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牛肉のブイヨンをつくりながら、肉の加熱温度を理解する

圧力鍋でつくるチキンストックの作り方をご紹介しましたが、今回はビーフブイヨンです。通常のビーフブイヨンをつくる時には香味野菜なども入れますが、今回は牛肉の味を活かしたシンプルな仕上がりを目指します。
さて、今日は肉の加熱温度の原理を知るために簡単な実験からはじめます。

肉の切り身を二つ用意しました。

それぞれA、Bとし、同じ重さにします。(もちろん同じ筋繊維の入り方はありえませんので厳密には同じ部位ではありませんが、隣接する部位を使用することで条件を極力揃えています)

このA、Bを湯の中で20分、加熱します。切り身Aは100度。

切り身Bは80度で加熱した後の重量の変化を観察しました。

Aは100度で加熱した結果、重量は31g。つまり、加熱によって12gの水分が肉からゆで汁に流出したということです。

80度で加熱した切り身Bの重量は40g。つまり、失われた水分は3gとはっきりとした違いがでました。
肉のタンパク質は加熱によって収縮をはじめるので、加熱する温度が高いと筋 肉が収縮して、スポンジを絞るように水分が流出していきます。

80度で加熱した肉は柔らかくジューシー。手でほぐせるほどです。100度で加熱した 肉はゴムのように硬くなりました。肉に赤身が残っていることがうまく加熱された証 拠。肉の酵素が働いて軟らかく味もよくなる温度帯ではミオグロビン色素が変色しにくいのです。この加熱温度による違いを頭に入れると、スープをとるための加熱方法と肉そのものを食べる煮込み料理では加熱のアプローチが異なることが理解できると思います。

牛のブイヨン
 牛肉(今回は肩ロースを使用) 1kg
 水 2L
 トマトペースト 大さじ1
  玉ねぎ 1個

さきほど肉は低温で加熱したほうが水分の流出が少なく柔らかい、という説明をしま
したが、逆に高温で加熱することで効率よくスープをとることができる、ということがわかります。

今回も圧力鍋をつかいます。120度まで加熱できる圧力鍋を使うことで、通常の鍋では3時間かかる時間を1時間に短縮することができ、肉から徹底的にエキスを絞り出すことができます。

肉は一口大に切っておきます。小さくすることで成分の抽出が早くなります。今日は アメリカ産の牛肩ロース肉ステーキ用がスーパーで安価に売られていたので使用しましたが、ゼラチン質の多いすね肉などを使ったほうが味が濃いものが抽出できます。もっと、安価な材料としては牛のひき肉があります。ただ、黒毛和牛はストックづくりにはあまり向かないようです。ホルスタイン種の方がうま味が濃いというデータもあります。

まずはオイルを小さじ1入れたフライパンで表面を焼きます。火加減は強火。肉を加熱することによってえられるメイラード反応は、スープに風味を与えてくれます。肉は何度かにわけて焼くことで、まんべんなく焦げ目をつけていきます。

トマトペーストもわすれず一緒に焼いてしまいましょう。

焼いた肉を圧力鍋に移します。

スープに色と風味をつけるために半分に切った玉ねぎを焦がしました。写真はテフロン加工 フライパンを使っていますが、テフロン加工のフライパンは高温での加熱に弱く、樹脂が剥がれてしまうので、アルミホイルを敷いた鉄のフライパ ンや鉄板の上で加熱するのがいいでしょう。ちなみにレシピに記載した分量は玉ねぎ1個になっ ていますが、小さかったので2つ入れました。

さきほどの鍋に焼いたタマネギ、水2lを加え、強火にかけます。

表面にアクが浮いてくるのですくいとります。

蓋をして、圧力がかかったら弱火に落として一時間煮ます。

1時間、加熱したものがこちら。表面に油が浮いていますが、冷蔵庫で冷やすと固ま るので簡単にとりのぞけます。さらしをつかって漉しましょう。これで1.8Lのブイヨ ンがとれました。非常に純粋なブイヨンです。

また、透明度が非常に高いことがわかります。これも圧力鍋を使う利点のひとつ。た だし、通常スープストックをとったあとの牛肉は他の料理に活用しますが、圧力鍋を 使うとエキスがほとんど出てしまうため使っても美味しくありません。

このビーフブイヨンは非常にさっぱりとしています。それは骨が入っていないから。牛骨は入手が困難なので、ゼラチンをいれるのが簡単です。ゼラチンには豚由来のものと牛由来のものがありますが、森永から販売されている森永クックゼラチンは牛骨から抽出されたゼラチンで、二袋(10g)ほど入れるとコク味を簡単につけることができます。

さて、このブイヨン、およそ2lに対して約2000円の原価がかかっています。
野菜の薄切りなどを入れて一人前200ccの野菜スープとして提供する場合、原価はお よそ250円。原価率を三割に設定すると750~800円になります。はたして野菜スー プにこの値段を出すお客様がいるか、と考えると既成品のブイヨンキューブがいかに 安価か、わかりますし、もう少し原価を抑えたければ前述したように牛のひき 肉をつかってスープをとる方法もあります。ただし、ひき肉を使った場合は臭みを消 すためにブーケガルニを加えるなどの対策をとる必要があるかもしれません。

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樋口直哉(TravelingFoodLab.)

樋口直哉 作家・料理家 主な著作として小説『スープの国のお姫様』(小学館)ノンフィクション『おいしいものには理由がある』(角川書店)など。新刊『新しい料理の教科書』が1/17日に発売されました!

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