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たとえ凡人でも、天才に勝てる。本田圭佑に学んだ「起業家」としての信念——Traimmu代表・高橋慶治インタビュー

働くことに理由はいらないし、好きなことを仕事にする必要はない。もちろん、職業に貴賎はない。それなのに「私はどうして、この仕事をしているのだろう?」と考えたくなることがよくある。

そんな悩みにぶつかる機会が多いのなら、一度自分の働き方を見直してみるべきだ。本当にやりたいことに向き合わず、自分に嘘をついていることに気づくかもしれない。もしかすると、今よりも輝ける環境があるかもしれない。そのチャンスをみすみす逃すほど、悲しいことはない。

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株式会社Traimmu代表の高橋慶治は、「若者の価値を最大化する」というビジョンを掲げ、「本当にやりたいことに向かう人を増やす」ための事業を展開している。

2015年、まだ大学生だった高橋の起業は、まさに彼自身が「本当にやりたいことに向かう」ための第一歩だった。

そして2019年の今、当時描いた構想がようやく形になろうとしている。画一的な「キャリアパス」の抜本的な改革を目指すTraimmuの次の一手について、話を伺った。

阪大坂を登りきり、人生の第二章が始まった

インタビューを始めるにあたり、高橋は起業以前、大学に入学した頃の話をしはじめた。大阪大学に合格し、初めての授業。キャンパスへ続く、通称“阪大坂”を登っている途中に、人生の第二章がスタートするのだと、身震いしたそうだ。

高橋「阪大坂を登りながら、これまでの人生と、これからの人生について考えていました。これまでは、いってみれば、思考停止の時期。人生について何も考えず、レールの上を歩いてきました。

しかし、この坂を登りきった上には、人生の第二章が待っている。狭いコミュニティから抜け出し、自分の思った通りに、やりたいことがなんでもできる。——そう考えたら、過去に感じたことのない感情に支配されました。身震いするほど、ワクワクしたのです」

高橋は大学入学後、海外留学、セミナー、プログラミング勉強、イベント参加、短期インターン…と、やりたいことに手当たり次第挑戦した。その中でも、彼の心を掴んだのが「事業づくり」だった。Facebookで気になるイベントを検索しては、大阪を飛び出し、東京へ月に一度のペースで通っていたという。

高橋「大阪を飛び出すと、同世代で注目を浴びるアスリートや起業家が、想像以上に多いことを知りました。同世代の活躍を見て、かっこいいなと思いましたね。自分も彼らに負けたくないなと、強く感じました」

同世代の活躍は、高橋の「好奇心と負けず嫌い」に火をつけた。意欲的に行動している同世代を目の当たりにして悔しさを感じたこともあったが、「自分にもできるはず」という自信もあった。

人を紹介してもらったり、インターンに参加したり、次第に毎日が活動的になっていく。そうした日々の中で、大きな転機が訪れた。投資家の前田ヒロ氏が登壇するイベントだった。

「ヒップスター(デザイナー)とハスラー(マーケター)、そしてハッカー(エンジニア)がいれば、スタートアップがつくれる。世界を見渡せば、若い人が立ち上げたスタートアップが世の中に価値を創出している」——前田氏の話を聞き、直感的に「これは自分がやりたかったことだ」と確信した。

高橋「やりたいことを一通り体験した後、私がフォーカスしたのは事業づくりでした。事業づくりの成功は、努力が大きな変数になります。生まれ持ったルックスや才能に、結果が左右されません。

当時を振り返ってみると、事業を立ち上げるに至った根源には、コンプレックスが多少はあったと思います。勉強もそこそこ、スポーツもそこそこで、抜群の成績を残し続けてきたわけでもない。だから、才能のある人たちがうらやましかったんでしょうね。

でも事業なら、本気になれば、才能に恵まれた彼らに勝てる。この精神は、尊敬するサッカー選手・本田圭佑さんから学んでいます。彼が出演している番組やインタビュー記事を読み漁っていて、結果を出すには諦めないことが何より大事だと知っていたのです」

本田圭佑は、2011年に「日本人は足も遅いし、身体も弱い。ウサギにどうやって勝つかっていうことを考えたときに、動き続けないと、進み続けないといけないんですよ。止まったらだめなんですよ。ウサギが休んでいるときに、カメが休んだらどうやって勝つんですか」という発言をしている。

この言葉に、「自分は凡人でも、動き続け、進み続ければ、天才に勝てるはずだ」と、勇気をもらったそうだ。

大学の図書館で、ホワイトボードに未来を書きなぐった

講演が終わると、高橋は早速動き出した。隣の席に座っていたエンジニアに声をかけ、サービスを作りを開始する。

立ち上げたサービスは、大阪市からシリコンバレーに派遣されるプログラムに選出され、現地の投資家に向けてピッチをするまでに至ったそうだ。

しかし、投資を受けることはできず、チームは解散。それから何度かチームを作り、事業化を試みるも、なかなかうまくいかなかった。

プロジェクトが解散し、次はどんなサービスを立ち上げようか検討していたところ、共同創業者の佐野に出会うことになる。佐野は大学の先輩で、既にサービスをローンチしていた。高橋は、彼がFacebookに投稿した「リリースのお知らせ」を見て、即座にメッセージを送る。

高橋「佐野が立ち上げたサービスは、企業の内定者と就活生をつなぐサービス『Co-mender』です。彼はサービスを広める仲間を探していて、私は一緒にビジネスをつくれるエンジニアを探していました。お互いのニーズが合致していましたし、シンプルに良いサービスだと感じたので、一緒にサービスを育てていくことになったのです」

現在展開する事業の前身となる「Co-mender」

とはいえ、ビジネス経験の浅い大学生が開発したサービス。ホワイトボードに描いた未来が、そうも簡単にやってくるわけがない。“日本版LinkedIn”はおろか、ユーザー数は全く伸びなかった。

そこで立ち上げたのが、学生向けメディア「co-media」だ。活躍する同世代のインタビューを導線に、co-menderのグロースを目指した。

メディアは反響があり、想像以上の数字を叩き出すことになる。TwitterやFacebookで記事がシェアされ、リアルタイムで数字が伸びていくGoogleアナリティクスを、佐野の自宅で眺めるのが楽しみだったという。

高橋「なんとかして収益を上げようと必死で、つくりたい世界を考える余裕もなかったと思います。co-mediaを見ていて感じたのは、『おもしろいことができそう』という、その一点でした」

現在主力事業となっているインターン求人プラットフォーム「InfrA」は、co-mediaを運営する過程で着想を得た事業だ。優秀だと評価される学生の多くが、長期インターンによって実力を伸ばしており、事実市場が拡大している最中だった。

「ここなら、戦える」——co-menderをクローズし、InfrAを立ち上げた。

欲求のベクトルは、個人から社会へ

サービスが徐々に成長し、メンバーも増え、これからさらにギアを上げていこうと決意したころ。高橋はふと、「自分にとっての幸せ」について考えた。

高橋「まだまだとはいえ、事業が軌道に乗ってきたころ、自分にとっての幸せについて真剣に考えてみました。起業する以前は、『お金持ちになりたい』『モテたい』といった個人的な欲求がありましたが、果たしてそれが実現したところで、幸せなのだろうかと。

想像したときに、途方も無い空虚な気持ちになりました。本当の意味で、自分は満たされないだろうなと。それよりも、社会を変える大きなことに必死になっている自分の方が、かっこいいし幸せそうだと感じたのです。

もちろんお金は大事ですから、綺麗事を言うつもりはありません。ただ、欲求が自分ごとの範囲では、尊敬している人たちと肩を並べることなどできないと思ったのです」

高橋をビジネスの世界に誘った承認欲求のベクトルが、個人から社会へとシフトしていった。夢ではなく志を持ち、社会課題を解決することで、日本にインパクトを与えたいと思うようになる。

高橋「私たちの親世代は、“Japan as Number One”と言われた時代を生きてきました。しかし、私たちはどうでしょうか。ハーバード大学教授のエズラ・ヴォーゲルが“日本の時代”を予言した1980年代の栄光から一転、新興国に置き去りにされていく時代に生きています。

責任感とは言いませんが、私たち世代がやるべきことがあるように感じたのです。もっと言えば、もう一度日本を浮上させるのは、自分がやるべきことの一つなのではないかと」

InfrAとco-mediaには、月に数十万人の学生が訪れる。これまで数千人の学生と企業をつなぎ、学生たちが成長していく姿を目の当たりにして、高橋は「若者の価値を最大化する」というビジョンを掲げた。

高橋「社会に提供できる価値を考えた結果、『若者の価値を最大化する』という使命を自分に与えました。というのも、日本の若者は、自分なりのキャリア観を持っている人が、先進諸国と比較して少ないのです。

教育制度の問題だと思いますが、日本では「決められた回答を素早く導き出す」ことが良しとされています。つまり、答えのない世界を、自分の頭で考えて生き抜いていく力が弱いのです。めまぐるしいスピードで変化していく現代は、変化に対応する力がなければ、生き残れない。以前、APU学長の出口治明さんにインタビューさせていただいた際も、『もっとも大事なのは、考える力です。考える力とは、適応力とも言い換えられます』とおっしゃっていました。

世の中には、HR領域でサービスを展開する会社がいくつもある。人材ビジネスは、キャッシュを生みやすい。高橋は「綺麗事を言うつもりはない。私たちも、事業ありきでHR領域に参入している」と語る。しかし彼は、長らく構造が変化していないことに違和感を感じているそうだ。

高橋「人材ビジネスの多くは、人材業界出身の方たちによってつくられています。一方私たちは、人材業界を知らない“よそ者”です。でも、だからこそ、既存市場の効率化に止まらず、大きな変革を生み出すプロダクトをつくれるのではないかと思っています」

高橋が5年前に描いた世界観は、当時なかなか評価されないものだった。しかし、少しずつ社会が追いついてきている。ユーザーが増え、売り上げが伸び、ようやく土台が整ってきたのだ。

社会を変えることに、人生を懸ける

InfrAは、今年サービスをリブランディングする。虎視眈々と勝機を待ち、ようやく大きなチャンスがやってきた。売り上げが立たなくても、仲間が辞めていっても、ブレずに貫き続けた世界が、社会が交わろうとしている。

高橋「正直、不安に感じることもありました。投資家はよく、『自分ごとからスタートする事業はつくるな。学生起業のあるあるだ』と言います。自分自身が、そうした目線で見られていることも知っています。

そういった意味で、僕の起業は、始め方としては起業の失敗例といえるかもしれません。『もっとマーケットドリブンに、手堅く売り上げをつくれるビジネスモデルにすればよかったのではないか』と考えることもありました。

ただ個人的には、すぐにコロコロと、まったく違う事業にピポットすることに、あまり美的センスを感じません。『頑固だ』という意見があるかもしれませんが、全ては結果で評価されると思っています。

僕は人生の中で、大きく掲げた目標を達成しなかったことが一度もありません。なので、自分自身を誰よりも信頼しています。自分は圧倒的に努力できる人間なので、やりきれる自信があるのです」

高橋が尊敬しているのは、事業家ではなく、起業家。その一人が、イーロン・マスクだ。

高橋「彼は、『1日1ドルでも生きられる』と発言しています。世の中を変えるか、そうでなければホームレスになる。——そのスタンスが好きなのです。リスクの少ない領域で売り上げをつくることに興味はなく、社会を変えることに、間違いなく人生を賭けている。まさに事業家と起業家の違いだと考えています。私も彼と同様に、起業家でありたいと思っています」

創業まもない頃、コワーキングスペースで事業を展開していた高橋(左)と佐野(右)

2019年は、Traimmuにとって「勝負の年」。「若者の価値を最大化する」という壮大なビジョンの達成に向け、大きな一歩を踏み出す。

高橋「さまざまな企業や起業家と接するなかで、『論語(倫理観)と算盤の掛け合わせが何よりも大事だ』と確信しました。壮大なビジョンだけがあっても、優れたビジネスモデルはつくれない。ただ、算盤だけのビジネスモデルは、続かない。この掛け合わせが何より大切。壮大なビジョンと優れたビジネスモデルがあってこそ、長期的に、そして大きなインパクトを社会に残せると考えています。

2019年、Traimmuは、新卒市場の“不”を解決し、新卒市場をアップデートしていきます。起業してから、今が一番優秀な仲間が集まっている。僕が一番ワクワクしているのです」

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「Keiji Takahashiができるんだから、自分にもできる」——いつか、後輩たちがそう思って、世界に向けてチャレンジしてくれたら嬉しいと思っています。

やはり目指すのであれば東証一部ではなくナスダック、 NYSEを目指さないといけないと思います。ソニーの創業者・盛田昭夫氏。彼は、戦後敗戦国となった日本が、経済大国として復活するまでを牽引した功労者です。彼らを見て「日本人だって、できるんだ」と、強く背中を押されました。

次は自分が、「日本人でも世界で戦える」と思えるロールモデルになりたい。日本人としてのアイデンティティを持ち、起業家として世の中に価値を提供し続けていきます。

◼︎ 株式会社Traimmuについて
会社ホームページ
・日本最大級の学生メディア「co-media
・長期インターンプラットフォーム「InfrA

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