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粒あんの作り方

先日イベントで必要があったので、小豆を炊きました。『小豆の炊き方』という記事と重なる部分もありますが、今回は粒あんにしたてます。あんこって人によって作り方も味も違いますよね。みんなちがうところがまたいい。

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小豆 200g
グラニュー糖 200g

まずは小豆を準備。変色したり皮が破けたりしている豆を除去しますが、売られている小豆はちゃんとしているのでその必要はないかもしれません。小豆にも色々とグレードがありますが、手に入るもので大丈夫。

小豆をよく見るとへそ(胚座)が見えますよね? 大豆などは全体から水を吸いますが、小豆はここからしか水を吸わないので、加熱して皮を柔らかくしながら、吸水させていきます。水に浸けてから炊くと加熱時間は短くなりますが、水を含んだデンプンが急激に膨張するので皮が破れやすくなるというデメリットも。というわけで小豆は水に浸さずに皮がやぶけないようにゆっくりとだましだまし煮るのがオススメ。

でも、別に水に浸けてもいいんでですよ。古い豆などは乾燥しているので水に浸けてから煮たほうが時間が節約できるかもしれません。ただ、小豆は皮が硬いので吸水に20時間かかるので、昔から小豆は水につけないのが普通です。女子栄養大学の松本先生は「水につけることで胚座が破れ、成分がつけ水に流出するので、冷蔵庫がない時代は浸け水が腐敗しやすかったので水戻しはしなかったのでは」と推測しています。

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まずは小豆をよく洗います。サラサラとした心地のいい音がします。妖怪小豆洗いです。

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ここでセオリーから外れた裏技を。通常は小豆は冷たい水から徐々に加熱をし、沸騰したところで冷たい水を加えて一度、温度を下げ、さらに煮るのがセオリーです。このとき加える水のことを〈びっくり水〉といいます。温度を50℃以下にするので結構な量の水が入るので、大きな鍋が必要です。びっくり水を加える目的は急激に温度を下げることで胚座を切り、吸水を早めるとともに表面が煮える速度にブレーキをかけて、そのあいだに中心部へ水を浸透させる働きを狙ったものです。

今の小豆は保存状態もいいので、乾燥しているということはまずなく、吸水にそれほど神経質になる必要はありません。そこで湯炊き=熱湯から小豆を炊きます。いきなり熱い水に入れると胚座に切れ目が入るので、吸水も早いですし、早く煮えます。

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弱火でことこと、10分煮ました。この段階で煮汁の味見をして、色を確かめます。紅茶のようになっていればOK。煮汁、渋いですか? それならタンニンなどが溶けた証拠です。

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煮汁を一度、捨てます。これを渋切りといいます。ところで、最近の小豆はアクが少ないので渋切りは必ずしもしなくてよくなっています。渋切りをしないと濃厚な味になりますが、砂糖の量もそれなりに増やす(そしてグラニュー糖ではなく、上白糖などの甘みが強いものにする)必要があります。今回はすっきり目のあんこにしたいので、渋切りはする、砂糖はグラニュー糖を使うという方法を選択していています。

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この液体、ポリフェノールが多く含まれていて体にもいいので、捨てるのは少々もったいない気もします。ただ、お茶と同じで渋いので無理に飲む必要はないですが……。お湯で薄めると飲みやすいですよ。

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新しい水を加えて、さらに煮ていきます。沸騰するまでは強火で、それからは弱火です。

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5分経過したら、もう一度煮汁を味見。この段階で渋ければもう一度水を捨てて、新しい水で煮ます。

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このあたり、風味もどんどん弱くなるので、渋みと風味はトレードオフの関係にあります。今回はすっきりとした上品な粒あんを目指しているので2回も渋抜きをしました。

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さて、いよいよ本格的に煮ていきます。豆の上2cmほどになるように水を注いで強火にかけ、沸いたら弱火に落とします。

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泡が浮いてくるので除去します。これはサポニンという体にもいい成分なのですが、やはり味を見ると多少のアクは感じるので。そのまま弱火で1時間。

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小豆がすっかりやわらかくなれば大丈夫です。ここに砂糖を加えてさらに煮ていけばぜんざいとか煮小豆ですね。ここまでが『本煮込み』で、この段階できちんとやわらかくしておかないと、この後の工程ではやわらかくなりません。崩れるのが怖いので火を止めて30分置き、余熱を通してから味見をし、硬ければまた火にかけるという形が安全です。

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今回は上品な仕上がりにしたかったので、弱い流水をあてて、すこしだけさらしました。この工程、昔の人はよくやるのですが、小豆の風味はやはり抜けます。日本料理全般にいえることなのですが、とにかく昔の仕事は野菜であれば炊いてから水でさらし……とか、白身魚も茹でてから水にさらし……と水で晒す工程が多いのです。それが贅沢だったのでしょう。家庭料理ではもちろんそんなことをする必要はまったくないので、あまり晒しすぎないようにしましょう。

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すっかりやわらくなった小豆をいよいよあんこにしていきます。

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砂糖を投入。

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全体を混ぜます。小豆がやわらかくなっているので潰さないように注意。

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弱火にかけるか、15分ほどおいておいても砂糖が溶けます。この工程を蜜漬けといって一晩おいたりするのですが、そのまま炊いてもこのくらいの量であれば味はたいして変わりません。

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中火でぐつぐつ炊いていきます。このくらいでも使いやすいかもしれないですね。

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あんことして使うにはこのくらいまで煮詰めます。ここで塩を加えると対比効果で甘みが強くなりますが、甘いものがいくらでもある現在、わざわざくどくする必要もないか、と思うので、僕はいつも塩は入れません。

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あんこを容器に移して冷まします。お菓子が入っているような木箱の蓋があればそこに載せておくと蒸気が蒸れず、水分が抜けいい状態になります。木箱がなければリードキッチンペーパーの上で冷ましてください。

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濡れたクッキングペーパーをかぶせた状態で、冷めればでき上がり。もう一つ、あんこの味を大きく左右するのは砂糖を加えてから煮込む時間です。煮込む時間が長いと砂糖がカラメル化し、焦げた香りが出てきるので、小豆の風味はもちろん弱くなります。もちろん、このあたりも好みと用途なので、例えばとらやのあんコッペに挟んであるあんペーストなどはかなり思い切った焦がし方をしているな、と思います。まとめるとあんこづくりのポイントは〈渋切〉〈本煮込み〉〈砂糖を入れてからの加熱〉の三点に分かれている、ということです。

この動画はレトルトのぜんざいの製造工程ですが、以前、あんこメーカーを取材したときに「あんこのおいしさというのは小豆の青臭さと青臭さが抜けきる瞬間のほんの限られたところにあります。たくさん煮込むほど色も悪くなるし、豆の旨味もそれだけ抜けてしまう。かといって渋が抜けないと青臭くなる。そこの見極めが非常にデリケート」と聞きました。(このメーカー、事情があって経営体制が変わり、個人的にはちょっと残念なのですが)小豆と砂糖、というシンプルな材料なので、工程の細かな部分で味の差が出てくる、ということですね。

撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!