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市販の固形ブイヨンを比較

先日、スーパーを歩いていると調味料コーナーで固形ブイヨンの類が並んでいました。たくさんの種類がありますが、きちんと比較したことがなかったので、今日は固形ブイヨンについて考えてみます。

とりあえず近所のスーパーで手に入った固形ブイヨンと固形コンソメを並べてみました。本来、コンソメはブイヨンをベースにひき肉と野菜、卵白などを加えて 加熱し、透明に澄ませたものを指しますが、日本で市販されている固形コンソメの類は洋風だしくらいのニュアンスで受け取っておいたほうが良さそうです。
それでは比較です。箱の指示に従い、すべてキューブ1個につき300ccのお湯で溶き ました。

まずはオーネの『チキンブイヨン』 洋風だしとパッケージにあるように、わりあいさっぱりとした旨味控えめの味です。舌にやや残る感じはするものの色も薄く使いやすそうです。化学調味料は無添加だそう。ちょっと塩っぱいかな。食塩相当量は2.7g。
【原材料名】 食塩、チキンエキス、澱粉、デキストリン、砂糖、蛋白加水分解物、豚コラーゲン、 酵母エキス、玉ねぎ、粉末醤油、乳糖、香辛料、(原材料の一部に小麦を含む)

次は ネスレの『マギーブイヨン』
やや溶けづらいという印象です。まず感じるのは醤油の味。原材料表記の3番目に粉末しょうゆとあるのも頷けます。溶かすと牛脂が表面に浮き、特有のコクがあります。手に入りやすいのが最大の長所。食塩相当量は2.3g。
【原材料名】
食塩、砂糖、粉末しょうゆ(大豆小麦を含む)、デキストリン、牛脂、でん粉(小 麦)、酵母エキス、たまねぎ、にんにく、パーム油、調味料(アミノ酸等)、カラメ ル色素、クエン酸、香辛料抽出物、香料、酸化防止剤(ビタミンE)

次はクノールの『チキンコンソメ』、販売は味の素です。一体どこがコンソメなのか・・・・・・という透明感の欠片もない色ですが、試食したなかで動物系の旨味が一番、濃厚でした。チキンの風味も玉ねぎの甘味も強いのが特徴。原材料を見るとちゃんとたまねぎを使っているのがわかりますね。(通常はたまねぎエキスか乾燥たまねぎなので)食塩相当量は2.4g。
【原材料名】
乳糖、食塩、鶏肉、食用油脂、チキンエキス、酵母エキス、デキストリン、チキンフ ァット、たまねぎ、しょうゆ、香辛料、調味料(アミノ酸等)、カラメル色素、酸味 料、(小麦を原材料の一部に含む)

味の素の『コンソメ チキン』
こちらもクノールと同じく、玉ねぎの甘味が強いです。アミノ酸の使い方のせいか、どこかチキンラーメン的な風味がします。チキンファットの香りのせいかもしれません。食塩相当量は2.4g。
【原材料名】
食塩、乳糖、砂糖、食用油脂、チキンエキス、香辛料、しょうゆ、たまねぎエキス、
酵母エキス、チキンファット、調味料(アミノ酸等)、酸味料、カラメル色素、(小
麦を原材料の一部に含む)

味の素の『コンソメ』。この商品が一番定番として売られているはずです。こうして並行で比較すると、ブイヨンとして販売されている商品よりも香辛料の風味が強いことがわかります。チキンコンソメと比べると油脂分のコクもあり、完成度が高く、料理に使うよりもこの味を活かしてそのまま使うという感じでしょう。
食塩相当量は2.5g。
【原材料名】
食塩、乳糖、砂糖、食用油脂、野菜エキス、香辛料、酵母エキス、しょうゆ、ビーフ エキス、チキンエキス、果糖、酵母エキス発酵調味料、調味料(アミノ酸等)、加工 でん粉、酸味料、(小麦を原材料の一部に含む)

最後は味の素『コンソメ 塩分ひかえめ』
香辛料の風味は普通のコンソメよりは弱いようです。塩分ひかえめとありますが、そ んな印象はまったくありません。塩分を控えて味を変えないというのはすごい技術とは思いますが、塩分ひかえめではなく『塩味ひかえめ』の商品も欲しいところ。
食塩相当量は1.4g 【原材料名】
乳糖、食塩、砂糖、食用油脂、野菜エキス、香辛料、酵母エキス、小麦たん白発酵調 味料、たん白加水分解物、しょうゆ、でん粉、ビーフエキス、チキンエキス、調味料 (無機塩等)、酸味料、ポリグルタミン酸

さて、このなかでどれが一番、料理に使いやすいのか検討します。ブイヨンに求められるのは汎用性。そのためビーフが使われているものよりはチキンだけのほうがいいでしょう。そうすれば豚肉料理にも、クラムチャウダーなどにも使えるので。

その点でいえばこちらの味の素『コンソメチキン』とクノール『チキンコンソメ』個人的にはクノールが溶けやすくて便利か、と思います。ただし箱に記載の300ccでは味が濃すぎます。他の材料から味も出ますので、目安としては500cc~600ccぐらいが妥当でしょう。

ところでほぼすべての商品に入っている『酵母エキス』。不安を感じる方もいるかも しれませんが、これは酵母から特定の成分を抽出したもので、健康食品などにも広く使 われています。食品添加物ではなく、食品に分類され、今は酵母にタンパク質分解酵素を加えて製造する方法が一般的のようです。

酵母エキスを使った食品としてはイギリスの『マーマイト』やオーストラリアの『ベ ジマイト』が有名です。例えばビール酵母の沈殿物はビールの製造がはじまると同時 に食べられていたと考えられ、およそ400年ほどの歴史があります。イギリスのシェ フ、ヘストン・ブルメンタールは『マーマイト』に含まれる旨味に注目して、コンソ メに応用していますね。この酵母エキスの弱点は入れ過ぎると『素材の味がわからなくなる』というところ。 カップラーメンとかは明らかに使いすぎのような気がしますが、そうした点も踏まえ てやはり薄めて使うのがいいようです。

市販のブイヨンの最大の弱点はゼラチン分を含まないこと。そのため煮詰めてもお店食べるソースのようなとろみがつきません。ただし裏技があります。ゼラチン分がなければゼラチン、そのものを添加してしまえばいいのです。

赤ワインソースで実験してみましょう。

基本の赤ワインソース(4皿分)
牛ひき肉(できればすじ肉をミンチにするのがベスト) 150g
タマネギ 1/2個(もしくはエシャロット1個)
にんにく 1片
赤ワイン 400cc
ブイヨン 500cc(水1lに固形ブイヨン1個を溶いたもの)
ゼラチン  5g
バター  10g

通常の赤ワインソースは赤ワインとエシャロットを煮詰めたところに、フォンドヴォーを加えてさらに煮詰めて、仕上げにバターを加えてつくりますが、今回は市販のブイヨンをベースにつくります。

まずはブイヨン。固形ブイヨンには塩分が添加されているので、あとから煮詰めることを考えかなり薄めに溶いておく必要があります。1lの水に対してブイヨンキューブ1個の割合が適当です。これだけでも充分味は出ます。

フォンドヴォー的な旨味を加えるために、肉を加えます。今日は肩ロースの切り落としを使っています。包丁で粗く刻みましょう。本当はすじ肉を使うのがベストです。

たまねぎは1/4の大きさに切ってから薄切りに。

冷たいステンレスの鍋に牛肉を入れ、中火にかけます。油は敷かなくても大丈夫です。

加熱していきます。この時、あまり肉をいじらずに焦げ目をつけるようにします。

それでも時々、かき混ぜているとこんな風に鍋底に焦げ目がついてきます。これをフランス語でSucと呼び、風味の基です。フォンドヴォーは一般的に子牛の骨はすじ肉を焼いてから煮出しますが、それのメイラード反応による風味を出したいからです。市販のブイヨンにはこの焦げ味がないので少量の肉を加えることで補います。

焦げるのはまずいのでタマネギとニンニクを加えて混ぜます。タマネギとニンニクに含まれる硫黄化合物にはいわゆる肉っぽい風味を強める働きがあります。

タマネギは水分を多く含んでいるので、入れることで鍋肌の温度が下がります。したがって火加減は中火のままでも大丈夫。

鍋底が焦げそうになったら少量の赤ワインを注ぎ、

木べらでこそぎとります。ここまできたら火を弱めたほうが無難です。さらに炒めていきます。

また鍋底に焦げ目がついてきました。

また赤ワインを投入。

鍋底をきれいにします。メイラード反応は高温ほど進むので、この工程を繰り返すことで通常は7〜8時間かけて得る反応を短時間で進ませているわけです。

肉とタマネギ濃い茶色になりました。ここまで炒めればOK。

残りの赤ワインをすべて注ぎます。

少し沸かしてアルコール分を飛ばします。

ここで登場するのがゼラチンです。フォンドヴォーは子牛の骨に多く含まれるコラーゲンが味の決め手。なので骨の代わりにゼラチンを加えます。科学的にはフォンドヴォーに含まれるコラーゲン分と粉末のゼラチンは成分的に同じです。

スープとゼラチンを加えます。

アクをとって弱火でことことと肉から旨味を抽出しつつ液体を煮詰めていきます。

30分経ちました。鍋のなかはこんな状態。

目の細かいざるか、リードクッキングペーパーで濾しましょう。

これがソースのベースになります。この状態で赤ワインのたっぷりと入った即席のフォンドヴォーといったところ。

ポルト酒を煮詰めたところにこの液体を加えさらに煮詰めればソース・ポルトに、マディラ酒を煮詰めてからこの液体を加えてさらに煮詰めればソース・マディラという具合に派生させていくことができます。

今日はそのまま煮詰めて赤ワインソースにします。

煮詰めていくと軽くとろみがついてきます。

最後にコクと照りを出すためにバターを加えます。

泡立て器で混ぜるか、鍋をゆすれば簡単に乳化します。この仕上げにバターを加える作業をモンテといいます。塩気は薄くついているので加えるなら胡椒だけで充分。

このくらいの状態で使うと

こんな感じ。透明感があり、バターは完璧に乳化しています。それは乳化剤としてゼラチンが働いている証拠。

もう少し煮詰めると

こんな感じのソースになります。肉料理に最適なソースです。普通にブイヨンキューブと野菜を煮て、スープをつくる時もゼラチンを入れると味にコクが増します。

撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!