塩の味はみんな同じは本当か?

昨日はピースオブケイク本社でイベントに登壇しました。関係者、及びご来場者の方にまず感謝を。

イベントタイトルはマガジンハウスより1月17日に刊行される『新しい料理の教科書』の発売にちなんで『新しい料理の考えかた』でした。POC代表の加藤さんとの対談した内容については別途、記事になるようなので、その時はまたご報告しますね。

さて、今回のテーマはちょっとこの本とは関係のない内容でして、会場では来場者の方に協力していただいた簡単な実験についてのnoteです。

塩の味はみんな同じは本当か?

塩味は5つある基本的な味覚のひとつ。(他の4つの基本味は苦味、酸味、甘味、うま味)また、塩にはそれ自体の味のほかに『食材の風味を引き立てる』という力もあり、料理には欠かせないものです。スーパーや百貨店に行くと多種多様な塩が置かれていますが、Nacl99%の精製塩は料理に使いたくないという方も多いのではないでしょうか。

よく『料理によって塩を使い分けましょう』と聞きます。例えば「精製塩はまずいので、肉料理には岩塩、魚料理には海の塩を使うとよい」という意見がありますが、これが僕にはずっと疑問でした。鉱物として産する岩塩は純度が高く、ほとんどが精製塩と同じNacl99%です。一体、どのような違いがあるのでしょうか?

この答えのヒントになるのはピッツバーグ大学の名誉化学教授ロバート・ウォルクの『塩の味はみんな同じ。味が違うとすれば結晶の大きさや形の違いだけ』という指摘です。ウォルクがワシントン・ポストに書いたコラムはバードグリーン賞やフードジャーナリスト協会賞など多くの評価を得ました。

塩の味の感じ方が違うのは、塩の形状によるものである。精製された食塩のほうが塩辛いという人がいるが、食卓塩の小さくて密度が高い結晶は、ゆっくりと溶ける立方体の結晶よりも塩辛さが早く押し寄せてくる

とウォルクは指摘し、また「ミネラル分が味に与える影響は?」という疑問に対しては

例えば100ccの液体に1gの塩で味付けをしてみよう。その場合の塩分濃度は1%だ。塩化ナトリウムを除いたミネラル分の濃度はさらに低い。たとえ人間の舌がわずかなミネラルの違い──例えばミネラルウォーターの味の違いがわかったとしても、料理における塩の希少係数はおよそ五万倍になるので、微妙な風味の違いが影響を与えることはない。

と説明しています。参考のために調理科学の虎の巻「マギーキッチンサイエンス」も確認してみましょう

未精製海水塩は不純物として有機物や無機物を含むので、精製塩よりも複雑な風味をもつこともあるが、塩を加える食材の風味でわからなくなる程度である。

つまり、塩の味はみんな──溶かしてしまえば──みんな一緒という結論です。日本の研究にも目を向けてみましょう。『各種食塩の調理に及ぼす影響』(松本仲子他)では「精製塩」「並塩」「漬物塩」「赤穂の天塩」を選び、官能検査を行っていますが有意な差は出ず、評価が良好だったのも自然塩ではなく、精製塩でした。

しかし

こうした話を受けて「塩の味はみんな一緒だ」と考えることは科学的な態度ではありません。不特定多数の方が来場されるイベントの参加者にご協力いただき、実験して確かめることにしました。

用意したサンプルは三種類。4Lの水(国産ミネラルウォーター)に昆布40gを入れ、常温で3時間置いた昆布だしを用意しました。塩は精製塩、フルール・ド・セル、沖縄の雪塩を選びました。

水ではなく昆布だしにしたのはハロルドマギーの塩に含まれる風味は『塩を加える食材の風味でわからなくなる』という指摘を確かめるためです。

沖縄の雪塩は特殊な塩でパウダー状なのが特徴。味も特徴的(ウォルクの主張とは異なりますが、僕はそう感じます)なので、サンプルに入れました。藻塩のような明らかに不純物が混ざった塩ではないのですが、ミネラル分の多い塩です。

塩分濃度はすべて0.8%に統一。昆布だしにはすでに0.2%ほどの塩分が含まれているため、1Lの昆布だしに6gの塩を加えて溶かすと0.8%の液体になります。また、フルール・ド・セルは7gの塩が、雪塩は(形状が細かいので)12gの塩が必要でした。

実験デザインとしては最初に精製塩を溶かした昆布だしを飲んでもらい、次にABCの三種類のそれぞれ違う塩を溶かした液体をテイスティングしてもらい、最初に飲んだものと同じ味のものはなにか、を答えてもらう、いわゆるデュオトリオメソッドを採用しました。二重盲検で行うために、僕は参加していません。

Aは精製塩を溶かしたもの、Bはフルール・ド・セルを溶かしたもの、Cは沖縄の雪塩です。

もちろん簡易的な実験なので、本気にはしないでください。こうした官能検査は本来、ブースで仕切り、相談させないようにして行うものなのです。とはいえ、さすがにnoteユーザーは真面目な方が多く、真剣に味わってくれたと思います。結果は……

Aと答えた人  12人
Bと答えた人  13人
Cと答えた人   3人

でした。この実験から言えることは『精製塩とフルール・ド・セルの味の違いは溶かせばわからない』ということです。

やはり、塩の味は形状によって異なるので、フライドポテトや焼き上げた肉などに振りかける塩は(マルドンソルトやフルールドセルのような)結晶の形の大きい塩を使うと味の違いを強調できる。パスタを茹でるときやスープの味付けなどには高価な塩を使う必要性はないようです。

また『特徴的な沖縄の雪塩は精製塩ではない、と判断されたことから塩の味が一緒という話には例外もある』ということも言えるか、と思います。

以下は余談ですが、ただ一点だけ、面白かったのは自分も味見をした印象ではCは『昆布だしの味が薄く』感じられたのです。考えられる理由は雪塩にマグネシウムが多く含まれていること。ハロルドマギーはマグネシウムとカルシウムは他の食品に含まれるナトリウム塩を分離する働きがあり『塩の味をより塩らしくする』と言っているのですが、どうもこのあたりが関係していそうです。

いずれにせよ、結論を出すのはまだ尚早の感があります。料理の世界は深く、深遠です。これからも探索を続けていきます。

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