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失敗しないマヨネーズの作り方

市販のマヨネーズは便利ですが、手作りもまたおいしいもの。一度、つくると乳化のメカニズムの理解に繋がり、様々なソースを作るときに参考になります。

手作りマヨネーズ
 卵黄 1個
 マスタード(ディジョン) 小さじ1
 サラダオイル 160cc
 レモン汁 大さじ1
  塩 小さじ4分の1

材料です。酸味にはレモン汁ではなく酢を使うのが一般的ですが、今回はレモン汁を使用しています。両方使っても複雑な酸味が出ておいしいです。

マヨネーズ作りにはいくつかのコツがあります。まず理解しておくべきはマヨネーズが乳化ソースということ。乳化とは油と水が混ざった状態。本来混ざらないはずの油と水が混ざるのは、乳化剤である卵黄のお陰です。

そこでひとつめのコツは『材料をすべて室温に戻しておくこと』です。その理由は冷蔵庫から出したたての卵黄は粒子の動きが鈍く、油分を完全に覆うことができず、分離しやすいから。

常温に戻した卵黄、マスタード、塩をボウルに入れます。マスタードは必ずしも必要ではありませんが、マスタードの種子には乳化剤となる粘液様成分が含まれており、それが油滴の表面を包み、乳化を安定させる作用があります。

泡立て器で混ぜながら、油を少しずつ注いでいきます。多くの料理本には『卵黄、酢(またはレモン汁)、塩を混ぜたところに油を少しずつ 加えていく』と書かれていますがこれは失敗の素です。
油の粒子が細かければ細かいほど、安定的な乳化が得られます。今回のつくり方ではまず卵黄を塩とマスタードによって個々の粒子へと分解し、高い粘度の乳化液をつくり、そこに油を注いでいきます。粘性がある液体に油を加えることで、油の粒子が細かくなりやすいからです。

油についてはどうでしょう? 偉大なるシェフ、ジョエル・ロブションは冷蔵庫に入れても固まらないという理由から精製度の高いグレープシードオイルを薦めていますが、実際どのような油でもマヨネーズを作ることはできます。一つだけ注意すべきはEVオリーブオイルを使うと失敗するリスクが上がるということ。EVオリーブオイルにはレシチンに似た油の分解物が含まれていて、それがマヨネーズを分離させる原因になることがあります。もし、オリーブオイル風味のマヨネーズをつくりたければ最後の風味付けに使うといいでしょう。また、古い油も同様に分解物が多く含まれているため、避けます。

最初の段階でしっかりと乳化したことを確認し、混ざったらオイルを加えることを繰り返します。マヨネーズを攪拌するときは油を細かくして、卵黄のなかに混ぜ込んでいくイメージで。最初の頃は油が表面に浮き、分散しにくいので、きっちりと混ぜておきます。

油を注いでは

混ぜる作業を繰り返します。

半分の量の油が入ると、こんな状態になります。硬くなって混ぜるのが大変になったので、液体で薄めます。今日はレモン汁でゆるめていきますが、一気に入れたりせず少しずつ加えましょう。

安定したマヨネーズをつくるには卵黄、レモン汁、酢、水、その他の液体をあわせた 体積が油の約3分の1必要、ということを憶えておきましょう。

再び油を注ぐ作業に戻ります。液体を入れると全体に白っぽくなります。なぜ、液体を加えるとコロイドであるマヨネーズの濃度が薄まるのと同時に色が白っぽくなるのか、については分子料理学の権威、エルヴェ・ティス教授は著作のなかで謎としています。この理由については色々と考察できそうです。

この段階までくれば乳化はかなり安定しているので加える油の量を増やしても大丈夫。写真はすべての油がはいった状態です。ここにまた水、もしくはレモン汁を足してゆるめれば、 さらに油を入れることもできます。多くの料理記載されているレシピでは卵黄1個に対して1カップの油という割合が一般的ですが、実際には水分さえ足していけば1つの卵黄で10カップ以上の油を乳化させることができるのです。

できあがり。市販品のものに比べて、しっかりとした味(悪く言えば 重い味)に感じられるはずです。なぜでしょうか?  マヨネーズのおいしさが油滴の大きさで決まるからです。市販品は業務用の攪拌機を使うことで、油の大きさを1mmの 1000分の1程度の細かさにしているため、味が軽いのです。しかし、家庭にある泡立て器や家庭用のミキサーではどんなに頑張っても、1mmの1000分の3程度の細かさにしかならないそう。

この乳化のメカニズムさえ理解できれば、応用は自由自在。創造的な料理で知られるシェフのピエール・ガニエールはエルヴェ・ティスと共同で、通常の油の代わりに溶かしバターを使ったマヨネーズ『キンザイム』を発表しています。いつもの植物油ではなくラー油で作れば激辛マヨネーズがつくれます。あるいは溶かしたココアバターでマヨネーズをつくったらどんな味になるでしょう。
逆に卵黄以外の乳化剤を使ったマヨネーズもつくれます。(それをマヨネーズと呼んでいいのか、というのは別の問題ですが)卵黄の代わりに乳濁液である豆乳や牛乳を使ってエマルジョンをつくれば(その場合には電動ミキサーのような力強い攪拌が必要です)卵黄アレルギーの人向けのマヨネーズ状ソースが簡単につくれます。調理のメカニズムを知ることで、クリエイションは無限に広がる、という一例です。

撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!