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都市農業について考えた

都市農業とは「市街化区域内農地とその周辺で営まれる農業」と定義されています。

昔は住宅地のなかにもあった畑ですが、今ではすっかり見なくなりました。最初の転換点は昭和43年に新都市計画法という法律が制定され、都市部の農地は届け出さえすれば転用が可能になったこと。バブル期に入ると農地の宅地化がさらに進みます。平成3年以降は宅地化する農地に対して、固定資産税の宅地並み課税、相続税の納税猶予制度の不適用といった措置がとられ、さらに農地は減りました。国は一生懸命、都市部の農地を減らす政策をとっていたわけです。

その頃と比べれば時代は変わり、都市農業は新鮮な農産物の供給や農業体験であったり、交流活動の場であったり、災害時の防災空間(これは重要)になるなどの役割もあるとして、国は2015年4月に「都市農業振興基本法」が施行し、振興に務めています。とはいえ現状の都市農園を営まれている方の経営規模は小さく、ほとんどの農家は不動産経営所得で生活している、とのデータもありますし、「地価の高い都市部で農園を続けるメリットはない」という都市農園不要派の意見もあります。

都市農業をめぐる情勢について』(平成30年9月)より引用。

草加市で都市農業を営む株式会社Daisy Fresh代表の中山さんは「不動産収入」ではなく「農業の収入」でビジネスを成立させているモデルケース。

草加駅から住宅街を10分ほど歩くとぽっかりと農園と『チャヴィベルト』という販売所に着きます。後ろに見えるのはマンションです。『チャヴィベルト』はいわゆる農家の直売所という形ではなく、農園の野菜を使ったお弁当、惣菜、加工品を販売。(いわゆる六次化ですね)加工施設を持つことで、農産物を加工した食材を学校給食に納品するなどしているそう。

「畑自体は直系ではないらしいんですが、僕で五代目なんですよ。はじめはお武家さんですとかの馬を飼うといったところからはじまったそうです」

今の農地面積は40アールほど(うち施設が12a)。給食への提供や自社で販売する他、他の農場の農産物も扱う卸売販売も行っているそう。

「生ゴミ処理機でうちの惣菜作りで出る野菜や近くのカフェのコーヒーの残渣を混ぜ込んで堆肥化させるという流れをつくっています。それでカフェに野菜を卸すという循環ですね。コーヒーの粉自体に肥料の効果はないんですけど、土が軽くなって根の張りを良くしますし、一番の効果は堆肥の臭い消しです。このあたりは住宅街なんで匂いには気を使っています。自分たちで加工できることでリサイクル処理をして畑に還元することができるようになり、地域内で循環する仕組みができました」

「都市農業のメリットはこんな風に町をつながっていけること。規模ではなくて、顔の見える範囲で回せていけることだと思っています。はじめは数量をつくればいいや、と思っていたんですが、今は都市農業としての形を追求しています。都市農業と都市近郊農業は違うと思うんですね。僕らは食材に対して、段ボールに入るサイズで出荷するという形をしないで、誰が使うかというところから作り込んでいきます。そうすることで町のなかの食材庫として見てもらえるんです。こういう風に畑を見てもらうと親の世代がどういう風につくられているかわかる。そうすると子どもさんにも食べてもらえる。ヘタをすれば一生、土にさわらないでも生きていける時代ですけど、そういうことを教えられるのが僕らが農業をする価値なのかな、と思っています」

農業の現場を取材していると、経営の難しさを痛感します。なにせ、野菜は単価が安いのです。そういう意味では規模は小さいけれども、自分の思う理想を追求できる事業は羨ましい。

──自前で販路を持つという転換点になった出来事は?

「やっぱり学校給食に卸すようになったことだと思います。はじめは農家として小松菜を入れたり、トマトを入れたりと月一回くらいしかお取引していなかったですが、そのうち近隣の八百屋さんがどんどん廃業しだして。そしたら、中山さんは市場に行っているでしょ、と。そこで農家の目線で野菜を選んでくれないか、と頼まれ。今は県内産地のものを地場利用するための流通を請け負っています」

──地産地消の波に乗ったわけですね。

「あとは細かい注文を学校ごとに聞いています。それができるのは草加がセンター式ではなく、それぞれの学校で給食をつくっているから。自分たちも加工に入るので切りやすさだとか、大きさとか、調理師さんや栄養士さんから聞きながら、つくっています。調理師さんと栄養士さんのあいだに入れるような」

「例えばミニトマト、葉大根なども給食に納品していますが、最初、大根の間引きをどういう風に処理したらいいかな、と思っていていたところ、学校の方に話したら『葉大根でふりかけを作ろうか』ということになって、最初、一校だけだったのが今は草加市内の全校のメニューになりました。」

──給食に搬入されている農家さんは「搬入時間が厳しい」などの話を聞きますが?

「それは僕、給食の会議や農家の会議で十年言っていることはあんまり変わらないんですけど、学校の納品時間が厳しいとか注文が多いとか言う人はいますけれど、そんなの農家側が対応すればいいだけです。全然、できる話です。普通の物資納入している会社は乾物一個、鰹節一個で持ってくるわけじゃないですか(笑)例えば本当にものを売って使ってほしいという気があるなら、それくらいのことはやらないと気持ちが伝わらないと思いますね」

チャヴィベルトの自慢はミツバチ。

近隣の花からハチが集めたはちみつは絶品でした。近隣住民や幼稚園、保育園などを対象とした収穫体験、小学校授業の一環として枝豆の作付け、栽培指導、実食などの食育、特別支援学校の就農支援など中山さんたちの活動は様々。

近所に農園があると新鮮な野菜がいつでも手に入る。これは生活のレベルを上げますよね。都市農園はいわば都市の余白。豊かさそのものような気がします。

人気商品のサラダミックス。

お惣菜も一つ一つ丁寧につくられていて、間違いなくおいしい。その理由は新鮮な野菜といい調味料を使っているから。

草加駅から歩いて数分の場所に農園があるというのは驚きですが、むしろどの町にも一つくらいはこんな場所があるといいな、という例でした。市街地で農業をやる難しさや法律的なことなど問題はありますが、都市農業ならではの利点を経営に生かしていくことなど、考えさせられました。


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