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低温で24時間加熱すると豚の肩ロースも柔らかくできます

豚の肩ロースはなかなか難しい肉です。というのも動物がよく動かす部位なので筋肉が発達しています。ということは味が濃い反面、コラーゲンが多く、加熱すると硬くなりがちということ。その弱点を補うために薄切りにすることが多い(生姜焼きにするとおいしい部位です)わけですが、この部位を軟らかいステーキにできたら経済的。

肉のタンパク質にはおおまかにいってミオシンとアクチンの二種類が調理に大きく関 わっており、そして肉の硬さはコラーゲンの量によって決まります。。(参考『鶏のブレゼをマスターして、肉料理の科学を理解する』)

問題はタンパク質の変性温度よりもコラーゲンが分解する温度が高いということ。それぞれPhや時間によっても変わりますが、

ミオシンは50度~60度
アクチンは66度~73度
コラーゲン(例えばV型)は68度以上

の加熱によって変性します。コラーゲンを分解させようとするとアクチンが変性して しまい、その結果筋肉繊維から水分が押し出され、肉が硬くなってしまうというわけ。

ただし、コラーゲンは時間さえかければ温度が多少低くても分解します。低温で長時 間加熱するプライムリブという料理はその代表。

豚肩ロース肉をジップロックなどのチャック付きビニール袋に入れ、湯煎器やスチームコンベクションオーブンなど温度管理ができる調理器具に入れます。写真は真空包装機にかけてますが、ジップロックでも問題ありません。

加熱する温度は60度で、24時間加熱します。高いほうがコラーゲンは早く分解しますが、アクチンを変性させたくないのでやや低めの温度を使います。

Anovaなどの恒温湯煎器が安価になったおかげで温度管理はずっと容易になりました。今では各社から様々な製品が販売されるようになりましたね。

さて、24時間経ったのがこの状態。24時間経ったのでとりだし、氷水に浸けて冷やします。固まりのまま火を通し、冷 やしてからカットしたほうが断面がきれいです。

断面はこんな感じ。赤身の部分はきれいなロゼ色に火が通っています が、白身部分は煮込み料理のような柔らかさです。例えばこの状態で一人前のポーションごとの真空にかけ、冷蔵庫で保存します。提供する直前にまた湯煎で温めて、提供すればいいのです。その際のお湯の温度は55度〜59℃、60℃を超したら違う料理になってしまいます。

塩、胡椒をして、表面を焼き付けます。表面を香ばしく焼き付けることで風味化合物 が生成されます。この香りは唾液の分泌を促し、肉をさらにジューシーに感じさせます。実はこの調理法、ジューシーさには若干欠けるので、このようなテクニックで補う必要があります。

非常に軟らかく、煮込みとステーキの中間のような存在の調理法です。ジューシーさを補うにはソースも必要ですね。

24時間はやり過ぎ、という方は8時間~10時間でもそれなりに柔らかい食感は味わえます。しかし、やはり24時間かけたものとは状態がやや異なり、筋の食感を感じることがあります。ちなみにmodernist cuisineの本では牛肉の筋の多い部位を72時間加熱する料理も紹介されています。

厚生労働省の豚の食肉基準では「豚の食肉の中心部の温度を63°Cで30分間以上加熱するかこれと同等以上」とされているから60℃は危険なのでは、という心配される方が時々いますが、大事なのは後ろの「これと同等以上」の部分です。60℃で長時間加熱することで、63℃30分以上にパスチャライズされているのでご心配なきよう。低温調理の安全性についてはこちらの記事を参考にしてください。

低温調理における安全性、リスクとどう向き合うか(その1)
低温調理における安全性、リスクとどう向き合うか(その2)

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