銀色世界で漂う僕らは何を思う


 先日、GEMSCOMPANY公式から水科葵(通称:みずしー)の初ソロ曲「メロウ」が公開されました。ファンということもあって、初めて聞いた瞬間から曲の世界観に酔いしれ、強く胸を打たれました。


 最初に水中で泡が浮き上がるような音が入っていたりと水をイメージさせる曲だったからか、空と海の青をテーマにした「凪のあすから」という作品でやなぎなぎさんが歌っていたED曲を想起させられました。

 静かに曲が始まってからサビに向けて盛り上がり、2番ではアレンジが入り物語が進んでいくような構成、続くサビの後に静かなコーラスが入り再度ラスサビで上げてから語りかけるように締める。まるで波のような曲調で感情が揺さぶられる。

 自身で作詞したとあって端々に彼女の思いが伝わってきたので、つらつらと書いていこうと思います。「メロウ」を語る配信もあったことですし。



 配信で触れていたとおり、タイトルのメロウは”mellow=芳醇な、柔らかでなめらかな等”と”merrow=アイルランド英語での「人魚」”や音楽用語である”メロウ”から取っていたりと様々な解釈があり、彼女自身も聞く人によって色んな見方をしてほしいという事なので、放送の内容をかいつまみつつ、歌詞に独自の解釈も入れていこうと思います。自分用に書き出してた歌詞を共有のついでに張り出しときます。

”ゆらりゆらり漂いながら 変わらない毎日繰り返してる

ひとりぼっちにはなれっこだから 滲んだ声海にそっと伏せた

遠く霞みゆく視線の先に何が待ってるの?
どんな表情でどんな色をしているかな?

気づいてしまったよこの気持ち もう止められない

銀色世界広がっていく 触れたことのないぬくもりを感じている

響き渡れ歌声あなたのもとに
夢が紡ぐおとぎ話1ページめくり
はじまる「メロウ」

ゆらりゆらり流れながら 踊る姿に見惚れてる

ひとりぼっちの殻は捨てて 希望の先へ飛び込んでいこう

降りるはずのない雨に打たれて 溺れてしまうでも

魔法の言葉を思い出して唱えたら
未来へ溢れ出すこの気持ち もう止められない

銀色世界果てしなく続く この世界から限りなく愛を伝えるよ

泡となって溶けてしまうその前に
夢が紡ぐおとぎ話1ページ廻り
刻むよ「メロウ」

光の音 風を辿り 願い事の満ちる世界

響き渡れときめきあなたのもとに
夢が紡ぐおとぎ話1ページめくる
明日への「メロウ」”


・2つの世界


 ”人魚””ゆらりゆらり漂いながら””滲みゆく視線の先”という詩で水中から見た景色なんだろうなと想像がつく。そして自分の中から沸き立つ感情からその先を見たいと願う。そして広がる銀色世界。

 この銀色世界、私はワードから雪景色を想像し、真っ白な世界=知らない世界(新天地)で人魚姫が海から陸に上がった情景が浮かび、彼女が上京しこれから新しい世界で手探りながら進んでいこう、そんな姿を思い浮かべました。だからその世界(舞台)から私達の元へ歌を届けたい、夢を叶えたいという願いなのかなと。

  けれど配信で海そのものを指すとのこと。これを聞いた時、この曲の解釈が大きく広がったのを感じた。

 海のことを歌っているのであれば、人魚姫と恋した王子のような隔たれた関係ではなく、地続き(海続きと言うべきか?)で繋がっている一つの世界と見ることが出来る。実際ティザーのみずしーは脚こそあるものの、岩の上に座っているだけで陸に上がっているわけではないし。

 夢を持ち、それを目指して進んだ先に見えた世界はキラキラと輝いていた。それを私は上京した地のことだけを指すと思っていたけれど、今まで住んでいた故郷も同じように輝いて見えたのかもしれない。夢を選んだのは自分の選択だが、それに至るまで育ててくれた両親や友人があってこそ輝く世界を見れたという感謝の気持ちも含まれているのかも。”響き渡れあなたのもとに”の”あなた”とは、郷愁を感じて寂しくても繋がった一つの世界に住む恩人や家族にも届けようという思いもあるのではないだろうか。

 こう隔てた世界ではないと語った後で言うのもなんだが、曲の中で明確に分けられていると感じる部分がある。水中と海面だ。

 一番初めに記したように、水中から始まった物語だと思える。そしてその後に2度出てくる”ひとりぼっち”というワード。ここから連想できるのは暗く冷たい深海。”遠く滲みゆく視線”という詩にもあるように、希望という光を見つけなければ、自分の色や表情も見えないくらい深く沈んでいる姿を想像する。

 ”ひとりぼっちの殻は捨てて 希望の先へ飛び込んでいこう”はそんな深海から海面に向けて旅立つ決意。

 ”銀色世界広がっていく 触れたことのないぬくもりを感じている”は初めて海面に出て感じた空気。

 ”降りるはずのない雨に打たれて 溺れてしまう”は夢を目指したからこそぶつかった困難。

 希望の光とは誰かにもたらされ見つけた夢だと思うと、海面から見える世界もまた別の世界とも捉えることが出来る。そうして知った新しい世界が輝いていて、それは周りに支えられてこそ見えた感謝も含まれているのではないかと窺える。

 自分が今まで内に抱えてた感情をまっすぐ詩に乗せて歌ってる、そんな曲のように私は感じた。


・メロウ

 私は誰もが一作の物語を書けると思っている。それは人生という物語で、自分の人生とは自分という価値観を通してでしか描けることは出来ない。だから誰もがこの世界で唯一の作品が作れる。

 ”夢が紡ぐ おとぎ話”とはそういった誰もが持つ物語で、「メロウ」はみずしーにとってのその中にある一編なのだろう。そう思うと、この詩にある言葉はみずしーの価値観が見えて取れる。

 ひとりでいることが多かったから心の声は誰にも届かなかった。だから初めて自分の殻を破って出た世界は眩しく、自分を受け入れてくれた空気を温かく感じ、今まで出会わなかった困難に打ちのめされれも、力をくれた言葉に支えられてきた。光とは言葉や音楽であり、それに導かれたこの世界は光で満ちている。

 一つ気になったのが2番のサビで”廻る”と書いて”めぐる”と読む部分。めぐるという漢字で一般的なのは「巡る」。なので廻るの意味を調べたところ、「すみずみに届く」という意味があるようだ。水は容器に入れると均一に広がるように、この歌や水科葵、ひいてはGEMS COMPANYが世界中をすみずみまで巡って届いて欲しいという願いも込められているのかもしれない。

 そして「メロウ」の前につく単語を見てみると、”はじまる””刻む””明日への”からわかるように、この曲がはじまりであり、ここまでの軌跡を刻み、そしてこれが未来へ繋がる架け橋になると信じているのだろう。





 「メロウ」を紐解いていくと、光に導かれて太陽の下に出てきた彼女だったが、それでもどこか不安な部分があったり、一人では何も出来ないと感じている部分もあるように伝わってきた。私は作者目線で作品に感情移入し評する癖があるのだけれど(前述したように、人は自分の価値観を通してしか世界を見ることが出来ず、知ったような口をきくような言葉に聞こえたかもしれませんが、結局この文章も私という色眼鏡で彼女を見てるに過ぎないのですが)「メロウ」を聞いた時はまるで自分のもののように感じました。

 自分が沈んでる海の底から光を目指して明るいところに出てきても、その光そのものには届かない。だとすれば、絶対的に孤独である我々が何かを成すことに意味はあるのかと言われればNOだ。そうじゃなければここまで3000字程度の文字を綴ったりはしない。誰も同じではないから、文字を著したり歌を歌ったりすることに価値が出てくる。そういった”ひとりぼっち”な自分を認めたり”いつか泡となって消えてしまうその前”を見据えていたりする部分に共感してしまう。そして自分に光が降り注いだように、誰かにとっての光になりたい、そういった希望を感じる曲でした。

 長々と書いてしまいましたがここまで読んでくれてありがとうございました。今後益々のみずしーとGEMS COMPANYの活躍を願って締めさせていただきます。

 それでは。

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