Day 19 A song that makes me think about life（人生について考えさせられる曲）


〇運命の人/スピッツ


突然の名曲ですみませんね。スピッツ、そういえばまだ挙げてなかった。あまりひとつのアーティストの曲をたくさん聴くタイプではないわたしですが、スピッツはよく聴いているほうだと思います。小さいころから親しんできた音だからなのか、聴くと安心するんですよね。大人になったらスピッツの難解な歌詞の意味も少しはわかるようになるかなと思っていたけどそんなことはなく、いまだに解釈の幅を揺らぎながら揺蕩いながら、スピッツという音楽性の中を旅しています。

曲の話の前にスピッツの話になっちゃうんですけど、まずこれがロックバンドっていうのがすごいんだな。え、スピッツってロックバンドなんですか？ という感じだったわたしも、ようやくこれをロックと解することの奥深さがわかるようになってきました。全然うるさくないですよね。そりゃクラシックに比べたらうるさいかもしれないけれど、わたしたちが通常ロックミュージックと解しているものの中では格段に静かです。落ち着いている。落ち着いたロックもありじゃないですか。むしろそういうのこそロックというか、ロック内ロックというか。ロックミュージックという枠組みすらも壊している感じがして、最強にロックです。ロックのゲシュタルト崩壊。

「元気に生きていこう！」より「ふわっと死んでいこう！」がいい、というインタビューがあることを知ったときの衝撃。何それ、と思いつつ、抗えないものを感じましたね。子どおの頃には、死ぬことが怖いとか嫌だなんて思ったことがなかったのに、20歳を過ぎたくらいからでしょうか、急に死にたくないとか、これを終わりたくないという気持ちが出てくるようになりました。宗教の始まりです。どうやったらこの怖さを乗り越えられるだろう？と考えた時、そうだ、ふわっと死んでいこう、ならなんか解決してくれるんじゃないかという気がするんですよ。わたしが死ぬときにはスピッツを大音量でかけて、それもフェードアウトで終わる曲ばかりをかけて見送ってほしいと、ちゃんと子孫に伝えておかなくてはな。

頑張って元気に生きよう、人生は素晴らしい、というメッセージが必要な時も人生にはあると思うんです。それはそれでいい。でも、本当に追い詰められた時に必要なのは案外、「ふわっと死んでいこう！」なんじゃないかと思うんですよね。ガーンと衝撃的に痛い思いして死ぬんじゃなくて、ふわっと眠るようにいけたら最高じゃないですか。ポップスが歌わない、そしてほかのロックシンガーたちもわりと元気に生きていこうを歌いがちな中、スピッツがこの路線を歌い続けてくれることが、本当に救いです。

ぼんやりと茫漠として、いったい何が言いたいの？ という謎めいた歌詞とメロディーラインは、そんな風に生の輪郭を曖昧にして、みんながふわっと死んでいけるように見守っているのかもしれません。そう考えると、なんかありがたい気持ちになってきます。茫漠とした歌詞もなんか神秘的に聞こえてくる。全然何を歌っているかわからなくても、許せるような気がしてきませんか。

茫漠としているのはこの名曲「運命の人」でも変わりなく、まず最初から「バスの揺れ方で人生の意味がわかった日曜日」なんですもんね。は？ という感じでございましょう。難しく考えれば考えるほど意味がわからない。バスの揺れ方は一体こいつに何を教えたのだろう？ どんな揺れ方だったのだろう？ なぜ日曜日なのだ？ 人生の意味って何だったのだ？ 「でもさ君は運命の人だから」の「でも」って一体どこにかかる逆接なのだ？ でもぼんやりしているとなぜか、この歌詞がすっと頭に入ってくる。ああなるほどね、そういう日曜日だったのね、と。受け流すというか聞き流すというか、とにかく頭の柔らかい部分に、ぼんやりしてガードが緩くなっているうちにそのまんま入れちゃったほうが調子がいいみたいです。学生の頃にはスピッツのことを、「ここまで意味がわからないと逆にアート」とか言ってましたが、逆も何もない、これこそがアートなのです。そしてアートを楽しく鑑賞するコツは、まず深く考えないで入れちゃうこと。感じることなんですね。

個人的に「二人で見つけよう 神様」というフレーズにはこれ以上ない救いを感じます。やっぱりスピッツからは宗教とか解脱とかそういうものを感じる。ゴミできらめく世界が僕たちを拒んでもスピッツだけはそばで笑っていてくれる気がする。変な下着に夢がはじけて叩きあって笑う時みたいに、明るく能天気に。


この曲について、スピッツの歌詞たちについては書きたいことがありすぎるので、また別にエントリを作って書くかもしれません。