見出し画像

大根おろしで筍のアク抜き

タケノコは春を代表する食材。

よほど新鮮なものならともかく、筍はそのままでは食べることができません。独特の アクがあるからです。筍に含まれるアクの正体はホモゲンチジン酸。里芋にも含まれ ている成分ですが、量が多いのでこれをなんとかする必要があります。

このホモゲンチジン酸。採れたてであれば量はさほどでもないので、そのまま茹でる、あるいは焼いてもおいしく食べられるのですが、収穫してから時間が経つにつれて酵素によってホモゲンチジン酸は増えていきます。タケノコの下茹での目的はあく抜きよりも加熱によってまずこの酵素を失活させ、アクが増えるのを防ぐという意味がまず第一。筍は掘る前に湯を沸かせ、という格言にはやはり従うべきなのです。

さて、収穫後に時間が経ってしまってホモゲンチジン酸が多く生成されてしまったタケノコはどのようにすれば食べられるでしょうか。

このホモゲンチジン酸、水に溶けやすい性質があるため、基本的には大量の水で茹でるだけで濃度を薄めることができます。もしも、それでも苦いようだったらアルカリ性の湯で茹でるとタケノコの硬い組織が軟化され、結果としてより多くのアクが抜けるので、重曹を入れて茹でればよりアクが少なく感じられるはずです。問題はアルカリ性が強すぎるとタケノコが変色してしまう可能性があること。市販のタケノコの水煮は変色を防ぐためになんらかのph調整剤で酸性にしてあります。重曹の入れすぎには注意しましょう。

さて、一般的なあく抜きは米のとぎ汁や糠と一緒に茹でる方法が広く知られています。それにはどのような意味があるのでしょう? 昔から言われている説では米のとぎ汁や糠を入れることで、湯に澱粉が溶け、このコロイド状になった澱粉がアクを吸着する、と言われています。先行研究を調べると結果にはばらつきがあり、茹でる前と茹でた後ではえぐみの量自体は変わらず、米ぬかの味でアクを感じにくくなるだけ、という話もありますし、米ぬかを使ったほうがタケノコの自体に含まれるシュウ酸の量が半分になった、という結果もあります。どうしてこんな風なばらつきが生まれるのか? それは米ぬか自体にアクを抜く力はなく、アクをタケノコに戻さない、という効果があるから(仮説)でしょう。

そもそも市販のタケノコの水煮の製造工程は採れたてのたけのこを茹でる、だけです。(ph調整などはその後)つまり、米のとぎ汁や糠は必ずしも必要ではない、ということ。ちなみに赤とうがらしもよく入れることがありますが、効果のほどは不確かです。辛味でエグみを感じにくくする、という推測もありますが「入れる意味はない」と言い切ってしまっていいかと思います。

さて、教科書通りの復習はここまでにしておいて、今日は新しい筍のあく抜き方法を 試してみました。西麻布の日本料理店、分とく山の野崎料理長が考案したとされる 「大根おろしを使ってあくを抜く」という方法です。

この方法は筍を長時間茹でないため、旨味と風味の流出が極端に少ないのが特徴。

まずは大根をおろします。よく洗えば皮付きのままでOKです。3分の1くらいおろし ました。
さらしなどで絞ります。

200ccの大根おろしの汁が抽出できました。倍量の水(200cc)で希釈し、適当な大 きさに切った筍を浸けます。

筍は皮を剥き、料理に使う大きさに切っておきます。

塩、小さじ1弱を加えます。塩を加える事で筍のアクが出やすくなる、とのこと。理由は不明ですが、大根おろし液の濃度を高めることでタケノコの内部から水分を引き出し、結果としてアクを希釈する効果があると思われます。

このまま1時間~2時間置きます。これだけでアクはかなり抜けます。鮮度が良ければ薄切りにしたタケノコをこの大根おろし液に浸けるだけで刺身として提供できます。(かすかなエグミがまだあるので、さらに丁寧にやるのであれば大根おろし液を変えて、もう一度1時間ほど漬けこみます)

料理に使うなら浸けたものを1分~2分ほど茹でます。加熱によってアクはさらに薄まります。通常の米ぬかやとぎ汁を使った加熱だと1時間はかかりますが、このやり方だとせいぜい数分で大丈夫。炊き込みごはんなら下茹でなしで直接炊きこんでしまってください。また酒を入れて直煮(下茹でなしで直接煮ていくこと)にしても筍は絶品で す。その場合は多めの酒と出汁で静かに煮て、串がささるくらいにやわらかくなったら、仕上がりに薄口醤油を少しだけ垂らせば出来上がりです。

試しにフライパンで焼いてみましょう。太白ごま油を敷いたフライパンでこんがりと焼 きます。

焦げ目がついたら火を一度、止めて酒大さじ2を加えます。筍は酒飲みというほどお 酒と相性がいいのです。

醤油大さじ2とみりん大さじ2をあわせたものを加え、強火で軽く煮詰めます。

たれが絡めば出来上がりです。山椒をのせました。春のハーブである葉山椒は今が一 番美味しい時期、もっとたくさん載せてもおいしいでしょう。茹でる湯を用意しなくていいのが最大のメリット。

「なぜ大根おろしでタケノコのアクが抜けるのか」は僕にはよくわかりません。しかし、現実としてアクは少し抜けるようです。インターネットで検索すると大根おろしのアルカリ性がホモゲンチジン酸を中和するといった説明がありましたが、大根おろしはもちろんほぼ中性です。

また別のページではあるテレビ番組で「大根おろしに含まれるパーオキシダーゼがホモゲンチジン酸を消す」と説明がされていました。ペルオキシダーゼは過酸化水素を基質とするもので漂白作用などはあると思いますが、アクとの関係性はよくわかりません。ホモゲンチジン酸がどのように分解され、そして分解された結果、どのような成分になってアクを感じなくなるのか? そもそもタケノコの内側のアクは細胞壁を壊さないと溶出しないはず。薄切りというのにポイントがあるのかもしれません。ひょっとすると大根おろしに意味があるわけではなく、タケノコの水分よりも濃い液体にさらすことのほうが重要なのではないか、とか……ちゃんとした説明があればどなたかご教授ください。

撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!