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サステイナビリティ学とは?

私の専門はサステイナビリティ学。まだ新しい分野で発展途中であるということと、そもそもその視座が広いために毎回説明するのに苦労する。というわけで、一度ここにまとめて書いておこうと思う。

サステイナビリティ学は、持続可能性に関することであれば何でもその範囲に入る学際領域。気候変動、生物多様性、エネルギー、食料・保健、自然災害、人口、経済、都市化、技術革新、シェアリング、ライフスタイルなどなど、さまざまな研究テーマに取り組む人が集まっている。サステイナビリティ学は、研究テーマによって規定される分野ではなく、「サステイナビリティ・持続可能性」という概念で規定される分野である。

1. サステイナビリティの語源
抽象的かつ外国語で表現されている言葉の本来の意味を知るためには、語源に遡るといい。こういうときには、Etymology Dictionaryが便利。"サステイナビリティ(sustainability)"の語源は、ラテン語の"sustinere”で、その意味は"hold up, hold upright(持続する、支える)"。単語の後ろについている"-ity"は"condition or quality of being~(ある状態にある・質を保つこと)"の意なので、サステイナビリティは、「ある状態にあることを持続すること・支えること」という意味になる。サステイナビリティ学は英語では"Sustainability Science"と表記し、この後ろの"science"の部分が大事になる。この"science"は、いわゆる"科学"のことで、ここでは「体系化された知」としておきたい。

というわけで、語源的な意味からのサステイナビリティ学(Sustainability Science)は、「ものごとがある状態にあることを持続する・支えるために必要となる体系化された知を創る学問分野」ということになる。

2.「持続可能な開発」というキーコンセプト
どんな状態でもただそのままに持続すればいいのかというと、必ずしもそうではない。ある国がとても豊かだったとしても、その存在が何かの代償の上に(例えば地球温暖化)成り立っていたのでは、持続性可能性がない状態である。将来世代に同じ豊かさを保証できなければ、理想的な持続可能な状態とは言えない。つまり、サステイナビリティは世代間の関係性のことを言っている概念なのだ。単に地球環境と人間の営みが存続すればよいのではなく、時代と共に変容する価値観を捉えながら、現行世代と将来世代の両方にとっての豊かな生活が担保される必要がある。この内容は、当時ノルウェー首相だったブルットランドさんが委員長を務めた国連の「環境と開発に関する世界委員会」が1987年に公表した"Our Common Future"という報告書のなかで、「持続可能な開発」という概念で紹介されている。この報告書で定義された持続可能な開発とは、「将来の世代の欲求を満たしつつ,現在の世代の欲求も満足させるような開発」のことである。21世紀の社会をデザインするキーコンセプトのひとつになっており、地球環境が許容できる範囲で開発を進める、という国際的合意ができた。

3. 最先端の議論:自然科学的認識と社会科学的認識の共存
サステイナビリティ学分野での最先端の議論のひとつは「自然と人間の共生方法の探求」にある。ものの大量生産・消費・廃棄、化石燃料の大量消費、ボーダレスな流通の拡大などに代表される人間活動の拡大とそれを支える地球という生態系の環境収容能力(carrying capacity)のバランスを保つことが持続可能な社会の実現に向けて必要だ、という前提の議論。この視点に立つ研究では、社会生態系(Social-Ecological System)という概念が用いられ、世界を「自然と人間という2つの系が統合した1つの社会生態系」として理解し、その中の相互作用(interaction)を分析することで、全体の系(システム)として持続可能な状態を目指す。この概念では、自然も人間もネットワークとして捉えられ、その中の活動は定量化できるという理解になる。この点において自然科学的なアプローチであり、世界・リアリティは事実として存在するものがそこにあり、それは観測でき(observable)、測ることができる(measurable)、という理解である。

サステイナビリティ学分野でのもうひとつの最先端の議論は、「価値・豊かさの問い直し」である。社会生態系の概念を用いている研究の多くには、「自然と人間は持続可能な形で存在していくことが望ましい」という前提がある。しかし、地球という生態系の視点から見れば、人間はそのなかの1つの種でしかなく、ヒトの存続は地球という生態系の持続可能性とは別の話。この視点に立てば、どのような条件下でもヒトが存続できるような社会生態系の状態を持続したいのではなく、本質的には「人間が集合的に望ましいと考える価値・豊かさが体現化できる状態」を持続したい。国連が2015年に提唱した、2030年までに人間が達成すべき持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)には、人の日々の営みのなかで大事だとされる価値観が多く繁栄されている。例えば、貧困・飢餓の撲滅、健康、質の高い教育、ジェンダーの平等、働きがい、格差の解消、平和と公正。このいずれもが達成されない状態でも、持続可能な社会生態系の実現は可能である。けれど、そのような状態の社会は幸せではないだろう。では、人々が価値や豊かさを置く項目をどう理解するのか。世界・リアリティはそこに事実として存在するかもしれないが、それをどう理解するのかはその時代の人々の価値観によって左右され、どう解釈するかによって変わることになる。そういう意味で構成される意味を問う社会科学的なアプローチになる。

地球温暖化や食料・エネルギーの問題などを起点として、自然と人間の共生方法を探索する視点に立てば、サステイナビリティはとても自然科学的に分析され、社会生態系というシステムの健康状態を考えればいい。一方で、「何をサステイナブルにするのか?」という価値観・豊かさに関する本質的な問いがサステイナビリティという概念の中心にはある。これに働きかけるときには、人が日々の暮らしをより善く生きるためにはどうあればいいのだろうか、ということが含まれてくる。サステイナビリティ学の思考は、この「自然と人間の共生」と「価値観・豊かさの問い直し」の両輪から成る。

4. システム思考×価値・豊かさの問い直し×デザイン思考サステイナビリティ学の方法論
ここまででサステイナビリティ学の思考については整理できた。これらに対する方法論としては、社会生態系を理解するためのシステム思考とネットワーク分析、価値観・豊かさの問い直しについては、リベラル・アーツやクリティカル・リサーチなどのサステイナビリティ思考が当てはまる。これに加えて議論したことを、体現化していくための筋肉が必要であり、そのためにデザイン思考などのアクションを生み出す知識が重要となる。この3つをまとめたのが下の図。

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5. サステイナビリティ学の次の一歩
サステイナビリティ学は、これら3つの思考をダイナミックにかけ合わせたものを方法論として持っている。これを実際のひとつの研究プロジェクトでやるとすると、作業として膨大なものになってしまい、なかなか終わりが見えない。もっと大きな枠に当てはめたほうがよさそうだ。ということで、個人的にはサステイナビリティ学の方法論を軸に教育プログラムを設計するというような方法がいいのではないかと思っているところ。特にリベラル・アーツのようなジェネラリストを育てる高等教育との接続がよさそうだ。こんな流れを日本発信で作っていけると、国際的なサステイナビリティ学分野のなかによいプレゼンスが示せる予感がする。

ひとりのサステイナビリティ学研究者としては、どちらかというとサステイナビリティ思考の軸を重視している。それは、人々のライフスタイルをどう変えていくのか、ということがサステイナブルな社会を達成するために最も重要なことだと考えているからだ。だとすれば、そういう学びをデザインする方法として、トランスローカル論を位置付けていきたい。

とりあえずこのnoteにて、私なりのサステイナビリティ学の説明は一旦おしまい。



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ShogoKudo@UTokyo

サステイナビリティ学博士。縮小高齢化社会における持続可能性な地域づくりを研究テーマに、日本・南アフリカ・スウェーデンにて、ローカル・アントレプレナーを追いかけるフィールドワークを行いながら、お互いの地域の多様性から学び合う”トランスローカル論"の構築に取り組んでいます。

トランスローカル論:多様性からの学びのデザイン

トランスローカル論についてのnoteをまとめています。
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