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鶏もも肉のコンフィのポイントは油ではなく温 度にあり

鶏もも肉や鴨もも肉のコンフィはビストロの定番料理。コンフィという言葉の語源は保存する(CONFIRE)という言葉で、元々は果物の砂糖漬けを指していたよう。肉のコンフィは元々、冷蔵庫のない時代に肉を保存する技術として発達した調理法です。

さて、このコンフィ。「油脂で加熱することによって、脂が染みこんでしっとり仕上がる」という風に説明されることが多いようですが、モダニストキュイジーヌの生みの親、ネイサン・ミアボルトはこんな風に指摘しています。(『Cooking for Geek』ジェフポーター著 水原文訳 オライリージャパン刊)

油のなかで肉を調理すると、本当に肉に変化が起こるのか? まったくわけがわからないよ。油の分子は大きすぎて肉の中には入っていけないはず だ。外側にあるはずだよ。

まったくもってその通りだと思います。 実はコンフィのポイントは油ではなく、温度にあるのです。比較実験してみましょう。

同じ鶏のもも肉を二本用意しました。まずは下味から。重量の1%の塩を振って、三時間以上冷蔵庫で寝かせます。今回は比較のために塩だけを使いましたがこの時、胡椒やローリエ、タイム、ジェニパーベリーなどを一緒に加えると香りづけになります。

塩を打ってから寝かせると、肉の色が濃くなります。タンパク質が変性したのです。これもコンフィの独特の味を生みだすポイント。表面に出てきた水気を拭き取りましょう。
もしも、鶏肉の鮮度と状態が良く、時間がなければ、塩漬けにしないで、すぐに調理をはじめても大丈夫です。というのも温度を上げていくと塩が浸透していくため。しかし、臭みが残るリスクがあるので、事前に準備した方が安全です。

比較実験ですので、そのまま油脂を使わず真空パックにかけたもの。もう片方は通常通り、オイルを加えたものを準備しました。コンフィには保存の関係で常温で固まる動物性の脂肪を使用することが多いですが、今回は植物性の油脂(オリーブオイル)を使用しています。

是非、欲しいのは恒温湯煎器です。Anova恒温湯煎器は簡単に個人輸入することでき、安価なのが最大の利点。

75度の湯で3時間加熱します。恒温湯煎器かスチームコンベクションオーブンを使うのが一番楽ですが、スロークッカーや保温器、炊飯器の保温モードと温度計を使っても大丈夫。多少、72度〜78度まで温度が前後しても影響を受けるのは一番外側だけですので気をつけながら加熱しましょう。

3時間加熱した状態です。肉はかなり柔らかくなります。これは長時間の加熱によりコラーゲンが分解されたから。

真空パックにも火が入りました。なんとなくオイル加熱の方が柔らかく見えますが・・・・・・どうでしょうか?

皮目がぶよぶよしているので、香ばしく焼きます。この工程で真空パックの肉の外側にも油を塗ることになります。鶏肉は丸いのでフライパンのカーブを利用するのがコツです。理想はバターを溶かし、スプーンでかけながら焼くことです。バターには普通の油脂とは違いタンパク質(と水分)が含まれています。それが香ばしさを生み出してくれるからです。

今回は実験ですのでシンプルに焼きました。さて、比較してみましょう。

肉はほどけるほど柔らかく、ジューシー。おいしいです。さて二つの味の違いは?

油で加熱しても油を使わなくても、味はまったく同じです。このことからコンフィ のポイントは油でなく、温度と時間にあることがわかります。もしも鴨の脂の風味や ラードの風味をつけたければ最後の焼く工程で用いるか、表面に塗るといいでしょ う。

またコンフィは寝かせたほうが旨くなる、という意見がありますが、酵素はすべて失活していますし、菌が増えないように (保存性を高めるために)密封しているわけですから、根拠はなさそうです。ただ、油は酸化するためやはりできるだけ早目に食べるのが賢明。ハロルドマギーはこんな風に言っています。
〈長時間保存したコンフィには油の酸化臭と若干の腐敗臭がある。それも伝統的な風味である〉

コンフィをつくる際のポイントは以下のとおりです。
 1. 1%重量の塩で味付けをする
 2. 温度は高くても75度以下(理想は68度)を守る
 3. 充分に加熱してコラーゲンを分解する
水を媒介する調理とは違い、旨味が流出しずらいのがコンフィの特徴。他に豚肉(それも肩ロースなどのコラーゲンの多い部位)や鶏の砂肝などもコンフィに向いています。文明の利器の力を借りれば驚くほど手間がかかりません。便利さを享受して、色々と試してみましょう。

撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!