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シネマスコーレと私

「シネマスコーレ」という名前の映画館をご存知ですか?名古屋駅西の太閤通口側にある、スクリーン数1、席数たった51の古くて小さな映画館です。

話は20年ほど前、私がいわゆる単館系映画に興味を持ち始めた頃まで遡ります。
シネマスコーレは当時すでに東海地方の映画好きにはよく知られていて、当時すでに足を踏み入れるのに少し勇気がいるほど古めかしい、そんな映画館でした。

その頃の名古屋のトレンドスポットと言えば、栄・大須・久屋大通セントラルパーク。名古屋駅にはまだJRゲートタワーどころかミッドランドスクエアやルーセントタワーの礎石すらなく、セントラルタワーズの一本柱いや二本柱?を軸にして周辺をどう盛り上げようかという時代です。
昔の名駅は老朽化した駅舎のそこかしこに寝そべるホームレスが社会問題になっていて、その裏手の西側ともなれば、真向かいの生活創庫(現ビックカメラの建物に昔入っていたデパート)の館内以外は女の子の一人歩きが敬遠されるほど世紀末的に殺伐とした雰囲気が漂っていたものです。
そんな埃っぽい通り沿いをまっすぐ進んだ交差点の角に、シネマスコーレはあります。


日曜日、かなり久しぶりにここで映画を観ました。最近話題の『カメラを止めるな!』です。
このタイトルの噂があちこちから聞こえ始めて徐々に興味が湧いて、観に行こうと決めた時にはもう、これはシネマスコーレで見るべき映画だと漠然と感じていました。
結果、やっぱりその通りでした!

シネマスコーレは、若松孝二さんという映画監督が開いた映画館なんだそうです。監督の作品はタイトル群を見ただけで目がチカチカするようなラインナップなので観賞したことはないのですが。

開館当時のオーナーは映画監督でもある若松孝二である。若松は「若い映画製作者が自分の思うような映画を作っても、現実的にメジャー作品を配給する映画館ではそれを上映することが難しい」と考え、場を提供することを目的として映画館を作りたいと思っており、当初は新宿で作る事を考えていたが、条件の合う土地やビルがなく断念せざるを得なかったところ、知人が保有する名古屋のビルを借りて1983年2月にオープンした。なお、スコーレはラテン語で「学校」を意味する。(Wikipediaより)

私はこの開館に至った監督の志とストーリーが好きです。この劇場でしか味わえない臨場感が好きです。正直、上映設備が良いとはとても言えない小さなスクリーンの鄙びたシアターですが、ここならではの映画体験を求めて昔は何度となく足を運んだものでした。シネマスコーレは私の青春の一時代と切り離せない場所だと言えます。
それから時を経て名駅周辺はぐんぐんと様変わりし、近隣には109シネマズやミッドランドスクエアシネマらが新しく構えられ、私自身の環境も目まぐるしく変わってゆき、もう何年も長らく駅西側からは足が遠退いていたのですが。
日曜日に久しぶりに太閤通口から交差点を渡って、変わらないようで変わってしまった風景の中に相変わらず台湾屋台の潘さんの店(おいしいよ!)があって、スクリーンはやっぱり今も小さくて、しかも想定外の立ち見チケットで狭いシアター内はちょっとぎゅうぎゅうしていて、その上まさかの夕立にも降られちゃったし、でも、でもやっぱり大満足でした!!


***


未鑑賞の方に障らない程度に、少しだけ映画の話をします。
『カメラを止めるな!』は、非常に疾走感のある作品で、私なりにカテゴライズするなら、サスペンスホラーを題材にした青春群像劇です。
でも、既に世に多く出回っているような「サスペンスホラーの舞台で青春模様が絡み合う映画」とはまったく異なります。サスペンスホラーを題材にした、青春群像劇なんです。説明終わり。


ひとつご紹介したいTweetがあります。

スミマセン、こちらの方を存じ上げないので無断拝借になってしまいますが、「夢を追う全ての人に読んで欲しい」というお言葉に甘えて。


志を持って何かを形作ろうとしたとき、何者かになろうとしたとき、情熱を注ぎ込める何かを見つけたとき。最初に志した通りの寸法でそれを体現するには、幾つものハードルがあります。
その過程で、多くの人は最初の設計図から何度も線を引き直して調整して、またはサイズを縮小して自分に運べる大きさにして、または面影を残した別の形に作り変えることで手に収まるようにして、それとも最初の形に執着するあまり手放してしまったりして、そのハードルに激しく打ちのめされます。設計図が細部に届けば届くほど、叶えるための過程で原型が変貌していく現実と対峙しなければならないやるせなさは、どんな形であれ誰もが経験しているのではないかと思います。
そしてほんの一握りの、ぶつかってもぶつかっても跳び続ける人。スイスイと飛び越せる人ではなく、いつ越えられるとも何も約束されていない初志のハードルに果敢にチャレンジし続ける人。そんな一見強く思える人にも、怖くて苦しくて眠れない夜があることでしょう。
その、誰もが味わった暗澹たる思いが、ほんのひと時でも夢に報われたら。ほんのひと時、夢の設計図が具現化したら。それがまた明日の設計図を引く力に変わる。
シネマスコーレはまた新たな切り口で、夢持つ者の生きる喜びを私に教えてくれました。この映画は、そんな映画だと思います。

未鑑賞でこの記事を読んで下さった方には、鑑賞後に是非もう一度読み直して頂けたら、この文から紐付く景色を見つけてくれたら、とても嬉しいです。

***


この日のシネマスコーレはとてもよく賑わっていて、昔、何かの作品で主演俳優が舞台挨拶に来ていた日の次くらいに(個人的記憶)たくさんの人が集まっていました。
昔ながらのアナログシステムなので上映の4時間以上前に入場整理券を貰いに行ったのに、まさかの立ち見確定&完売スレスレの70番台!整理券を受け取りながら、自分の計算の甘さとブームの空前絶後感を噛み締めました。

ちなみにちなみに。空いた4時間はこちらを鑑賞しておりましたが、こちらも予想以上に「最高かよ!」でした。(耳は付けて歩いてません)
この時はじめてジャッキーの造形の母であるあだちなみさんと自分が同郷と知って、ささやかな共通点にも心踊りました。
本当にこのお盆休み、ホクホクしかない。
しあわせだぁ!!!

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