代に合ったプロダクトをつくる=なぜ今なのか』ことを強く意識していて、5年前から長期インターンがキャリア形成のスタートになると確信していたのですが、時代が変化するスピードと少しズレていたようです。

しかし今、「時代の過渡期に立っているんだ」ということが、ようやく理解できました。次の時代のスタンダードになるのは、僕たちが“就活3.0”と呼んでいる、「多くの学生が早くからキャリア形成を意識し、職務経験に伴う実績やキャリア観をベースに企業を選別する就活スタイル」です。

先日のニュースでも、学生が入社先を確定する決め手は「自分の成長が期待できる」が最多だったと報道されていました。他にも日本を代表する大企業・東京海上日動火災保険が「起業や長期インターンでの実務経験がある学生を募集する」と発表したり、「大手就活サイトに登録はしても“使わない就活”が、一部の学生の間でスタンダードになりつつある」と報道されたり、僕たちがつくりたい世界に、時代の流れが100%向いている。変化の真っ只中にある市場で、No.1を取るチャンスがあるのです」

来たる新時代に向け、Traimmuは既存サービス「InfrA」をリブランディングしている真っ最中だ。“就活解禁”といった節目にとらわれず、誰もが「本当にやりたいこと」に向かい、キャリアと真剣に向き合うためのプロダクトを今春リリースする。

佐野「学生時代に、誰もが実務経験を積める手段として長期インターンがあります。また、実務経験がキャリアを前進させるのは、明瞭です。しかし学業との兼ね合いから、全員が全員長期インターンに参加できるわけではありません。

だから今後は、長期インターンだけでなく、もっとフランクにキャリアと向き合う機会を提供しないといけない。大手企業が参入をためらい、行政もなかなか手を打てないこの社会課題に、スタートアップとしての誇りを持って挑んでいきます。

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僕の友人の多くは、大学1・2年生のときにサークルやバイト、遊びに明け暮れ、3年生になると短期インターンに参加し、大手企業から内定をもらいました。内定をもらうと「遊べるのは学生のうちだけだから」と、時間を惜しむように遊びや旅行に明け暮れていました。

そして今、社会人として働く彼らの多くは、口を揃えて「仕事がつまらない」「土日が恋しい」「月曜日が憂鬱だ」と言います。彼らのほとんどが、自分の可能性を勝手に限定し、「自分にはこれが向いている」と思い込み、就職先を決めていたように思います。

もちろん、本当にやりたいことを仕事にするのは簡単ではないし、生きていくためには、やりたいこと以外を仕事にせざるを得ないときもあるでしょう。

でも、やりたいことを仕事にできる可能性があるのにも関わらず、チャレンジすることすらしないのは、あまりにももったいない。

冒頭で紹介した『20歳のときに知っておきたかったこと』の一説に、「人は誰しも、日々、自分自身に課題を出すことができます。つまり、世界を別のレンズで見る、という選択ができる」とあります。

自分が想像している以上に、やれること、実現できることが、たくさんある。会おうと思えば、どんな人にだって会える。なろうと思えば、どんな人にでもなれる。

綺麗事かもしれませんが、本気でその事実を信じ抜ける仲間と、一緒に働くことができたら嬉しいです。

◼︎ 株式会社Traimmuについて
会社ホームページ
・日本最大級の学生メディア「co-media
・長期インターンプラットフォーム「InfrA


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